クラスの平和を守っていた話

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最初に断っておきますが、良い話ではないです。告白です。

クラスの平和の話の前にまず、学生時代のわたしの立場の話をさせてください。

学校のクラスには、役割というものが存在します。

ウェイ系、運動部系、オタク系、真面目系、いじる側、いじられる側、その他諸々。

わたしは、いわゆるバランスを取る役でした。わかりやすく、以下ではバランサーと言わせてください(笑)

気弱で、中身がなく、人の顔色ばかりを窺い、それでいてそのことを隠すのが非常にうまい人間がよくなるポジションです。空気のような人間で、誰かの親友になれることは少ないですが、かわりに嫌われることも稀です。

バランサーがいるといじめは起こりにくいです。長年バランサーを務めているわたしがいうのだから間違いないです。なぜなら、バランサーは人知れずクラスの平和を守っているからです。

嫌われる子というのはどこにでもいます。それは、その子の特性上どうしようもないことです。周りと合わない、周りの我慢ができるレベルを超える、なんというか、人間関係を築くうえで、需要がないんです。今、すごくひどいことを言っています。申し訳ないです。

それがいじめに発展しないようにする、それが、バランサーがしていることです。マジです。どうするのかというと、その子の友達ポジションを維持するんです。その子が悪口を言われそうになったり、仲間外れになりそうな雰囲気になったら、「そっち側」へ付かないようにします。悪口をそらしたり、いじめられそうになっている子と仲良くします。すると、バランサーは嫌われにくい人間なので、「そっち側」の子たちも、なんとなくやめます。ちなみにバランサーは、自分がいじめられるという発想には至りません。なぜなら、人に嫌われない人生を送ってきているからです。

なぜバランサーがそんな慈善事業的なことをするのかというと、それはただひとつ、気が弱いので、だれからも嫌われたくないからです。いじめられそうなその子にさえ、嫌われたくないのです。

このようにして、わたしは小学校から高校まで、バランサーを務めていました。

相槌だけがうまい、中身のない子供でした。

小学校の時に、クラスで嫌われていた気の強い子に「あなただけが友達。」と手紙で書かれたり、中学校の時に、クラスで嫌われていた空気の読めないあの子に、「あなたがいるから学校に行ける。」言われたり。そういわれることに、特に何の感情もわかないような子供でした。むしろ、少し困るとさえ、しかし、それでいてどこか優越感を感じるようなさみしい子供でした。

そんなわたしが高校に上がった時の話です。本題です。

私の入った高校は校則の厳しい真面目な私立学校でした。

3年間ずっとわたしが一緒にいた子がいました。幼いころから、知っている仲の子でした。

仮に、A子とします。

A子はいわゆる鬱病で、学校に来るのがやっとという子でした。クラスにはもちろん、部活にも、文芸部に入っていたものの、ほとんど、顔も出していませんでした。

しかしそうは言っても、卒業するには単位が必要でした。A子は必死に保健室まで登校し、恐怖と戦いながら授業時間だけ教室に顔を出し、そして授業の半ばになると(半分出席すると単位がもらえるのです)そっと保健室へ帰っていきました。

わたしは3年間、A子に付き合い続けました。

学校をやめてほしくない、死んでほしくない、というのもありましたが、その大きな理由はやはり、彼女に嫌われたくなかったこと、そして最低なことに、クラスの人に「あいつ見離したな」と思われたくなかったことです。

昼休みは保健室まで迎えに行き、休み時間も付きっ切りで、病気のため上下する気分を、変わらぬ笑顔で迎え入れ続けました。すこしおっちょこちょいなふりをして、空気を明るくする努力をしていました。わたしの中で描く最高のクラスメートです。なんというか、誰に踊らされているのかもわからないピエロでした。

先生に、いつもありがとうとよく言われました。

保健室の先生にも、よくお礼を言われました。

親もなぜか知っていて、ほめられました。

微妙な気持ちになっていました。

限界が来ることもありました。

わたしだって、明るく強いあの子たちと食事をして、ばかみたいに笑って休み時間をすごいしたい、と思うことも、何度もありました。ものすごい後悔をしたので一度だけでしたが、わざと不機嫌な顔でA子を迎えに行ったこともありました。しかし、「見離したな」と思われる恐怖心からA子から離れることはありませんでした。

一度、先生に相談されたこともありました。

「あの子が何に苦しんでいるのかがわからない。」とおっしゃっていました。泣きそうでした。普段、生徒にそんなことをこぼすような先生ではなかったので、そうとう追い詰められているのだろうと思い、「私もわかんないですよ。しょうがないですよね。」と笑うのがいいのかなと感じ、そうしました。信頼されてしまっているのだろうかと、どこかで思いました。

A子は、クラスの女の子には少し嫌われていました。理由は単純で、「なんであの子だけ許されているのか。」

先ほども書いたように、厳しい学校でしたので、みんなストレスが溜まっていました。そんな中、一人だけ優遇されているように見える彼女に腹が立ったのでしょう。しかも、A子はなかなか美人で、なんというか、モテました。授業にこないのに、モテました。それも、やっかみの種だったのかもしれません。

しかし普段はあまり教室に来ないこともあり、また、クラスメートもそこそこ大人だったため、この問題はほぼ明るみに出ず、クラスはそれなりに平和でした。

しかしこの問題が明るみに出たことが一度ありました。文化祭です。

私の学校では、最上級生は劇か合唱をすることになっています。私たちのクラスでは、合唱をすることになりました。A子は歌がうまく、わたしのそそのかしもあり、この合唱祭でリーダー的な役割に立ち、場をしきっていました。そしてそのことが、クラスメートの怒りを買いました。

普段保健室にいるくせに、なにを調子に乗っているのだと。そういうことのようでした。普段はA子をいい目で見ている男子も、このときは敵でした。アイツは面倒だと裏で言っているのが伝わってきました。

中身が空っぽながらも、わたしは、クラスメートには、A子のフォローをし、A子には、クラスメートのフォローをし、合唱が成功するよう、奔走していました。しかしなかなかうまくいきませんでした。

普段人を敵に回すことがないため、完全に参ってしまい、(A子とわたしVSクラスメート状態でした)A子が休んだ日に保健室でめそめそ泣いていました。そうしたら先生がやってきて、慰められました。そこでおそらく、先生はわたしの立場を「A子さんをかばい続けているいい子」だと思ったのでしょう。

結局合唱はうまくまとまらず、そこそこの出来で本番を終えました。

それ以降、A子とクラスメートの間になんとなく溝ができました。

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