野の家

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「やっぱりなあ」

 カナ婆さんはたっぷり皮肉を込めて言った。

「一つだけ聞いてもいいかい?」

「なんかい?」

「いつもおばちゃんところにおるけど、白髪頭のおじちゃんたちは、もしかして、会社を辞めたんかい?」

 真太ときたら、こちらの聞きづらいことでもずけずけ言う。

「それが、どうかしたんかい?」

 カナ婆さんが顔を強ばらせて突き返した。眉間に寄った縦皺はカナ婆さんの心の内をそのまま映し出していた。真太はカナ婆さんの態度が豹変し戸惑い色を隠せなかった。真智子は本人の口から聞いたわけではなかったが、白髪頭の男は自慢の娘婿であった。その娘婿は大手の電気メーカーに勤めていたがリストラにあったらしい。話題の少ない村だけに、寄ると障ると娘婿の話で持ちきりだった。

 一番手がつけた火が一本の火の道となって燃えていく。二・三十メートル遅れて二番手の火が後に続く。火がチロチロとおとなしく燃えているのを、真智子は見ると野が笑っているように映るし、風呂の中で鼻歌を唄っているようにも聞こえるのだった。

「そんなこっちゃ、火を消しているんじゃなくて、炭火を団扇で煽っているようなもんじゃ」

 亀雄から声をかけられた真智子は、自分を取り戻すまで間があいた。ただ、真智子は火ボテでバタバタと火の周りを叩いているだけであった。

「そうじゃねえ。一度、バタッと消したら、一呼吸おくんじゃ」

 亀雄は言いながら火ボテの使い方を実演して見せてくれた。真智子は言われるままにしていると、火はよく消えて体力を消耗せずにすんだ。

 炎の明かりの中で亀雄は笑った。ここ数年間、真智子は実家へ戻ったり出たりで、暗い話ばかり続いていたから、亀雄の笑顔を見たのは久しぶりだった。まだ、笑顔が残っていてよかったと真智子は思ったら、真太がカナ婆さんから誘導尋問にかけられて喋っていたことなど忘れていた。

 陽が落ちるにつれて、炎の帯が延びていく。真太は炎が燃え上がる度に歓声を上げていた。煙が風向きに合わせて蠢く。火消したちは等間隔をとりながら火の帯に沿って移動していた。炎に当たった方の頬は熱い。逆の頬は山から吹き下ろす粉雪が射す。

 先程まであんなに静かに燃えていたのに、ここへきて急に火が暴れ出した。一番手を行っていた組合長の火が、真智子のみている前で飛んだ。火の柱が上がった。風が出てきたのだ。

「一番、マテ!」

 亀雄は組合長に制止したが耳まで届かない。火が風に煽られて枯れ葉の先端部分を焼いていく。火が風を呼び起こす。二番手が危ない。火に巻かれる恐れがある。火の粉が飛び散る。

「真太、ここから動くんじゃないよ」

 真智子は真太に釘を刺すなり、一番手に知らせに走った。煙に巻かれると息ができない。大蛇が獲物を狙っている時のように、黒煙の中から赤い舌をペロペロ出す。気は走るが足がついていかない。火の玉がころころと転げ落ちた。牛の糞が乾燥していて、それに火が点いて転げ落ちたのだろう。牛の道に引っかかって止まった。赤い火の帯は続く。

「ああ、危ない!」

 真智子は突拍子もない声を上げ煙の中を走った。火の玉の転がった道筋に炎が燃え広がっていく。二番手に行っていた浩志の姿を探し出せない。真智子は自分では声をかけているつもりだが、炎の音に消されて通じない。

「二番、ニゲロ!」

 亀雄の強く尖った声が背中に突き刺さった。メラメラと枯れ草を燃えつくしていく。陣取りゲームでもしているように、枯れ野の部分は狭められていく。その分だけ真っ黒い陣地が広められていくのであった。

「分かった、分かった」

 浩志の野太い声が返ってきたと同時に、ゴットと音をたてながら炎は舞い上がった。天が真っ赤に血の海に染まっている。炎が風に押し返されておとなしくなってきたものの、真智子の鼓動は乱れたままだった。

 野焼きをしようと思ったら、半年前から防火線切りをしておかなくてはならない。手間のかかる重労力の作業であった。

 防火線切りは九月の中旬までに終わらせなければならなかった。周りが青草の時に防火線を刈っておく。一週間もすると刈った草が枯れる。それを真ん中に集め地肌がでるまで焼くのである。早過ぎると焼いた後に芽が出て、それが枯れると防火線の役をはたさなかった。遅過ぎると周りの草が枯れかけているから火が入りかねない。風に煽られたら青草でも燃え広がっていく危険性がある。周りに火が移らなくて、しかも刈った後から芽が出ない時期が防火線切りに最適である。これを誤るととんだ失敗をする。

 防火線の幅は五メートルから六メートルが目安であった。できるだけ広く開けていたほど、野焼きの当日は安心していられる。ところが、この防火線切りが難儀である。平らで足場のよいところばかり刈るのではない。岩が転がっているところもあれば、傾斜のひどいところもある。今でこそ草刈り機があるから随分楽にはなったが、一昔前までは全て手刈りであったから、防火線切りだけでも三日も四日もかかっていた。

「わしとこは、どうなるか知らんけど」

 勝ち気なカナ婆さんにしては弱気な発言であった。真智子は返答のしようがなかったから、側にいた亀雄に目で合図した。

「まあ、考えようじゃが。悪いこつばかりはねえよ」

 亀雄が受け答えしてくれた。真智子は耳が痛かった。

「あん歳じゃ、どこも雇ってくれるところはあるまいから、帰って牛飼いでもすりゃいいんじゃけど」

 トメは睫をピクピクさせながら言った。

「そうじゃなあ。出て行く者もおっちょれば、わしとこみたいに帰ってくる者もおっちょるもんなあ」

 亀雄は言った後で曖昧に笑った。今、村は様変わりしつつあった。脱サラしてわざわざ辺鄙な村を探してやってくる者がいる。また、会社を退職した後、田舎で牛飼いをしながらのんびり暮らしたいと言う者もいた。真智子自身のように心に傷を負って帰ってくる者も少なくなかった。

 ただ、心になんらかの傷を負った者にとっては、いくら医学が進もうと、薬では癒されない。かえって、幼い時分に肌で接した場所や人里離れた自然の方が、壊れた心を修復できるのだと言うことを、真智子は遠回りであったが、今度の離婚騒動で知らされた。

「・・・」

「あれこれ言ったりしたりしてきたが、成るようにしか成らんばい」

 亀雄はくぐもった声で空白を埋めた。真智子には説得力のある言葉だった。

        【八】

 真智子は人の集まる所には、できるだけ顔を出したくなかったが、牛飼いしていると自分の好き勝手なことはできない。

 牛の競り市の朝である。小屋から子牛を連れ出そうとすればするほど抵抗して出てこない。叱っても宥めても聞き入れるものではなかった。子牛が意地を張り出したら亀雄の力では適わない。そこへ真智子が行き合わせて声をかけると、小屋の中からのそのそと出てきた。

 市場の広場に繋がれた子牛たちが、咽の奧から声を絞り出して鳴く。それも一斉に、三百頭近い子牛に鳴かれると、地が響く。周りの山に撥ねた声が天から降ってくるようだった。皮ジャンパーを着た仲買もいれば、長靴を履いた畜産組合の職員もいた。真智子は子牛の競りが始まる前までは、少しでも高値がつけばいいと期待しているが、いよいよ鈴が鳴って競りが始まると、これとはまったく逆に、どうか買い手がつかずに売れ残ればいいという、矛盾した感情が募ってくるのであった。

 一頭、一頭が競り場に引き出されていく。抵抗して便を漏らす子牛もいた。真智子の家の子牛の番がきた。押しても引いても動かない。

「怖くないから、大丈夫だよ。さあおいで」

 真智子が宥めながら子牛の首筋を撫でてやると、大きな溜め息をするなり重い足取りでついてきた。

 真智子の家の子牛の初値は、十八万円から始まり十九万円、二十万円と競り上げられ、最後の一声で三十二万円で競り落とされた。

 買い主のトラックに乗せらている時、大きな黒い目に、大粒の涙を溜めていたのを真智子は見た。そのことを、トメに話したら「牛が涙を流すなど始めて聞いたわ」と一笑に伏せられた。

        【九】

 火が入ると気の抜く間がない。萱藪に火が入ると轟音をたてて、草丈の二・三倍の高さまで炎が昇っていく。真太は火ボテで真智子の周りの残り火を消しながらはしゃいでいた。

 その時である

「だれかおらんかい。早くきてくれ!」

 亀雄のけたたましい声が真智子の耳に突き刺さった。見ると、防火線を越えて櫟山に飛び火していた。真智子は自分の目を疑った。すぐ側は杉山である。真智子が駆け寄って行くのと同時に、後から二人、三人と息を弾ませながらやってきた。杉山に火が入ったら手のつけようがない。

「こっち!、こっち!」

 悲鳴が飛ぶ。真智子は亀雄から火消しの手ほどきをしてもらったことなど吹っ飛んでいた。煙が風に流されて押し寄せてくる。風上にいると息もできない。パチパチと火の粉を飛ばしながら、煙に捲かれて火が燃え盛る。真智子は手にしていた火ボテで打ち消す。一方を消し止めたかと思うと、また一方から火の輪が広がっていく。また燃え出す。カナ婆さんは汗びっしょりになって打ち消していた。真智子は声をかけるが、火の弾ける音に打ち消されて届くものではない。

「おおい、だれかいないかい?」

 櫟山で火を止めなければならない。杉山に火が入ったら自然消滅を待つしかなかった。手にした火ボテの先端は千切れて、火に焼かれて骨だけになっていた。

 谷から吹きすさむ風の音と炎の音とが入り交ざってゴオーッと濁った音をたてる。萱の株に火が移った。風が暴れると、炎がのたうち回る。轟音を発す。櫟の葉っぱを燃やしながら火が昇っていった。真智子の身が竦んだ。風が山肌にぶち当たるたびに炎が舞う。次の枝に火が移った。天を炎の塊が走る。地が弾ける。火の音が天空を駆け抜けていく。ゴウゴウと火の粉を巻き上げる。

「逃げろ!」

 竹が割れるような男の鋭い声が走った。火の勢いは衰えることを知らない。風の流れに従って炎が蛇行する。炎を包んだ煙が手当たりしだい焼き尽くしていく。

「そっちにいったら、危ねえ!」

 女の悲鳴が山に撥ねて返ってきた。亀雄は訳の分からぬことを口走りながら、長い棒切れで火を打ち消している。枯れ木が燃えながら倒れた。口をぽかんと開けたまま突っ立っている者もいれば、一ところにじっとしていることができずに、うろうろして回っている者もいた。

「こうなったら、見ちょくしかねえなあ」

 火の帯は轟音をたてながら燃え広がっていく。真智子はこの轟音は何かに似ていると、あれこれ思いを巡らしてみたが、堰を切って押し寄せる濁流以外に思い出せなかった。ただ、水も火も怒り狂ったら、人間と同じ喚き声をたてるのだと真智子は思ったとたん、かっての自分の姿とダブってきた。

        【十】

 忘れていた輝久の顔が真智子の頭を過ぎった。実は、こうなるまでに真智子は自分なりに努力したつもりだったが、もう限界だった。

 今でもあの日の出来事を思い出すと鳥肌が立つ。輝久の帰ってくるのを待ち構え、これまで積もりに積もっていた怒りが爆発した。

「貴方の顔なんか見たくないわ」

 真智子は一言いうなり、怒りに震えながら睨みつけた。

「黙れ!」

 輝久は怒鳴り上げ食卓の台をひっくり返した。その音で真太が目を覚まして泣き叫ぶ。真智子は喚き散らしながら手当たり次第、物を投げつけた。茶碗が窓ガラスに当たって破片が飛び散る。真太はそれを止めようとする。跳ね飛ばす。ガラスの破片で真智子は手を切り血が垂れている。野焼きの火が飛び火したようなものだ。火ボテで消そうとすればするほど、その煽りで火の勢いを増す。

「かか、これ!」

 真太がぼそっと言ってタオルを差し出してくれた。この一言で、真智子の中でたぎっていた興奮が鎮まっていった。わずかばかり残っていた未練も、もしかしたらというささやかな期待も、これで断ち切ることができた。

 実家に戻ってきたのは、これで三度目であった。居間の壁には和夫が高校二年の時、校内のマラソン大会で八位になった賞状もあれば、亀雄が飼っていた牛が郡の品評会で二等になった賞状も、昔のままであった。

 居間の窓を開けたとたん、真智子の目に久住の山々が飛び込んできた。一言も理由も聞かずに受け入れてくれた。トメの泣き言も周りの視線もさほど気にならなかった。

「ばば、肩を叩いてやろうか」

 真太は自分から申し出た。亀雄は自分から立って焼酎を注ぎ足していた。トメは愚痴をこぼしながら真太の好物だった石垣餅を作ってやっていた。真太は広告の裏紙に、漢字で自分の名前が書けるようになったと、誇らしげに言いながら「石まつしん太」と書いて見せている。この前、真智子が帰ってきた時よりも、また、トメの体が一回り小さくなったみたいだった。

        【十一】

「泣き面に蜂とはこのことじゃねえの。どうしてくれるんかい?」

 燃え盛る火の中から人間の声がした。真智子が振り返ってみると、神経痛で悩まされていたトメが、いつやってきたのか髪を振り乱して道神様に手を合わせていた。

「これじゃ家族の口が干上がる」

 トメはまるで人間でも話しかけるように懇願していた。道神様は聞こえているのかいないのか、無表情である。

「早よ、火をおとなしゅうしておくれ」

 トメは生唾を飛ばしながら声を粗げて道神様に突っかかっていった。

「これまで、ただの一度だって祭りをやらんじゃった年はなかったし、なおざりにしたつもりもない。誠心誠意努めてきたじゃねえの。何とかしておくれ」

 トメは手を合わせたまま子供でも宥めるように、恩着せがましいことを申し上げていた。いくら泣きつかれようと、道神様こそはた迷惑である。

「あんたは、わしの言いよるのが分からんのかい」

 トメは咄嗟に立ち上がるなり、道神様を揺すりながら責め立て始めた。一人の力で動くものではない。それでもトメは諦めようとしなかった。

「なあ、早く火を消してくれんと、杉山に入るわ。こん通り頼むから・・・」

 ここにきて、トメは泣き落としにかかった。真太は一歩下がったところから、トメの奇怪な言動に目を奪われていた。真智子の目には道神様がべそをかいているようにも取れたし、村人の視線を避けているようにも取れないことはなかった。

        【十二】

 風向きが変わった。先程まで燃え狂っていた火の精が衰えていった。風は時によって火を怒らせることもあれば、逆に火を鎮めることもできる。

 亀雄は飛び火を消し止めたところで、裾野にいた彦市に種火で大きく円を描いて合図を送った。彦市からゴーサインが返ってきた。防火線の内側からつけた火が上から下へ燃え広がる。迎え火は下から風の力を借りて山頂をめざして駈け昇っていく。子牛が野に放されたように火が天を焦がしながら燃え広がっていく。真智子は言葉を失ったまま見とれていた。

「だれも火の下にゃおらんじゃろうなあ」

 彦一の声が山に撥ねて返ってきた。野焼きの鉄則として「火の上にも下にも行くな」と言われていた。上にいれば炎に巻かれる恐れがあるし、火の下にいると冬の寒で浮き上がった小石が、枯れ草が燃えたために転がり落ちてくることがある。牛の道に引っかかってくれればいいものの、転がり落ちた小石の当たり場所が悪かったら命を落とし兼ねなかった。

 迎え火はゴウゴウと火の音をたてながら、炎は高く低く蛇行しながら一気に燃えていく。火の粉が飛び散る。いくら、火が暴れようと、もう飛び火する心配はない。無口がちになっていた村人たちの間から笑い声が上がっていた。火ボテを肩に担いでいる者もいれば、煙草を吸っている者もいた。真太は真智子の手を振り払って亀雄の側へ行ったきり返ってこなかった。

「杉山に火が入らんですんだ」

 村人たちは口々に言い合っていた。上から下ってきた火と、下から上に昇ってきた火とが一つになって、ゴオーッと音をたてて燃え上がった。そうして、消えた。火の上った櫟は黒焦げたまま立っていた。灰の中に火の種が点々と残っていたが、それも時間が経つにつれて消えていった。

「大事に至らんで、よかった。よかった」

 トメはだれに話しかけているのかと思ったら道神様だった。

「トメさん、足は大丈夫かい?」

 カナ婆さんが声をかけた。トメの耳まで届かぬ声ではなかったが、意味のないことを口にしながらタオルで頬包みしていた。亀雄は自分が着ていた上着を真太の腕に通してやっている。トメの顔に笑顔が戻ると、道神様まで笑っていたようだった。

「そういっちゃなんだが、わしも長年野焼きをしてきたが、こんなこっは珍しい」

 組合長が頭を傾げながら言った。防火線をいつもだったら五メートル開けるのだが、万一のことがあったらと思って一メートル余分に開けていた。

「おっちゃん、もしかしたら土が燃えて火が移ったんじゃねえんかい?」

 横から真太が口出しした。

「そんな、馬鹿なこつがあるかい」

 カナ婆さんの口から豆鉄砲で撃ったように蔑んだ言葉がポンと出てきた。

「だって、じじがこの前、土が燃えると言っていたもん」

 真太は謎解きでもするように言った。そういえば、真智子は思い当たる節がある。いつとははっきりしないが、言葉の言い回しこそ違え、亀雄の口から土の燃える話を耳にしたことを覚えている。

 防火線を開ける時のことだ。「広く開ければいいというもんじゃねえ。地肌が見ゆるまで開けちょかんと、こんな乾燥しちょる時にゃ、土が燃えるこつもあるからなあと爺ちゃんから言われ、防火線を開け直されたこつがある。子供心にそこまでせんでんよさそうだ思いながら、爺ちゃんの手伝いをしたこつがある」と話していた。

 ああ、そうか。土が燃えると言っていたのは、地肌の上に積もっている腐葉土のことだったのか。腐葉土だったら充分燃えると考えられる。

「やっぱりなあ」

 真智子の頭の隅に引っかかっていた疑念が払拭された。あちこちでとろとろと燃えていた火の塊が小さくなっていくにつれ、真智子の乱れていた動悸が正常に戻ってきた。天に吊された月の下をちぎれ雲が流れていく。雲の切れ間、切れ間から洩れた月の光が牛の道に跳ねて煌めいていた。

「じじ、帰ってこんでいいもんが帰ってきたけど、猫の手を借りるよりよかったじゃろう」

 真太は言うなりことことと声をたてて笑った。顔は煤で透き間がないほど黒く塗りつぶされ、その上から汗が流れてナメクジが這ったように白い跡がついていた。

「まあなあ、長い間にゃいろいろあるが、今晩のところは、良かった、良かった」

 亀雄は言いながら真太の頭を撫でていた。真智子は見て見ぬ振りをして、クスッと笑った。

                                     

終わり


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