フツーの女子大生だった私の転落の始まりと波乱に満ちた半生の記録 第36話

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玲子に代わって私が指揮をとることで

少しずつパテオの人気に陰りが出ていることは

オーナーの川崎の知っていた。


もしかすると過食嘔吐のことも

バレていたのかもしれない…


彼の私への態度も次第に変わっていった。

いつしか、私は彼のマンションに足を運ぶことも少なくなった。



玲子がパテオを去って3カ月が過ぎた頃

月例会の夜、スタッフ達全員の前で

私は、理由は言わずショーの講師を代える旨を伝えた。


ショーの講師は私の考えにいちいち逆らうので

辞めさせて新しいスタイルのショーを作ろうと思っていた


その時、突然ミユが立ち上がり

「同意できません」と言った。


講師の演出がパテオの人気を支えて来たのに

なぜ代えるのか理解できないと言うのだ。


遠回しにショーのことに私がでしゃばるのを

否定しているように聞こえた。


「私の考えに従えないというなら、ここを辞めたら?」

私がそう言うと

驚いたことに、ミユは薄ら笑いを浮かべて言った。


「またですか…自分が気に入らないとすぐクビにする。

でも、いいんですか?私が辞めても?」


挑発的な眼差しは私を怯ませるには十分だった。


確かにミユはパテオの稼ぎ頭だ。

賢い経営者なら…玲子なら

絶対、彼女を辞めさせたりしないだろう。


総勢50人のスタッフの視線が私とミユに集中していた。


その時だった。

その日欠席すると言っていたはずの

川崎が進み出て姿を見せた。


「ミユの言う通りだ。講師の変更はナシだ。

杏、分かるな?これはこのパテオのオーナーである俺の命令だ」



川崎の顔は怒りが滲んでいた。

いつになく冷めた目だった。


私は何も言い返せなかった。



すでに知っていた。

川崎が私に呆れ、気持ちがなくなっていることに。



そして新女王としてミユに関心を持っていることに。


数日前、川崎の車からミユが降りてくるのを偶然見かけた。


私はたった3ヶ月で川崎から見限られたのだ。


あの玲子を20年もそばに置いたというのに

私はたった3ヶ月で…



この女はパテオを任せられる器じゃない


そういう烙印を私は皆の前で押されたのだ

オーナーである川崎本人に…



私は、その夜気丈に振る舞っていたが

心の中は焦りと不安しかなかった。


会いに行こう


川崎のマンションへ行こう

もう一度彼にチャンスをもらうのだ

ここまでくるのに、どれだけのものを犠牲にしてきたか考えるのだ

色目だってなんだって使って、どうにかしなければ


店が終わると私は急ぎ足で、通りへ出た。

タクシーを拾い彼のマンションに行こうと思った。


合鍵ならある。

こんな週末の夜、川崎が部屋にいるわけなかった。

でもいい、朝まで待とう。



通りへ出てタクシーを拾おうとしたが

金曜日の夜の繁華街近くの大通りを走るタクシーは

どれも空きはなかった。

ちょうど終電が過ぎたばかりだった。

   

私はいてもたってもいられず

その場を走り去った


向かった先は、駅の向こう側の小さな通りだ。

そこには小さな飲み屋があり

空きのタクシーが巡回していることが多かった。

密かに穴場だと知り、昔はよく終電に乗り遅れた夜

利用していたことがある。


ただそこへ行くには街灯の少ない細い路地や

地下道を通らねばならなかった。


一度、路地裏で酔っ払いに絡まれそうになったことが

あってから避けるようにしていたのを

その夜の私はすっかり忘れていた。



駅のこっち側は繁華街で賑わいネオンがギラついているのに

向こう側というと嘘のように静まり返っていた。

街灯のない暗い裏通りで、私のブーツのヒールを音だけが

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