2014年9月 帰省 妹の顔が分からない

1 / 3 ページ

前編: 2014年9月 帰省 序章
後編: 2014年9月 帰省 ばあちゃんとの再会

ナビで探し辿り着いた先には確かに仮設住宅があったが、住民の氏名一覧が掲載されている場所がうち所だけが空欄だった。仮設住宅脇にあった案内所で手紙を見せて確認した。確かにそこに住んでいると言う。

「もう逃げ道は残されていない。」ある作家の作品に書かれていた絞首刑の死への階段を1歩ずつ登るような足取りの重さと息苦しさを感じた。

夫の後を恐る恐る歩こうとすると「自分が先に歩け」と言いながら背中を押された。また夫の後ろに回ろうとする程に私には恐怖しかなかった。反論の余地はもう、残されていない。

自分の親が住んでいるだろう部屋の前に来た時、外に咲いている花とアルミサッシに貼ってあるシールの雰囲気で「ここで間違いない」と察してしまった。そう確信した自分の勘を恐ろしいと感じた。


戸には鍵がかかっていない。中に入ってみると部屋には誰もいないようだった。アコーディオンカーテンに手を伸ばして引いてみた。女の人が寝ていたが年齢不詳だ。部屋の中に干してある服や置いてある物も全て私より若い雰囲気だった。

色々な意味で怖くなって玄関の外で待ってる夫に

「人が寝ているんだけど、一緒に来て!」と言ったのだが

「自分で起こせ」と言われてしまった。


その人物に触れるのが怖かった。「触れる=汚れる・負ける」とか、そんな感じ。

アコーディオンカーテンを3.4回程度開け閉めして触れるかどうかを格闘していると、その人が目を開けた。

「どうしよう!目、開けたよ!」

「話せ。来たって言えよ!」

すると玄関とベッドの距離で会話が始まった。


「え?起き抜けで補聴器つけてないのに、何でこの人、会話してんの?」

しかも声量が私の耳では全く聞き取れない。全然意味が分からなかった。起きた顔をきちんと見てもやはり私より肌が若いし全体的に若いのだ。

「もしかして馬鹿だから災害支援金に手をつけて美容整形したのかも知れない。」

「でも何でこんなに妹に似てるのだろう?妹の顔写真を見せて『こんな風にしてください』

と言って整形したのかもしれない。それにしても美容整形の技術って凄いんだなぁ」




脳裏をかすめたのは高須クリニックのCMだった。

『YES! 高須クリニック!』





起き上がった人が居間らしいところに来て「痩せだんでねぇ?」と言って私の髪に触れてきた。

私はそれが母親だと思ったので、気持ち悪くて身構え後ずさりした。


「何で聞こえるの?耳治ったの?」

「耳?前から聞こえるよ。悪ぐないよ?」

「え???」

もしかして聞こえないふりをしていたの?でもおかしいなぁ。それにしても妹に似てるんだけど…

「もしかして妹なの?」

「んだよぉ。誰だが分がんねがっだなぁ。」

私も私で妹のことが分からなかったのだが、妹も妹で私のことが分からなかったらしい。

「どっがのボランティアのお姉さんが間違っで家に来て、どっがの聞ごえない人だと思い込んで話しでるんだと思っだ」…らしい。

みんなの読んで良かった!