私が今死んでない理由

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虐待、施設育ち、家出、援交、風俗、身元不明者、借金

私の生きてきた足跡はぐちゃぐちゃだ。

私は両親から手を離され施設で育ち、途中から親の元へ帰るも高校を中退し家出をした。


そんな私が出会った人はもう二度と会えない、私のあしながおじさん。


十五歳で家を飛び出した私は友人から教えてもらい、身体を使ってお金を稼ぐ方法を知った。

後先の事は考えてなかった、ただなんとなく何もかもが嫌で。


オジサン
腹、減ってねーか?


あの日、真夏の夕暮れ時にそう言ってオジサンは公園のベンチに座る私に声を掛けてきた。身体を売る事が当たり前になっていた私は当然そのオジサンも体目的だろうと思い、家までついていった。公園から二分と少しで到着したそこには少し家賃が高そうなマンションがあった。中に入って行きながらオジサンは声を掛けてきた。


オジサン
食べ物何が好きだ?作ってやる!


咄嗟に、「ハヤシライス」と答えてしまった。

だけどオジサンは嬉しそうに「わかった」と言い本当にハヤシライスを作ってくれた。そのハヤシライスはとてもおいしかった。


手作りの物など、施設を出てから食べる事がなかったから暖かく感じた。オジサンは食べている私を見ながら「もっと食え。もっと食って布団で寝ろ!」と言っていた。


私とオジサンの妙な関係はその日から始まった。


オジサンは料理を振る舞いそして私が外に出ていくのを見送り、オジサンが仕事に行く頃私はオジサン宅に戻る。それからフカフカの布団で眠るのだ。


オジサンは何も求めない。見返りなどない。与え続けてくれる、そんな人だった。


数ヶ月しない内にオジサンは合鍵をくれた。

誰も信じてくれないような話だ。そんなオジサンの存在のことなんて。けれど確かにおじさんは存在していて、本当の父のように私の面倒見てくれた。


私は親の元から逃れる為、家出してすぐ短期間転がり込んだ男の家に住所を置いていたが、本人受け取りの郵便物を長きに渡り受け取らずにいた事から身元不明者になっていた。その話をするとオジサンは快く住所を置いていい。と言ってくれた。

オジサン
なんでもいいからアルバイトしてみろ!


オジサンにそう言われ人生初のアルバイトをした。コンビニでの仕事は今までと在りえない程低賃金で、一時間に万稼いでた私には時にバカらしく感じる事もあった。けれど私が「疲れた。頑張った~」と言うとオジサンはいつも褒めてくれた。それが嬉しくて、褒められたくてアルバイトを続けた。


オジサンは私の生い立ちや家出している理由を聞いてくる事はなかった。


それが心地よかった。言わなくとも私が未成年である事はきっと分かっていただろうし家出している事も気づいていたと思う。オジサンと出会うまで身体を売っていた事も当然分かっていたはずだ。


オジサンと生活を初めて2年近く経った頃、私は18歳になっていた。考えていなかったわけではないがその時は急にきた。オジサンは定年になり自分の生まれ育った故郷に帰る事になったのだ。


目の前が真っ白になった。また一人になる事や、家がなくなる恐怖に押しつぶされそうだった。


私も家に帰るから。心配しなくていいよ!今までありがとう。


帰る場所など当然ないし恰好付けるほど何も持ち合わせていないが、ない頭で自分なりに考えたのだ。オジサンが気持ちよく故郷に帰るためのウソを。


私は身分を証明出来なくてもお金を稼ぐ方法を知っている。


オジサンの居なくなったマンションに住所を置いている私は時期にまた身元不明人として役所に登録されるだろう。住所の定まらない者を雇ってくれるような働き先は中々ない。


家がないままアルバイト先に「普通に通う」と言う事が出来ずに辞める事となる。


家を借りる程のお金もない。アルバイトしながら少しずつ貯めていたお金は本当にほんの少しだった。たとえ家を借れるほどお金があったとしても私には保証人と言うものがいない。私はまだこの頃保証人不要な家がある、という知識すらなかった。


そして私はまた選ぶんだ。身体を売る道を。


オジサンは時折、電話を掛けてきては私の事を心配していた。けれど私は嘘に嘘を重ね大丈夫だと言い続けた。その頃私は風俗店で働いていた。寮もあり、お金には困っていなかった。


だがずっと続けていると気が狂いそうになる時があるのだ。


うちなんで生きてるんやろ。今私が居なくなってもだーれも気づかないと思うんよね。
オジサン
腹減ったか?今から来い
行き方分からんし。忙しいし
オジサン
うるさい!来い!○○駅だ


オジサンに言われるがまま私は駅に向かった。

久し振りに会うオジサンはチョビヒゲなんか生やして定年後を満喫しているようでなんだか笑えた。オジサンの家はマンションの間取りとは比べようもなく大きくて、一人で住むには勿体ない位だ。結婚していることは出逢った頃に聞いていたがそこには家族はいなかった。



久し振りに食べたオジサンの手料理はやっぱり美味しくて、なんだか泣けてきそうになる。


豊富な種類の中にはやっぱりハヤシライスが置いてあって嬉しくなった。その日はそのままオジサン宅に泊まり、次の日は大きな庭の草むしりを一緒にやった。お昼ご飯にはやっぱりハヤシライスで、「そんなに何回も食べられないよ」と言ってもオジサンは笑ってまたハヤシライスを出した。


1週間経つ頃、「帰ろうかな」と言ってみるとオジサンは言った。


オジサン
無理せんでよか。居たいだけ居たらいい。なんなら住所も持って来い。


おじさんには何でもお見通しなのだ。また身体を売っている事に気づいていたのだ。本当にこの人には敵わない。私の思う以上に先を見通し、道を示してくれるのだ。


私はオジサン宅に住所を移し、仕事を探した。学も経験もない私に正社員は夢のまた夢だし、と最初から経験のあるコンビニを選んだ。あっと言う間に時間は過ぎた。働いたお金は自分の携帯や保険料にほとんどが消えていったがそれでも毎日楽しく過ごしていた。


オジサンの故郷にきて3年が経過した頃、私はもう20歳を超えていた。オジサンは私に料理や掃除を徹底的に教えてくれた。そしていつからか口癖のようにオジサンは同じ事を言うようになった。


オジサン
お前の結婚式は俺は父親席に絶対座るぞ!


冗談だと思い笑い飛ばしていたが。今なら思う。

いつか私が誰かと出会い結婚するような出来事があったとして、オジサンの言うそれが叶うのなら私の結婚式にはあなたに父親席に座って欲しいと。


父娘のようで決してそうではない。傍から見れば到底理解して貰えないだろうこの生活には終わりがいつでも付き纏っていた。言葉にしなくとも心のどこかでいつかこうなる事を私もオジサンもきっと分かっていたんだ。


それはとても唐突で、けどおかしな話ではなく普通のことで。


家にいる時にチャイムが鳴り私はオジサンの帰宅だと思い玄関に向かった。ドアを勢いよく開け、会った事もない人と出くわす。


私の頭がすぐに危険だと教えてくれた。その目の前にいる人はどこか少しだけオジサンに似ていたから。


当然荒れに荒れ、オジサンは兄弟に「縁を切る」とまで言われた。


責められているオジサンを見ながら私は涙が出そうになるのを必死に堪えた。私をこんなにも良くしてくれる人を傷つけないで欲しい。責めないで欲しい。そんな思いで一杯だった。


私はその日からオジサンの元を巣立つ事を考え始めた。本当ならもっと早くこんな事態を招いていてもおかしくなかったのだ。運よくたまたま三年もなんの問題もなく過ごしていたけれど、本当は分かっていた事じゃないかと妙に納得している自分がいた。


私はオジサンに出逢ってから長きに渡り金銭的にも助けてもらっていたが食費なども入れていなかった。諸々に掛かってくるお金をオジサンは何も言わず出してくれていた。出ていく為にはやっぱりお金が必要で・・・私はオジサンに相談せず人生初の借金をしたのです。


あの時相談していればオジサンは「そんなことはしなくていい」と怒っていただろう。それでも言えるはずがないのだ。「あなたの所を出ていく為にお金が必要」なんて。言ったら、オジサンはきっと出ていかない方法を最初に考え、それでも無理だと分かった時にお金を出していたと思うから。


私はまず最初に消費者金融からお金を借り、家を探した。保証人不要の物件を選び、内覧なしですぐにでも入居という方法を選んだ。場所は元いた街だ。

お金も貯まったしあの街で一人暮らしする!

オジサンの傍を選ばなかったのは、近くにいるとまた甘えが出ると思ったから。オジサンは最初は反対していたけれど、なんとか納得してもらい出ていく日を決めた。


そして引っ越しの当日私は初めてオジサンが涙を流す姿を見たのだ。私まで泣いてしまいそうになり顔を伏せ「じゃあね!」と元気よく家を出た。駅に向かう途中は涙が止まらず道を真っ直ぐ歩く事が出来なかった。


オジサンと私の妙な楽しい3年間はそうして終わった。


一人には慣れているけれど、一人暮らしは初めてだ。自分の部屋に初めて入った時「なんだ、こんなもんか」と思ったのを覚えている。もう少し寂しさを感じると思っていた。想像とは違い呆気ない一人暮らしの始まりだった。


職探しは大変だった。面接をしてもお断りの電話ばかり掛かってくる。しかし一人で生きていく為には仕事しなければならない。引っ越してきて2週間たった頃、やっと仕事が決まった。


学も経験もないがつべこべ言ってる暇などなかった為、やりたい仕事を探すより身体売らずに生活していく事の方が大事で特に興味もない高時給のコールセンターの営業を選んだ。


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