きっかけ

前話: 「理容師&行政書士」というユニークな肩書きを持つぼくが、業界新聞の発行権を取得して、わずか1年で自ら経営する行政書士事務所を日本トップクラスにまで成長させることができたお話。
次話: ちょっと遅れたエイプリルフール?!

はじまりは、ぼくがかけた一本の電話だった。時は平成27年、年度末に近い3月下旬のことだった。

「8年前に貴社から出版いただいた私の著書について、著者割引で50部購入したいのですが」

この何気ない電話が、やがてぼくの仕事人生を大きく変えることになろうとは、このときまったく想像していなかった。

ぼくが電話をかけた先は、サロンニューズマガジン株式会社。ぼくは過去に同社から本を出版していた。一般的に著者本人が出版社から直接自分の著書を購入する場合、著者割引をしていただけることが多い。

電話口の女性スタッフが「少しお待ちください」と小慣れた応対をしてくださり、待つこと数分。次に聞こえた電話の声の主は、サ社の社長であるoさんだった。

「福井さん、ご無沙汰ですね」

急に社長が出てこられたことに少しびっくりしながら、ぼくは著書割引で本を購入したい旨を伝えた。

「了解です。50部ですね。在庫はあります。ところで福井さん、相談なのですが50部ではなく300部の購入というのはいかがでしょうかね?」


サ社と私の関係を説明しておきたい。

サロンニューズマガジン株式会社は、昭和24年に『全国理美容新聞』という理美容業界向けの唯一の業界新聞を創刊した出版社である。昭和38年6月10日発行の第964号から平成12年3月22日までは会社名を全国理美容新聞社としていたが、それ以降は会社の名称を変更し、サロンニューズマガジン株式会社として発行してきた。ピーク時の発行部数は10万部、東京と大阪にオフィスを構える、存在感の大きな会社だった。

ぼくは、平成14年から同新聞中、理美容店経営に関するコラムを毎月1回のペースで書いていた。このコラムは好評だったようで、数年分のコラムを集め多少の追加原稿を執筆して、平成19年1月に『まるわかりサロン経営』というタイトルで出版された。この本をあらためて顧客に販売したり、契約成立の際のサービスに使いたいと考えて、ぼくは冒頭の電話をかけたのだ。

ぼくが理美容業界の新聞にコラムを書くようになったのは、ぼくが行政書士資格のほかに、もう一つ資格を持っているからである。驚かれることも多いのだが、ぼくは理容師免許も持っている。そう、散髪屋さんである。なぜこのようなユニークな肩書の人間が誕生したのかはまた後で話すとして、まずはぼくの存在を、理容師と行政書士の資格を持ち、理美容業界専門で経営などの相談に応じるアドバイザーとイメージしていただければありがたい。そういうコンセプトで仕事をしているわけだから、必然的に顧客は理美容に関係する方が多い。それらの方に自分の本を配れば喜んでいただけるし、信頼も得やすくなるだろうと考えて、本の購入を申し込んだわけだ。


さて、o社長からの申し出に対して、私にはある打算が働いた。小さな行政書士事務所を営む身からすれば、業界新聞に何らかの原稿を提供し、それが記事になることは知名度アップのためにも非常にありがたいことだ。事実、コラムの連載期間中は毎月1、2件程度、読者から直接問い合わせがあり、ある程度の新規顧客を獲得することができたし数件の講演依頼もいただいた。多少コストがかかっても新聞社と良好な関係を築いておけば、かけたコスト以上のリターンが返ってくるかもしれない。事務所の財務状況が芳しくない中、当初(50部)5万円程度の支出予定が6倍の(300部)30万円ほどになることは苦しかったが、ここは先々のメリットを考えて交渉してみようと考えた。

「300部ですか。今必要な部数よりかなり多いですが、分かりました。それでけっこうです。ただし、一つお願いしたいことがあります。以前のように、私の書く記事を理美容新聞に掲載していただけないでしょうか。連載が終了してから時間も経過し、私から理美容業界に向かってぜひとも発信したい情報がたくさんあります。近日、掲載をしていただけるという前提であれば、300部購入させていただきます」意を決して、ぼくは言った。

o社長からは「ありがとうございます。もちろん掲載させていただきます。福井先生の記事は人気ありますから」とのお返事をいただいた。ちょっとした駆け引きを成功せた高揚感に包まれながら、私は受話器を置いた。

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ちょっと遅れたエイプリルフール?!

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