口下手童貞少年、ナンバーワンホストになる ① 決意編
季節は秋へとさしかかろうとしていた。
そんな暮らしをしていたら、彼女なんてできるわけがなかった。
そしてついに私は見当違いの結論に達した。
「・・・車だ・・・。」
自分に彼女ができない理由を車のせいだと考えるようになっていた・・。
今の自分がその頃の自分にアドバイスできるのであれば、
「んっ?
車が君の代わりにしゃべってくれるのかい?
ドラえもんに出演していたバギー君じゃあるまいし・・・
車がないせいじゃないぞ!
恰好悪くてもいいからガムシャラに女にトライしてみなさい!!」
・・・その頃の18歳の私には気づきようもなかった。
その当時、私が18歳ぐらいの頃は、とにかくアメ車が流行っていた。
そう、MADE IN USA だ。
古いアメ車のとにかくでかい車が流行っていた。
アメ車でピョンピョン跳ねていれば、女達が行列を作ると勘違いしていた。
友達は、若さ故の勢いのままに、古いキャデラックを360万円のフルローンで購入するという、後先をかえりみないような、
車版バンジージャンプのような購入の仕方だった。
しかし、事実モテていたように見えた。
両親が車を二台持ちしているような家庭であればまだ良かったが、残念な事に我が家は車は一台だけであった……
しかも国産の大衆車であり、ゴルフ場へ行くにはベストな車だが当時のギャルにモテる要素は限りなく0の外観であった。
極めつけは、父親がフル活用していて私が乗る隙などなかった。
「車を買う」
その目標を達成する為に私は、
高額のアルバイトを探し始めていた。
そして髪を黒く染め、自動車部品製造工場へアルバイトとしてもぐりこんだのであった。
なぜそこを選んだかというと……
時給がとてつもなくよかったのだ。
なんと時給で1400円!!
ちょっとしたスナックのホステスさん並の時給である。
しかし、その高額の時給にはもちろん訳があった。
勤務時間が17時から日をまたいで朝の4時までなのだ。
そう、通常の人が完全に寝ている時間帯に働くからこそ与えられる、
時給1400円というご褒美だったのだ。
それでも、土、日、祝、はしっかりと休みであった。
工場はとても広かった。天井の低い体育館という感じだった。
作業内容は、
まず社員さんが機械でパイプの両端に部品を溶接し、溶接されたパイプが機械から転がってくる。
どうやら、四駆車の前輪と後輪を繋ぐパイプであるらしい。
バイトは、
その溶接して機械から転がってきたパイプを天吊りのラインに流れているパイプ用のハンガーに差し込み、
上部にキャップを付ける。
天井のラインを伝ってハンガーが工場の屋根裏に上がっていき、
塗装され、
また降りてくるという工程であった。
そのパイプが結構重い!
機械から出てくる溶接済みの鉄パイプが二本貯まった所で両手にそのパイプを持ち、鉄製のハンガーに二本セットでかけるのだが、
常に鉄アレイで筋トレをしているような状態になるのだ!
二本持って差し、
二本持って差し、
二本持って差し・・・・
これを8時間である。
途中0時にご飯休憩が1時間あるものの、その時間以外は延々とその作業である。
仕事中の行動範囲は、半径2メートル以内であった。
自分自身が機械の一部になった様な錯覚に陥る仕事・・・。
次々に鉄パイプが出てきてそれを両手に持ちハンガーに掛けゴムキャップをつける、その繰り返しだった。
妄想の世界へと旅立つのは当然であった。
妄想以外に自分自身の慰めと言えば、
時給1400円という事
最近俺、ちょっと胸筋がついてきたんじゃない?と胸筋の成長を見守る。
そしてバイトをした一番の理由である
MY CAR
という理由のみが自分を支えていた。
そんなバイトも一か月程経った頃には慣れてきていた。
だが、仕事の終了時間が深夜4時。
友達に連絡などできる時間ではない。
すごい孤独を感じる時間だった。
友達も、勤務時間をわかっているので、平日は連絡もなくなった・・・。
その孤独感からか、
ニート時代に足を運んでいたあの堤防に、たまに足を運ぶ様になっていた。
季節はもう秋も終わりそうな頃だった。
そして堤防に足を運ぶ時間といえば、
仕事が終わってからの朝の4時半頃。
冬を控えた秋なのでまだ4時半といえば暗い。
暗い川はいつも通り私の方向からみて左から右へ、以前と変わらず流れていた。
肌寒いせいか、余計に周りが静かに感じた。
川を流れる水の音が、やけに鮮明に聞こえる。
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