口下手童貞少年、ナンバーワンホストになる ② 初日編
そしてまたカウンター付近に戻り石ころに戻ろうとしていたとき、
T「ほら、一緒に行くぞ。」
Tさんに呼ばれ一緒についた席は・・・Rさんのお客さんでついさっき完全無視の席だった。
(まじかよ!?さっき完全無視されたし、私はお気に召されてないのでは・・?)
などと考えながらも、もちろん右も左もわからない。
Tさんに続くように女の子が座っているボックス席の丸椅子に座って接客へと入った。
私はもちろんお地蔵さん状態である。
(Tさんのテクニック・・・勉強させてもらいます!!!!)
一方Tさんは・・・
T「いらっしゃいませ。」
女の子「・・・おはよ。」
Tさんに対してもあたりはきつかった!!!
いきなり途切れる会話。勝手に気まずくなる私!!
私を呼んで席についたので、私はてっきりホストとしての会話のテクニックを披露してくれるのかと思いきや・・・・
Tさんにもほぼ無視に近い状態だった!!!
恐らく・・Tさん自身も一人で付くのが不安だっただけっぽい!!!
・・・その時のTさんは突き抜けるほどダサかった!!!
少し私とTさんでお地蔵タイムを過ごしてから、Rさんがボックス席の女の子の隣に座った。
女の子はバラに棘状態、
Rさんは縁なしメガネで怖い雰囲気…
Tさんは頼りになりそうもない、
ピンチだった!
人一倍、気を遣ってしまう私には耐えられない空気・・・
本物のお地蔵さんになりたいぐらいだった。
少しばかりのお供え物と赤い頭巾があればそれ以上何も望まない状態だった!
R「今日から働く井出ってやつだから。さっきも言ったけど、俺の名前はR、よろしくな。」
私「・・!井出です。よろしくお願いします!」
女の子「よろしくね。私はY子っていう名前だから。」
Rさんは実は優しかった!バラの名前はY子さん。
Y子さんはその後、Tさんと私に対してはやはりあまり愛想はよくなかったがRさんに対しては、ちょっと男勝りな感じのしゃべり方ではあったが、今風に言うとツンデレという表現がぴったりな女性だった。
1時間経たないぐらいの時間がたった頃であろうか・・・
店のドアが開いた。
二人の男性がまた入ってきた。一人は結構年輩に見える男性。
もう一人はミディアムヘアの茶髪で、ベージュっぽい上着に黒いパンツ、一人だけ明らかに恰好が違っていた!
N「おはようございます。」
A「おはようございます。」
ミディアムヘア「おう、おはよう。」
その挨拶の仕方・恰好の自由さ・出勤時間で上の人間だという事はすぐわかった。
私はSさんに奥のビップルームに呼ばれ、呼ばれた先には先ほど入ってきた二人がいた。
「君が井出君?私はこの店の専務をやっているK野といいます。」
その年輩に見えた男性は、うっすら茶髪の長めの髪型で、男前ではなかった。
正直言うと・・・・どちらかと言うとブサイク寄りの顔だった。
やはり従業員達の中では一人だけ年輩であり、35歳ぐらいだろうか?K野専務と言った。
「よろしくな。俺はR華。一応社長です。」
もう一人の私服っぽい人はR華さんといった。年齢は25歳ぐらいだろうか。
顔は薄い顔立ちだったが鼻筋も通っていて、身長は高くないが、かなり男前だった。髪型のせいで余計に若く見えていたのかもしれない。
もちろん若すぎる社長に私はビックリした。
私「よろしくお願いします!」
K野「よーし、じゃあ・・・面接合格!給料システムを説明するね。
一応三か月間は給料保証期間という事でお客さんを呼べなくても給料は出るから。
それで保証期間が終わってからは売上がないと給料はでないからね。
そして保証期間が終わってからは総売上の30%バックだから。」
私「はいっ。わかりました。」
面接合格の意味がわかったであろうか?
他の店はどうかわからないが、特にBではホストの人件費が不当に安かった。
売上を上げれないものには給料を払わないという事だ。
人件費がかからないのであれば、雇わないわけがない。
店側にとっては、売上を上げれるように成長したらラッキー+どちらにせよ損は無いという事だった。
今でこそ馴染みのあるブラック企業という言葉を遥かに凌駕した条件だ。
ディープブラックとでも言えばいいのだろうか・・・?
しかし、その時の私はピュアボーイであった。
人を疑う事を知らない子犬の様な少年。
今となってはおかしいとわかる事だが、保証期間が終わって、もしお客さんを呼べなかったら一か月間働いて給料が0円という事だ。
しかも、保証期間中の日当もあってないようなものだった。
それがわかるのは、一か月後の給料日だったのだが・・・。
そんな右も左もわからないまま、初日だったが閉店まで働いた。
初日は、お酒をあまり飲まなかった。
店の片づけをして、外に出た時にはもう明るく、日光で目が痛かった。
そして、スーツを脱ぎ、私服に着替え、Tさんも同じ駅という事で一緒に駅まで歩いて行こうと誘ってくれた。
T「いや~。
ほんと厳しいよこの世界は。
俺も後一か月で保証きれるからやばいよ・・。」
私「そうですよね~。
僕も早くお客さん見つけないとまずいですね。
でもそういえばRさん、見た目とは違いけっこう優しいですね。
Rさんって何歳なんですか?」
T「んっ、Rさん?19歳だよ。」
カルチャーショック!!地球が二つに割れた。
T「そういえば、NさんとAさんも19歳だったな。」
地球が四つに割れた!
信じられなかった!
自分と同い年だなんて・・・。
自分なんか丈があってないスーツに丸椅子に座ればホワイトソックスがこんにちは状態。
一方、あの三人はバシッ!
と自分の体形にしっかりあっている隙のない恰好・・・。
同じ19歳なのに差は歴然だった。
そんな会話にカルチャーショックを受けている間に私とTさんは栄の駅まで到着していた。
T「じゃあ、また明日。」
私「明日もお願いします。」
営業中はダサイ場面もあったが、Tさんの存在はとても嬉しかった。
そして、私が帰る方面の電車はやはりとても空いていた。
私「とりあえずやるしかないな……。」
そうつぶやいて、1月の朝日の中を、電車を降りてからは早足で家まで歩いていた。
自分で考え、自分で決め、自分で行動をおこした。もちろんまだ右も左もわからない非日常の世界であった。
私は、ホストをやってよかったな、と今でも思っている。
とてもすばらしい経験であったと……。
しかし当然、いばらの道だった……。
まだ季節は1月の真冬の中、答えのない答えを探し求め私は、ネオンへ飛び込んだ。
あなたの親御さんの人生を雑誌にしませんか?
著者の健二 井出さんにメッセージを送る
著者の方だけが読めます