口下手童貞少年、ナンバーワンホストになる ⑥ ラストチャンス編

1 / 4 ページ

4月の中頃。
夜はまだ少し肌寒いくらいの季節だった。

その頃には、もうタイムリミット(携帯電話停止)が近づいていたので店の営業前ギリギリまでキャッチをしていた。


そんなある日に、ヘルスから出てきた一人の女性がいた。

いつもの様に、店舗から多少離れたところで声を掛ける。

もちろんお馴染みのニーハオから始まった。


私「ニーハオ、今から帰るの?」

女の子「・・・・帰るよ。」

私「さんみしいな~(訳 寂しいな)(そしてアホっぽく言う)。」


などと今だったら少し赤面してしまうようなハイテンションで会話を始める。

女の子も嫌そうだ。

当たり前だ、いきなり怪しい男が声を掛けてきたのだ。

それと仕事柄、警戒心が強いというのもあるかもしれない。


だがそんな事は気にしていられない。

とにかくしゃべる。思いつく限りの言葉をしゃべる。

かなり一方的な会話だったが、もう既に15分程度歩きながら話をしていた。

店から駅までけっこうな距離があったのが幸いした。

その15分の中で2・3回は笑ってくれていた。


・・・笑ってくれた回数が、多いか少ないかの判断はお任せしたい。


それからさらに畳み掛け、駅の改札を入るギリギリの所で粘って電話番号を聞いた。その時にやっと名前も教えてくれた。名前はYと言った。



結局30分程経っていた。


(よし・・。)


終わった時の時間は夜23時40分頃だった。

私は急いで寮に戻りスーツに着替え、出勤した。

もちろん、その頃でも0時出勤。おしぼり・店内の掃除・トイレ掃除の任務が待っていた。



営業が始まった。


新しく入った従業員のせいもあってか、その頃のBには、とても活気があった。

広い店ではないが、だいたい毎日テーブルは埋まっていた。

私はお客さんを呼べていないので当然飲むのが仕事だった。

私はお酒は強い方ではない。むしろ弱かった。

通常時であれば生ビール一杯で顔が赤くなり、その一杯で十分だった。


しかし不思議なもので気の張り方で酔いが全然違ってくる。

仕事として飲んでいると、通常時の自分より明らかに飲める様になっていた。


それでやっと普通ぐらいだったが・・・・。


ちなみにお酒を飲みだしたのはBに入店してからだった。

入店当初は


(ビール苦いよー。飲みたくないよー。焼酎のお茶割りもなんか変な味になるよー。)


というレベルだった。

ZIMAというサイダーみたいなお酒があるのだが、初めて飲んだ時


(あらっ!?スプライトのちょっと甘みをなくした感じじゃない!

あたし、お酒は苦手だけどこれなら飲めちゃうかも!キャピ!)


みたいな事を思っていたが……

バカだった。


スプライトと同じ感覚で飲んでいた日、

営業中に気持ち悪くなって立っている事ができなくなり、

頭がグワングワン回り、営業終了前にダウンした。


その日、私は人生初の記憶を無くした。


「昨日、記憶なくしちゃって大変だったぜ・・・。」


と言いながら葉巻をくゆらせるような大人に憧れていたが、

全然いいものではなかった。


ZIMAはアルコールの度数はビールとほぼ変わらない。

酒は味ではない。アルコール度数だと少年は学んだ・・・



Mさん・JUさん・KJさん・JOはみんな揃って奇跡的に男前だった。

(私もそうであったと信じたい)


新人も男前揃いという状況で、

上の人間はもちろん言うまでもなく男前で雰囲気もあった。


男前揃いの中でお客さんもお酒が進む、そして従業員達にも飲めと催促してくる。

従業員も飲む。

JUさんが脱ぐ。腕立てが始まる。

JOも脱ぐ。JOは空手の経験者だったのでなぜか空手の型を始める。

私とKJさんはそういった特技がないのでとりあえず踊る。


パラパラが流行っていた時代なのに、なぜかツイスト風の腰をひねりながら、徐々に態勢を低くしていく踊りが私の十八番であった。


楽しかった。本当に楽しかった。
仲のいい人達と酒を飲んで騒ぐのが仕事になっていた。


お客さんだが女の子もいる。

かわいい子もいるが、もちろんあまりかわいいとは言えない子もいた。

だが以前の、自分の生活からは考えられない状況だった。


そんないつまで続くともわからない……

仕事と言えば仕事。

仕事として成り立っていないといえば、成り立っていない。

という様な危ういバランスの中で私はただその瞬間を楽しんでいた。


あの鉄パイプとダンスしていた時代が嘘の様だった。


そのような営業が何日か続いていた頃、私はいつもの様に酔っていた。


酔いながらも、手応えの薄い新規のお客さんを、Bのビルの下まで送り出していた。

そして新規のお客さんをタクシーに乗せ、タクシーが信号を曲がるまで見送り、店に戻ろうとした時であった。


「あっ!!!!!」



思わず私は視線の先のタクシーに向かって指を差してしまった。


タクシーに乗っていた女性もびっくりした顔でこちらを窓越しに見ていた。

そのタクシーに乗車していた女性は、以前、営業時間ギリギリまで粘ってキャッチをした・・


みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。