口下手童貞少年、ナンバーワンホストになる ⑦ 悲しきヒモ編

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 とも思ったが、それどころかすでにヒモだった。

ヒモになりたいと思っていた時期もあったが、実際なってみるとそんなにいいものでもなかった・・・。


ちゃんと好きだという感情をYに対して持っていたせいか、罪悪感を感じた。

喜ぶのが申し訳ないような複雑な気持ちだ。


あれ程までに夢見ていた、

女性に物を貢いでもらう

という事が実現した割に・・・

達成感は薄かった。


数日経ち、スーツが出来上がった。

スーツを着てみると、その時は純粋に嬉しかった。


自分のサイズに合ったスーツ・・・

サイズがピッタリと合ったスーツを着た時、自分が少し大人になった様な気がした。

そしてその頃には、ちゃんと黒い靴下を履くようになっていた・・・。


だが実際には、ままごとの様な生活と仕事。

それだけで大人になった様に感じてしまった私は、やはりまだ子供だったのだろう。



数日経ち・・・

なんと!

それから少しずつだが驚く事が起き始めた。


・・・・少しずつだが、お客さんが出来始めた!

恰好がホストっぽくなったのであろうか?

その時に、見た目も大事だという事を学んだ。

見た目だけでもとりあえずはハッタリを利かせるだけで、こんなにも違うものかと・・・。


水商売という職業は一回会った時に、お客さんに気に入ってもらえなければ後が続かない。


一回目にどれだけ魅力を感じさせる事が出来るかがとても重要だった。


一回目で興味を持って貰えないと次がない。


一回目で魅力を伝える

という手段の中で、見た目はとても重要だったのだろう。


そしてその頃には、もう一つ学んでいた事があった。

「先輩のギャグを盗む」

「ウケたギャグを使い回す」

という事だ。


入店当初は先輩たちの話を聞いていてもお地蔵さん状態だった。


最初はMさんから普通の会話の大切さを教えてもらった。

その後の話である。


K野専務の容姿は男前とは言えなかった。

しかし抜群に面白い人であった。

K野専務が席に着くと100%盛り上がるのだ。

そのK野専務と同じ席に着いている時に気付いたのだが、


K野専務

「どうも!はじめまして。トム・クルーズです!」


新規の席でK野専務は75%ぐらいの高確率でその入り方だった。

そう!完全に使い回していた!


そして私はK野専務が不在の時に、新規の席で豪快にトム・クルーズを盗作した!


・・・・・結果はだいぶウケた。


それがきっかけで、自分の引出の増やし方を覚えた。


自分、もしくは他の人が言ったおもしろい事を覚えていく。

その言葉がウケた時と同じ様なシュチュエーションの場面がまた必ずある。


その時に以前覚えた言葉を使えばいいのだ。


同じ人に何回も同じギャグを使わなければいいだけだ。

初対面の女の子に、以前使ったギャグを言っても、その子が聞くのはもちろん初めてである。

ウケてくれる確率は高い。


それまでの私は、

面白い話の引出の多さは生まれつき、つまり才能だと思い込んでいた。


違った。


経験だった。


引出は増やせるものだという事を学んだ。

そうして盗んだギャグを引出にどんどん詰め込んでおけばいいと学んだ。

自分のウケたギャグも使い回せばいい。


同じ人に何回も言わなければいいだけだ。


場面によって、どの引出を開けるかの生まれつきのセンスはあると思う。


別に全国区のテレビでギャグを言っている訳ではない。

バレるわけないし、バレたとしても別に恥ずかしがる事もない。

お笑いタレントなどは、

瞬時に新しくて面白い事を言わなければいけないかもしれないが、私は違う。


そうして、どんどん会話の引出を増やし、引出の中身も貯める様になっていった・・・・。


次第に、恰好と会話の自信を深め、さらにお酒の力も借りてそれなりに指名を取れる様になっていった。


しかし・・・ある程度の自信を深めはしたがヒモ状態は脱出出来なかった……。


30万売上を上げたとしても、もろもろ引かれて、手取りは5万円ぐらいだ。


さらに、遅刻の罰金や当日欠勤などの罰金を引かれればあっという間にマイナスになる。


そして強卓という罰金が一番つらかった・・・。


週に一度か二度あったのだが、その日にお客さんを呼べないと・・・・

一万円の罰金!!!!


一日頑張って働いて、

トイレ掃除して・・・・

おしぼり巻いて・・・・

頑張ってお酒飲んで・・・

頑張って喋って・・・・


一万円マイナス!!!!!!!!

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