40才からの成り上がり 第2話

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「上京」


19才になった僕は故郷を捨て、彼女を連れて、横浜の地下鉄弘明寺駅のホームに降り立った

滴り落ちる汗を拭いながら、僕らはこれから始まる新生活を想像していた


給料がよくて住み込みで働けるところ


求人雑誌を買ってきては、仕事の内容もろくに見ないで、片っ端から電話をかけて履歴書を送った



仲間とつるんで悪さばかりしていた僕は、なんとなく時間ばかりが過ぎて、このまま小さくまとまってしまうことが怖くて、彼女を連れて逃げるように田舎を飛び出した



住み込みで働けるところが決まり、金も頼れるような人も何もなかったが、2人で始める新しい生活に不安はなく、若い僕らは希望に満ちあふれていた



どこか僕らは似ていて、彼女も今の現実から連れ出してくれる人を待っていたのかもしれない


そして、2人とも両親が離婚していて、何か普通の家庭に憧れがあったような気がする


いつも僕らは何をするときも一緒で、お互いがお互いを必要としていた


そして横浜での仕事が決まり、19才の僕らは誰にも相談せずに婚姻届を提出した



「新しい家族」

仕事が忙しく、かまってあげられないことへの苛立ちか、知らない街で1人部屋で待っていることの寂しさなのか、彼女はいつもイライラしている



そして若い2人はつまらないことで、いつも喧嘩ばかりしていた



まだ知り合って間もない10代の男女が、紙の上では夫婦になったとはいえ、すぐには家族になれないのである


そして相手の気持ちを受け止めてあげられるほどの器量を、まだクソガキの僕は持ち合わせていなかった



そんなときだった、あるとき休みの日に、2人で商店街を歩いていると、電柱に「子猫飼い主募集、去勢、ワクチン接種済み」の張り紙を見つけた


ボクは「これだ!」


彼女の不安な心が少しでも和らぐのではないかとボクは考えたのである


早速、書いてあった連絡先に電話をして、次の休みの日に、飼い主のお宅に僕ら2人はお邪魔することになった


玄関を入ると飼い主の方に抱っこされた、まだ小さな小さな赤ちゃん猫が眠たそうな目でこっちを見ている



彼女はこの赤ちゃん猫を、菩薩のような顔で覗いていた


そして僕らは子猫を連れて帰り、この不完全な家族に仲間が1人増えた


この日から不完全家族のクルーとなった子猫は、この先長い旅を一緒にすることになる



「月日」

新たに、我が家に家族が増え、仕事も順調で日々過ぎていくなか、

僕らは喧嘩する回数も少しずつ減り、穏やかな日だまりがボクら家族を包み込む




そんなとき、彼女の妊娠が判明した




無事に一人目が生まれ、日々忙しさに忙殺されていくなか、新たに家族が増え、アニメのように月日が捲れていく








いつのまにか、子ども達は彼女の背丈を超えていた

彼女の髪にも、少し白髪が交ざり始めている

自分も働きながら、子育てや家事は大変だっただろう



あんなに小さかった子猫も、病気ひとつすることなく、気まぐれに家出を繰り返しては、家族を心配させ、そして何事もなかったように帰宅する



最近は、毛艶もなくなり寝ていることのほうが多くなった



色々な想いを抱えて田舎を飛び出した19才の2人が、弘明寺の地下鉄のホームに降り立ってから、もう数10年が過ぎていた



子ども達はそれぞれのコミュニティを確立して、親への依存は減っていき

毎日、同じモノを食べ、同じ布団で寝ていても、夫婦の価値観は少しずつズレていく



全てのコミュニケーション手段が、たったひとつのガラクタで済むようになったけれども、何か味気がしない



世の中がすごいスピードで変化し、自分も家族も変わっていくなかで、その環境に適応することが幸せなのかも知れない



ーもっと彼女との時間を大切にすれば良かったー



ーもっと子ども達と遊んでやれれば良かったー



ーもっと親に会いに、帰ればよかったー



ーもっと猫に上手いモノを食べさせてやれば良かったー



月日は色々なモノを変え、臍を噛んでも、もう遅い


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