僕が知っている夏

僕が知っている夏は、昼間はクマゼミがしゃあしゃあとやかましく鳴き、夕方は白と黒のしましまの蚊が乱舞し、ひぐらしが寂しげに鳴き、夜は真っ暗でエアコンの室外機とコオロギがじじーっと鳴く。

僕らが知っている夏は、目が眩むような日差しの中、自転車を漕いで河原までたどり着き、そのまま清流にに飛び込み、体を芯まで冷やしてしまうというように、とてつもなく暑くて冷たい。

ほぼ同郷同世代の友人と田舎談義。共通点は共に18歳で上京し、それから紆余曲折を経て今もなお東京で暮らしていること。

もちろん、東京が嫌いなわけではない。生活の基盤は既に東京にあり、今さら帰ろうとか、帰りたいとかそういうことを言いたいのではない。

それでもやっぱり歳を取れば取るほど、東京に対して「ここではない」という思いが募ってくる。自分はここにいて良いのか、いるべきなのか。長い間住んでいてもやっぱり自分の居場所にはならない。

友人はしきりに、緑がない、と言う。そして、この前帰省したときに庭の柿の木が切られていて、大変寂しい思いをしたと言う。僕は東京には山も川もないと言う。そして、綺麗な清水もそのまわりに深い影を落とす叢林もないと言う。

お互いに田舎者は困ったものだと苦笑する。ただし、我々の間の違いと言えば、彼が正真正銘の東京都民であることに対し、僕は千葉県住まいで神奈川県を職場にしていることで、実は東京についてどうこう言う立場にないということだ。

それでも、ここの夏は僕が知っている夏とは違う、と思っている。

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