最愛のビッチな妻が死んだ 第2章 初夜

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「って去年久しぶりに乗りたくて買ったら、瞬間でコケました」

僕は確定申告で戻ってきたお金で、18歳のときに半年で盗まれたモンキーを買った。

「長いこと乗ってないので、あげも運転できる自信がない。コケてから乗ってますか?」

「一回だけ。ガススタ行って一周ぐらい」

「それは、一般的に無駄遣いって言いますね」

僕は、「正解」って感じのスタンプを送った。

「大丈夫、あげもよくやります」

最初のやりとりから数時間が経ち、僕の仕事は終わった。

「ゲラチェック終わり! 帰ります」

「割と普通の時間に上がれるんですね。校了いつですか?」

「今日です」

「途中から気付いてたんですが、一日中仕事の邪魔してすいません」

「今週は1本だけだったので大丈夫ですよ」

僕はあげはに心配されるほど、真面目に働いてはいなかった。

「え、今日!? ああ、よかった」

「全然ジャマじゃないですよ」

そして、また誘い下手な僕に、あげはから歩み寄ってくれた。

「あの、逢いたいんですけど、あげ奇数の日に逢いたくなくて」

「今日以外か」

「今日逢いたいですか?」

「明日……? 12時過ぎたら明日だし」

「なんだか緊張する。欲されているのであれば準備しますが」

僕も実は、かなり緊張していた。

「あげは恥ずかしいです、なんとなく」

「あげさんより、僕の方が恥ずかしいですよ」

「どこかに出掛けますか?」

「明日なら夜は8時なら飲みで、それが終われば」

「今日と明日どっちが良いですか?」

僕は正直に答えた。

「どちらも……」

「欲張りですね!」

「でも、奇数重視で明日にしましょう」

「準備します。今日でいいです、その代わり偶数になる日まで一緒にいてください……変な日本語。つまり今夜一緒にいてください」

僕はただ、心臓が不整脈のようにバクバクと脈打っているのを会社のデスクで感じていた。LINEにメッセージを打つ。

「どこで会いますか」

「お酒はあってもなくてもいいです。しゃべったり、しゃべらなかったり、ゆっくりしたいです」

「そうですね。お互い、知り合いたい」

「決めてもらって構いません。どこでもいいです。ウチは太一が厳しいので難しいですが」

太一さんは、あげはが18歳のときに沖縄で出会って結婚した相手。

そして、あげはのお婆ちゃんが亡くなったとき、あげはに血縁関係・家族がいなくなったため、養子縁組をして養女として迎え入れた、養父である。

「行きたい場所ありますか」

「おウチかホテル。ですかね……変ですか?」

変かもしれないけど、全然変じゃないと僕は思った。

「ウチ、来ます?」

「蛍光灯ないですか? すいません」

「蛍光灯?」

「蛍光灯、苦手で」

 

楽しいやり取りをしながら帰路についていた僕は、ようやく家に着いた。あげはは角膜が弱く、蛍光灯や眩しいのが苦手だった。

そしてあげはからこんなメッセージが来る。

「すいません、こんなに早く準備できるスキルが自分にあると思ってなくてもう準備できてしまったので。いつも2時間はかかるのに。思ったよりずっと会いたいみたいです」

「いま、帰宅した。ウチは駅でいうと西武線のN駅だよ」

「よかった。向かっても、いいですか?」

「よいですよ」

「はい。楽しみ半分、緊張半分」

あげはの言う通り、僕も本当にそうだった。楽しみと緊張が自分の中で交差していた。

「出ました」

「駅到着時間が見えたら連絡ください。迎え行きます」

時刻は9時を回っていた。もうすぐ会えると思うと、時間の流れがもどかしかった。

「52分です。でも方向音痴なんで、また連絡します。可愛いけど面倒くさい服を着ちゃったので、部屋着持参です」

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