最愛のビッチな妻が死んだ 第1章 出会い
あげはは見かけや言動とは裏腹に、ただただかわいらしい女の子に、僕の目には映った。
朝5時前、空気を読まない店は店仕舞いを始め、電車は動き出す。
「帰りましょうか」
「もう少し飲まないの? じゃあ、あげもどっかの男の家に帰るわ」
あげはの表情に軽い失望が見えた気がする。
僕には少しの嫉妬心が疼いた。男と女なので、そこからもう一軒という考えをあるにはあったが、なぜかこの夜だけはキレイな思い出のまま帰りたかった。
外に出ると小雨が降っていた。
傘がない僕は最寄りの地下鉄までフードを被り歩き出した。店を出て、2.3分して電話が鳴った。
あげはだった。
「タクシー乗るなら一緒に乗せてってよ」
「いえ、歩きたい気分なんで大丈夫です。お気をつけて」
「じゃあまたね」
誘いを断った雰囲気でイヤな感じを与えてしまったが、今日はこれでいい満足だと自分に言い聞かせて、駅に向かった。
「一人きりになると酔う」
「わかる」
「お互い人見知り同士ですし。電車来ましたか?」
「来ちゃいました」
「お疲れ様でした」
「10時間耐久」
「もっと短く感じましたね」
「電車で寝ないように」
「おやすみなさい」
「おやすみなさい」
♢ ♢ ♢
次の日、東京では雪予報の空模様。
あげはからLINEが来た。
「雪、降らんかったね」
「ですね〜」
「雪が降ったら連絡しようと思っていたので残念です」
「雪、好きですか?」
「死ぬほど」
「テンション上がります? しんみりします?」
「しんみりテンション上がります」
「雪も気分や状況、一緒にいる相手でも変わりますよね」
「当然ながら。でも、どんな状況でも上がることには変わんない」
「ですね。一緒に観てみたいですな」
「また降るかな」
「降ると思います」
「一緒に観たらどう感じますかね?」
「今までとは違う雪の感じ方をするかもしれません」
僕たちは恋愛初心者の中学生のように、この歳で雪の話で盛り上がった。
「1週間前以上先まで雪の予報はなしですね」
「あら……残念」
「長野なら降りますよ。行きます?」
「いつですか?」
「いつでも。今日、仕事辞めたんで」
「え……女王様をですか?」
「個人奴隷とのプレイがほとんどでしたし、なんとなく気分で辞めてみましたが、まあ、そんなに今までと生活は変わりませんが」
「あげはさんが決めたんなら、うまくいくといいですね」
「ありがとうございます」
「そして、なんとなくあげはさんはうまくいきそうですね」
「まあ、今まで死ななかったので、なんとかならないことはこの世にないという確信は常に」
「飽きるまでは楽しみましょう」
ほぼ原文ママ、長く引用したのは、このときあげはは横にいたお義父さんに「アタシ、彼氏できるかも」とこぼしていたと、後に聞いたからだ。
何気ないやり取りだったが、僕も昨晩から心に感じたことのない異常な高揚感はあった。
30分後の午前2時過ぎ、きっかけは決定的なきっかけは赤いサイレンと共に訪れる。
「警察来ちゃいました」
「どうしたんですか? 大丈夫ですか」
「ギターかき鳴らし過ぎて」
「あ〜ビックリした」
ストーリーをお読みいただき、ありがとうございます。ご覧いただいているサイト「STORYS.JP」は、誰もが自分らしいストーリーを歩めるきっかけ作りを目指しています。もし今のあなたが人生でうまくいかないことがあれば、STORYS.JP編集部に相談してみませんか? 次のバナーから人生相談を無料でお申し込みいただけます。
あなたの親御さんの人生を雑誌にしませんか?
著者のKitahara Kyousukeさんにメッセージを送る
著者の方だけが読めます