最愛のビッチな妻が死んだ 第1章 出会い

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なんでも、どうしようもない衝動をギターにぶつけ過ぎて1人ウッドストック状態で近隣住民に通報されたという。

「飲んでますか?」

「いえ、先ほど帰宅して風呂入ってました」

「あなたと会ってから、アタシ少し変なんです」

「……なにかあったのですか?」

「あったような、ないような。生活感を垣間見たいんですけど、ダメですか?」

「別にいいですけど、まだ引っ越し整理完了してないですよ」

「見せてください。取り急ぎ、写真でいいので」

とにかく本と服、フィギュアやレコードと収集癖がある僕は古い一軒家に越したばかりで、自宅は100箱以上の未開封段ボールが山積みであった。机、寝床、台所、階段、書庫、服庫と順番待ちに写メを送った。

「リラックマいますね。なんか意外でした。途中からイメージ通りになってきました」

それからあげはは「生活感のお礼です」と、一軒のバーを教えてくれた。

「昨日言ってた目をつけてるバーです。芸能人が幅広く利用する。役に立つか分かりませんが」

「一緒に行きますか?」

「一緒に行った方が役に立ちますか? 正直に言っていいですよ」

「役に立つというよりは一緒に飲む大義名分としてよいかと。答えになってないかもしれませんが」

「でも今の気分としてセックスフレンドがたくさんいる店には、行きたくないです」

そして、ブログの画像が送られてきた。

「アタシのビッチな部分です。最近、書いてませんが」

「了解です。ビッチなイメージがないな」

純粋ぶらないあげはは、汚れない真っ白な女性にしか見えなかった。

「たぶん、いくらでもあなたの仕事に協力できるんですが、したくなくなっちゃったんですけど、いいですか」

「構いませんよ」

「アタシ、実は運命論とか信じてるので。だから、なんだろう。うまく言えません」

「運命に抗う必要はないですよ」

「著名人とセックスするのも落とすのもカンタンですが、貶めるのも」

「だと思います」

「おこがましいですが、なにか違う形であなたとはいたいと思ってしまって」

「仕事にすると失うものもありますしね」

「いいえ、そういうワケではなく」

「あげはさんが選択したい道を選ぶのが正解だと思いますよ」

「直感が外れているなら仕事にしますが」

「僕はそこまで仕事に魂を売りませんしね」

「アタシはあなたが気になります」

重く深く、そしてハッキリと僕たちは始まったと思う。

「誰かに友達を売れとは言わないですし、仲良くなれるなら、そっちの方が楽しそうですし」

「売りたいのは失いたいモノなのでむしろ売りたいのですが、これからネタのために誰かと寝たくないっていう話なんです」

「そんなこと、しなくていいと思います」

「なんでですか?」

「誰が得するんです?」

「お仕事してるキタハラとか」

僕はあげはの精一杯の気持ちが逆のベクトルであることを告げる。

「そんなことされても……悲しいだけでネタにもできないです」

「まあ、なんか複雑です。すいません」

「誰かを売ったり、貶めたり、暴いたりするヤクザな仕事だとは思いますが……自分勝手なルールはあるので」

「今度、雑誌読んでみます」

「あげますよ、売るほどあるから」

「あは、ありがとう。即刻、添い寝してほしいです」

「ニャンコに?」

「あなたですよ、知ってて聞いてますね」

「……と。ドッキリですか?」

「ドッキリだと嬉しいですか?」

「嬉しいというよりビックリします」

「ドッキリにビックリするのは普通の反応ですね」

「ええ」

なんの捻りもない、つまらない返事しかできないぐらい、僕は驚いていた。

「アタシに興味がないですか?」

「興味はありますよ。興味本意ってだけではなく」

「もっと知ってほしいです。変ですか?」

「不思議」

「なにゆえに?」

「正直、おんなじようなことを考えてたり」

「感極まっています」

「不思議ですよね」

「そうですね」

本当に不思議だった。僕は運命とか永遠など、ナルシスな勘違いだと信じて生きてきた。人は他者と分かり合えない、僕は誰とも分かり合えない、と。

分かり合えたらいいのになという気持ちを、うまく否定することで理論武装して自我を保って生きてきた。

希望を持って、また裏切られるのが怖いから。

「なんかこういうの慣れてないから……うまく言えませんが」

「昨日、お互い散々落とすまでか好きだと語り合ったので」

「当てはまらないこともあるかもしれませんし」

「今回はそうですよ。でも説得力がないかと」

「お互いに?」

「そうです。でも、いいんです。できました、説得力」

「ありがとう」

「明日も仕事でしょう。どうぞお眠りください」

「おやすみなさい」

「おやすみなさい」

明け方4時過ぎまで、僕らはやり取りを続け、直感を確信に変えて眠りについた。

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最愛のビッチな妻が死んだ 第2章 初夜

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