第5話 改革開始

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前話: 第4話 最初の月末「社長、1,000万円足りません」
次話: 第6話 スーツ禁止。


「今、オンデーズの年間の売上は約20億だろ?」




「そうですね。それは皆んな知ってます。」




「じゃあ、1ヶ月にするといくらだ?」




長尾は暗算が苦手なのを知っていながら、僕はわざと勿体つけるように長尾に質問する。




「えーっと12ヶ月だから、イチ、ニィ・・約1億6千万くらいですね。」




「はい。正解。じゃあ1日にするといくらだ?」




「1日ですか・・・。えー・・っと・・30日で計算すると、だいたい530万くらいですかね。」




「いいね。正解。じゃあオンデーズが今ある58店舗で割ると1店舗辺り1日いくらの売上になるでしょう?」




「まだ続くんすか?勘弁してくださいよ、俺暗算苦手なんですからー・・えーっと、530を割る58ですか・・ちょっと運転中なんで、わかりません!!」




「(笑)はは、まあいいよ。正解はざっくり言うと約9万円くらいだな。」




「9万円・・。1店舗の1日の売り上げがですか?へー、なんか意外に少ないですね、そう聞くと。」




「そう。簡単に言うと今のオンデーズの1店舗辺りの1日の売り上げは平均9万円。そして客単価が約1万円だから、客数にすると9人だな。営業時間はどこのお店もだいたい12時間だから、平均すると1時間に1人も売っていない計算になる。だから、昨年の今日と比べて1時間あたり、スタッフの皆んなが『あと1本売ろう!』って頑張って、実際にその通りになればオンデーズの年商は約2倍の40億円になるだろう?」




「まさにチリも積もればってやつですね。」




「そう。いきなり『この会社を再生させる為に、あと20億円の売上をあげましょう!』って言われたって金額がデカすぎて、皆んな思考停止になるだけだから、そんな言い方しても効果なんてない。20億円なんて金額をいきなり売るための具体的なアイデアなんて浮かぶわけないだろう。

でも『今の時間、あともう1本だけ売れる方法を考えよう!』だったら、なんとかなりそうだろ?それだったら特別に人員を増やしたり、何か大掛かりな設備投資なんかをしなくても、あと1本くらいなら、ちょっと頑張れば簡単に売れるってイメージが湧きやすい。

そしてそれを全部の店舗で、全員のスタッフが本当に実行に移してくれれば、1年が終わる頃にはオンデーズの売上は倍の40億円になっているはずだ。そうすれば借り入れの返済だって、新しい商品の開発だって、オシャレなお店への改装費だって、広告宣伝費だって、給与のアップだって、簡単に全部賄える。いっちょ上がりだ。

だからとにかく今は、1人でも多くの社員と直接話をして、今お店の前を歩いてるお客様に声を掛けて、あと1人だけお店に入ってもらえるように声を掛ける。今この瞬間、目の前にいるお客様にあともう1本、多く買ってもらえるように誠意を込めて一生懸命セールスする。それを全力で行動に移す事で、どれだけ自分たちにとって多くのメリットをもたらしてくれるかを理解してもらう必要があるんだ。」



「確かに。今のオンデーズの店員のほとんどは、ろくに店内に入ってきたお客様に挨拶もしなければ、店頭で呼び込みなんて絶対にしてないですもんね。ただふらっと入店してきた人に売ってるだけの”待ちの営業”しかしてない。目の前には沢山の人が歩いてるんだから、チラシ撒きながら大声で呼び込みの一つでもすれば、そりゃあと1本くらいは当然、売れるようになりますよね。」




「そう。まだ取れるはずの売上をとる為に、当たり前のことをちゃんとやってないお店がほとんどだから、そこを直すだけでも結果は絶対に出るんだよ!」




そんな想いを持って車を走らせた、この最初の店舗巡回。数ヶ月間かけて僕は全てのお店を周り、当時200人いた社員の全員と、1人づつ面談をして歩いた。時間の許す限り、夜は皆んなで飲みにも出かけた。




この時のことをもう少し話すと、突然、店舗に現れた僕に対する全国の社員たちの反応は様々だった。





新潟のお店では、庭山真理子(現SV)や村山美佳(現総務部)が「初めて本社から社長がこのお店に来てくれましたーーーー!!ブログいつも見てます!!頑張ってください!応援してます!」と感激して握手を求めてきてくれ、僕の「昨年の今日より1本多く売ろう」のスローガンにも深く共感して早速行動に移してくれた。

こんな感じでとても好意的に、まるでヒーローのように出迎えてくれるスタッフもいれば、逆に老舗のメガネ店出身者で固められていた関西地区などは、おしなべて酷い反応だった。僕の姿を見ても近づいてこようとさえこず、露骨に無視を決め込む中年のベテランスタッフも沢山いた。




「昨年の今日より1本多く売ろう。今は待ちの営業スタイルでもこれくらい売れてるでしょ。だから暇な時間は、どんどん店頭に立って、ほら、見てみなよ!店の前にはこんなに人が歩いてるんだからさ、大きな声を出して呼び込みすればさ、もっと多くのお客様に、ここに眼鏡屋があるって気づいてもらえるし、店内にだって入って来てもらえるかもしれないだろ?」




「あのねぇ、社長は現場を知らんから軽く言いますけどね、そんな簡単にいきませんよ。それに大声で呼び込みしろとか、スーパーじゃないんやから、眼鏡屋が店頭で呼び込みなんてやったら逆に不審がられてお客さんは逃げていってしまいますわ。」




僕は口角泡を飛ばしながら力強く説明したが、老舗のメガネ店から転職して来たと言うベテラン中年社員は、頭から否定的な態度で頑なに営業スタイルを変えようとしない。


見かねた僕と長尾が、実際に店頭でビラ配りを始め、大声で「メガネ一式5,250円からお作り出来まーす!!」と声を張り上げ、お客さんを呼び込んでみせ、メガネのこともよく解らないが、口八丁で接客して2本、3本と売って見せると、その場では一応、渋々と一緒に呼び込みを始めるが、僕らがいなくなると、またカウンターに引っ込んで、いつもの「待ちの営業」に戻っていく。そんなことの繰り返しだった。



この初めての店舗巡回は、他にも驚きの連続だった。






店舗の内外装だけでなく、ディスプレイの仕方やポスター、POPまで、統一されたものは無く、全部がバラバラ。着ている服装もバラバラといった表面的な部分だけでなく、詳しくスタッフから話を聞いていくと、研修や教育に関するマニュアルもなく、技術職なのに

「誰が誰に、いつまでに、何をどこまで、どうやって教える。」と言う基本的なものすらも用意されていなかった。

経験のあるスタッフが各自で勝手に自分のペースで研修をしていた。また眼鏡屋として一番大事な「視力検査をしてレンズの度数や見え方を決定する。」というサービスの核になる部分も、人によって検査方法や処方の出し方もまちまちで、統一された検査手順すらも何も用意されていなかった。

つまり「人によってサービスのレベルがバラバラ」だったのである。


これではベテランスタッフに偶然”当たった”お客様はまだ良いが、右も左もわからない新人スタッフに”当たってしまった”お客様はどんでもない見え方の全然使えないメガネを作られてしまいかねない。

新人スタッフの方も、しっかりとメガネに関する知識や検査方法を教えてもらえてないのに、無理やり接客させられるというのが、働く上で大きなストレスになっていた。眼の構造やメガネの知識すらまともにないのに、いきなり検査台に座らされ「プロ」として検査をさせられる。お客様からは突っ込まれる。不審がられる。人によっては文句やクレームすらも言われる。「ちゃんと教えてもらってないから解らないに決まってるのに!なんなんだよこの会社は!」一事が万事、そんな具合である。


中でも一番驚いたのは、大阪を巡回中、阿倍野橋駅の地下にあるお店で、気に入ったメガネがあったので自分で一本購入してみようと思ってカウンターに持って行き「これいいね。今度の雑誌の取材にこのメガネかけて出たいから、買って行くよ。お会計してください。」と言うと、当時、関西地区のエリアマネージャーだった尾上直樹(現FC店オーナー) が「え?お会計って・・お金払うんですか?」と口をポカンと開けて不思議な顔で聞いてきた。




「金払うんですか?って、そりゃ買うんだからお金払うに決まってるでしょ?」




「いや、社長なのにお金払うんだと思って・・」

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