オジサンがこだわった理由

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前編: 私が今死んでない理由

そっちで大好きなお酒たくさん飲んでる?

−−−−−−−−2016夏

博多駅、新幹線乗り場の改札で私はある人と待ち合わせをしていた。

たくさんの愛で私を娘のように可愛がってくれたオジサンが亡くなってから三ヶ月が経とうとしていた。


私達は駅前の喫茶店に入った。

サチコさん、その人はオジサンの友人で私の事を生前遺言を残すみたいに「よろしく」と伝えた相手だ。


「あなたが一人暮らし始めてから元気なくなっちゃってね。でも応援したいって言ってたよ。」


サチコさんの話を聞きながらまだ鮮明に残る記憶を思い出していた。


よくオジサンと私は喧嘩した。そういう時はいつもお酒が入っていてしつこく説教したりするんだ。掃除の仕方が雑だとか、料理の味付けが薄いとか。ちゃんと話聞け!だとか。


「オジサン、あなたに出逢えてすっごく楽しかったんじゃないかな」


サチコさんはハンカチを目に当てながら言った。

本当にそうなのかな。私はオジサンに感謝してもしきれない程にたくさんのものを貰ったけど、私はオジサンに何もしてあげられなかった事がずっと胸に引っかかっていた。


「楽しかったんですかね…?」

「私はそう思うよ。だってすごく嬉しそうに話していたから」


最後に会った日、オジサンは私が見えなくなるまで立ってくれていたけど、どんなこと考えてたの?いつか聞いてみたいよ。


長い時間オジサンの思い出話をしていた。もう日も沈み始めていた。

サチコさんは「熊本に帰らなければいけないから」と名残惜しそうに言った。


改札でサチコさんを見送る。

会えてよかった。と笑顔を見せるとサチコさんはその日一番の笑顔を見せてオジサンの秘密を教えてくれた。



『あいつの好物はハヤシライスなんだ。お袋の味ってあるだろ?親父の味もアリかな?』



改札を抜け階段を上がっていくのをじっと見つめていた。

曲がったら見えなくなる、という所で一旦こっちを向いたサチコさんは手を小さく振って見えなくなった。


しばらくそこから動けずにいた。行き交う人混みの中、一人顔を伏せて涙を我慢するけどそんな抵抗も無駄だった。だけど、誰も気づかない。


すれ違う人や物をほとんどの人は気にも止めない。知り合いや友人、家族、恋人でなければ風景と同じ。


ただそこに人がいるだけ。

その風景の中でオジサンは私を見つけてくれた。

みんなの読んで良かった!