貴女のはにかみ
秋も深まり、冬になる前に何か新しいことがしたくなって、あるボランティアに応募した。
30人はいるであろう大所帯の班に配属された僕は、まわりの空気感を探りながらも、自己アピールを惜しまずに存在感を発揮することを日々心がけている。
僕は、いわゆる「お調子者」だ。
緊張感が強すぎると良い仕事は出来ないし、かといって緩い雰囲気では生産性が望めない。チームワークをこなす上で、緊張と緩和のバランスがとても大事であるからこそ、僕は「笑わせる」ということに重きを置いている。
誰かに叱られるまで「お調子者」を演じる僕にとって、「叱ってくれる人」というのがとても重要になってくる。
叱られ方しだいで、ひとつの笑いが増幅することもあれば、その逆で萎縮してしまうこともある。後者はとてももったいない。だからこそお調子者である僕は、常にまわりの空気感を察して、多少の出方を瞬時に見極め、叱ってくれる人の顔色やタイミングも伺いながら叱ってもらうようにしている。
僕が属する班の長である、ひとりの女性がいる。年齢は聞いていないが、たぶん年上だ。
先日懇親会が居酒屋であり、彼女は会計係を担いながらも、ほんの少しだけ酔っぱらっていた。
帰り道、お調子者の僕はテキトーな感じを出しながら絡んでみた。
すると、少しお酒も入っていた彼女は、軽い口調で僕を叱った。
「はぁ!?お前、調子に乗んなよ」
懇親会までの大人しいおしとやかな印象とは真逆の口調の悪さに、ほんの一瞬、やっちゃったかなぁと肝を冷やした。
しかし、彼女はすぐさま頬を緩ませ、はにかんだ。
ずるい。ずるいにも程がある。
年上の女性のはにかみにやられてしまった僕は、帰り際の挨拶で、今後は僕のことを好きなように使ってくれと、貴女の犬になりますと、自ら懇願した。
彼女は、へり下る僕に身をピタッと寄せて、少し間を置いたのちに、小声で呟いた。
「...いいの?」
はうあ。膝にくる。立っているのがやっとだった。
ずるい。ずるいにも程がある。
次の日、作業の手伝いで事務所に伺うと、彼女は相変わらずはにかんでいた。
ダイレクトメール封入作業が、次から次へと、迅速かつ丁寧に進んでいく。
お調子者の僕のお調子は、貴女のはにかみひとつで、どうにでもなっているのだワン。
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