バッドエンドな恋と人生

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授業は先生、もしくは教育実習生みたいな大学生の方が部屋に来て、ワンツーマンで行われた。
確実に授業は遅れてはいたが、精神的な面においては以前と比べものにならないほど良好だった。休憩時間になると友達も遊びに来てくれた。
俺にとってそこが学校世界においての全てだった。



卒業式当日。友達の支えもあり、俺はこの日、約2年振りに教室へと戻ることができた。
クラスのみんなは自分が思っていた以上に暖かく迎え入れてくれた。それが心の底から嬉しかったのを今でも鮮明に憶えている。
俺は最後の最後で殻を破ることができた。それは1人では到底破ることのできなかった殻。友達の、みんなのおかげだった。俺は救われた想いだった。

こうして俺は無事みんなと一緒に卒業式に出ることができ、なんとか中学を卒業した。
教室で授業を受けていなかったので成績のつけようがない、ということで成績は"オール1"というなんとも悲惨な結果だった。のび太くんでももっとマシな成績をとれるだろう。
それでも高校へ入学できたのは一重に推薦をくれた学校の、先生方のおかげといえる。



俺はまた新たな舞台へと旅立った。みんなが俺の背中を押してくれた。
高校にはこれまで仲の良かった友達もいない。みんなとは別の高校になってしまったからだ。俺は不安で押し潰されそうになっていた。
そんな俺を余所に時間はゆっくりと無情に過ぎていった――。





三度目の恋と幼馴染との再会

新しく通うこととなった高校は自宅から離れていたため、俺は高校まで電車で通学していた。
この頃、初めての満員電車に俺は毎日のように酔ってしまい、気持ち悪くなっていた。こんな電車に毎日揺られながら何年も会社や学校へ通勤・通学しているサラリーマンや学生は本当に凄いと心底思った。俺もこれから毎日これを味わうと思うとゾッとした。



高校の最寄駅までは電車で約15分程の道程だった。駅から高校までは徒歩で約10分程かかる。決して大きな学校ではなかった。治安も良いとはいえなかった。むしろ、悪いといえる。

高校に入学する少し前。幼馴染のH君に俺が新しく通うことになる高校の名前を伝えると
「悪いこと言わんからやめとけ。お前ではあそこは耐えられん」
と、真剣な顔で即反対された。

このH君とは幼稚園に通っていた頃からの仲良しで、"俺といえばH君。H君といえば俺"と言われるほど仲が良かった。よく一緒にいることも多かった。
俺が中学生の頃、別室登校となった時も毎朝自転車で家まで迎えに来てくれたのもH君だった。帰りも一緒に帰り、俺の家で一緒によく遊んだ。
口が悪く、誤解されることもあったが、友達想いの良い奴だった。俺とは違い、空手で茶帯だったH君は喧嘩もめっぽう強かった。だが、弱い者イジメは決してしなかった。

別室登校で教室へ戻れない俺を毎日のように説得、説教してくれた。この時、数少ない友達の中で唯一俺の将来のことを真剣に考えてくれる、かけがえのない親友だった。
もっとこの時、H君の言葉に耳を傾けるべきだった、と今更ながら後悔している。

そんなH君とは高校入学後もしばらくは付き合いもあったが、いつからか会うこともなくなってしまった。それ以来、H君とは一度も会っていない。今一番会いたい人の1人でもある。



話は戻って高校入学当初。俺は学校が近づくにつれ襲ってくる不安と気持ち悪さに毎日のように苦しめられていた。まだ中学の時のことが尾を引いていたのだ。時には行けない日も正直あった。そんな日は自分が本当に情けなく思い、自責の念に駆られた。
それでもなんとか自分を奮い立たせ、少しずつ学校へ行ける日を増やしていった。
そんなことができたのはこの時俺は"ある人"に恋をしていたからだろう。
その人物とは学校の入り口近くにある、受付みたいなところで毎日事務のような仕事をしている女性で、生徒の貴重品等を預かってくれる女性だった。つまり、学校の職員さんだった。歳は20代前半~後半といったところだろうか。かなり綺麗な女性で、芸能人でいうと本上まなみさんに似ていた。

俺はこの時、年上の女性の魅力を初めて知った。

俺は毎日のようにこの女性、Cさんに財布を預けていた。このCさんに会うために学校へ行っていたといっても過言ではない。男とは単純でバカな生き物なのだ。

他の男子生徒がそんな綺麗な女性を放っておくはずもなく、学校中の男子生徒からも人気絶大だった。
他の男子生徒がCさんと楽しそうに話す中、俺はこの時も自分から話しかけることができずにいた。

ある日、俺は決心した。自分の想いをぶつけてみよう、と。
しかし、他の先生方や生徒の目もあるので直接告白するのは困難を極めた。
だから俺は自分の想いを手紙にしたため、小さく折って、Cさんに財布を預ける際に返信用の紙と一緒に忍ばせた。まるで大正か昭和の時代である。とても平成を生きる人間の考えとは思えない。

その日の授業終わり。俺はCさんのいる窓口へ早足で向かった。心臓が自分でも分かるくらい早く、大きく脈打ってるのが分かった。そして、いつものようにCさんから財布を返してもらった。財布とは明らかに違うなにかがある感触が俺の手から伝わった。その"なにか"はすぐ分かった。俺が一緒に渡した返信用の紙だった。Cさんは仕事の合間にちゃんと返事を書いてくれたのだ。思わずCさんの顔を見ると、Cさんは俺の顔を見ながら黙ってニッコリと微笑んでくれた。俺はもうドキドキし過ぎてどうにかなりそうだった。この時の俺は周りから見れば、かなり挙動不審だったに違いない。
俺はCさんに軽く頭を下げると、他の先生方に見つからないうちに逃げるようにその場を後にした。

最寄駅へ向かうまでの道中。どうにも我慢できなくなった俺は高校の近くにある公園に立ち寄り、公園内にあるベンチに腰をかけてCさんからの返事をドキドキしながら読んだ。

要約すると、そこには

――手紙をもらって嬉しかったこと。気持ちは嬉しいけど、すでに付き合っている人がいて付き合えないこと

等が綺麗な字で書かれていた。
結果はなんとなく分かっていた。分かっていたけど、やはり失恋というものは慣れないものだ。俺は酷く落ち込んだ。

しかし、手紙の最後にアドレスのようなものが書かれていた。付け加えて、それはCさんのパソコンのプライベート用のメールアドレスであり、よかったら今度からこっちでお話ししましょう的なことが書かれていた。
この一文に単純な俺は落ち込んでいた気持ちなどどこへやら。一気にテンションが上がった。

それから俺は毎日のようにCさんとメールで話をした。直接は無理でもメールでなら色々と話すことができた。
しかし、まともに異性と話したことのなかった俺はCさん相手に自分がハマッているアニメの話やテレビゲームの話等をしてしまっていた。Cさんからすれば明らかに興味のない話題だった。案の定、なかなか会話のキャッチボールは上手くいかず、ボールどころかデッドボールの連続だった。
それでも必ず丁寧に返事を返してくれていたCさんはきっと優しい女性だったのだろう、と今にして思う。
Cさんとのメールは俺が高校を卒業する日まで続いた。



ある年のある日。高校の最寄駅前――。
「おぉ!ゆうじやん!!」
いきなり後ろから話しかけられた。振り返ると、そこにはもう1人の幼馴染であるが立っていた。俺は驚き、Mに近づいて行った。
「おぉ!誰かと思ったらMやん!!なにしとん!?」
訊くとMの高校もすぐ近くらしく、今帰りとのことだった。最近のことや昔話に華が咲いた。

Mは俺以上に精神的な面で悩みを抱えた奴だった。これに関してはMのプライベートに関わることなので、ここで書き記すことは控えようと思う。

Mは学校を休むこともあった。少し滑舌が悪く、声が小さくて聞き取りづらいことはあったが、優しい良い奴だった。俺と一緒で他人とのコミュニケーションの取り方が下手なだけだった。
俺とH君は密かにMのことをずっと心配していた。

MとはH君ほど遊ぶ機会はなかったが、それでもたまに俺の家で遊ぶことがあった。よく一緒にテレビゲームをして遊んだ。
Mの親父と俺の親父も友達同士で、Mの妹と俺の妹も"超"が付くほど仲が良く、家族ぐるみで仲が良かった。
H君とMに関しては、よく喧嘩していた憶えがある。とはいっても、小競り合いのような小さな喧嘩がほとんどだったが。しかし、"喧嘩するほど仲が良い"という言葉通り、仲は良かった。なんでも本音で言い合える仲って感じだろうか。
小学生の頃はよく三人で遊んだものだ。

Mと中学を卒業して以来会ってなかった俺は久し振りに会えた喜びから一気にテンションが上がっていた。Mは思っていたよりも元気そうだった。
少しずつだが、Mも前向きに生きようとしているように、その時の俺には見えた。

電車を待っている間も、電車の中でも、駅に着くまでずっとMと話していた。高校で友達が1人もいなかった俺は久し振りの友との会話を楽しんだ。本当に楽しかった。時間はあっという間に過ぎていった――。

Mとは駅前で別れ、それ以来Mとは今現在に至るまで会っていない。H君同様、今どこでなにをしているのかさえ分からない。いつか俺とH君とMの3人で一緒に酒を呑むのが俺の夢の1つだ。



俺の高校生活はただただ長く感じられただけの3年間だった。修学旅行も卒業旅行もなかった。結局友達も3年間でただの1人もできなかった。もちろん、彼女も。
だから、友達や恋人と過ごした楽しい青春なんてものは俺には1つもない。
ただ、唯一救いだったのがCさんとのことだった。叶わぬ恋ではあったが、今となっては良き思い出の1つだ。

思い出、というのとは少し違うかもしれないが、高校の先輩に言われた言葉でずっと心に残っている言葉がある。それは――
「いいか?ゆうじ。良いことをすれば必ず良いことが返ってくる。悪いことをすれば必ず悪いことが返ってくる。そやから、いっぱい良いことするんやで。ええな?」
という言葉。
ほとんどの先輩が尊敬に値しない人が多い中で、その人だけはなんか少し違った。名前も知らない先輩だけど、なぜかこの言葉が俺の心にずっと染みついている。

高校卒業が間近に迫った、ある日。俺は進路を迫られていた。俺に用意された選択肢は2つ。

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