哀愁のデスラー総統

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まだ事務所が他人の家の一室で自宅が県営住宅だった頃の話。

当時三ツ矢サイダーを買うと「宇宙戦艦ヤマト」のフィギアがもれなく付いてくるフェアをやっていた。
夜中にたばこ買いに出たついでに買いました。
子供が喜ぶかと思って。
で、出てきたフィギアがよりによって「デスラー総統」・・・

しかも貫禄いっぱい、でかい椅子に座ってるし、やっぱ顔青いし・・・
他にサーシャとか森雪とかヤマトとか赤いR2D2もどきのかわいいロボットとか色々あるのに、ある意味最悪なのを引き当ててしまった。





ところが!!
次の日娘たちが食い付く食い付く。
2人でかわいい顔して「これなーに?」って興味津々。
「これはね、お父さんが小さい時とっても偉かった総統様だよ」って戦時中の話をするおじいさんみたいな口調で教えてあげた。

すると2歳と4歳の娘達が殴り合いでも始めるんかっちゅーくらいの勢いで奪い合い。
微笑ましく見ていた父親の目も束の間。
「腕がもげた~~」と泣きながら擦り寄ってくる長女。
もちろんデスラー総統の腕。

このデスラー総統、今にも「ようっ!」って挨拶せんばかりに右の腕が小さく動くつくり。
たぶん作った人は「デスラー艦隊、突撃!!」って(前方を指差す)イメージで作ったんだと思うけど、どう見ても「ようっ!」って感じ。動きが「せこっ!!」。

って思いながらもげた腕をくっつけてあげる。
そしてまた2人で奪い合い。




今度は次女が鼻水垂らしながら「腕がもげた~~」
「はいはい。お父さん整体上手だからねーーーー。大丈夫だよぉ~~」
と言いながらまた直してあげる。

で、今度は長女が「腕がもげた~~」・・・
次は次女がまた顔面鼻水だらけにしながら「腕がもげた~~」・・・
またまた長女が・・・次女が・・・
・・・・・・・・

「え~~~いっ! 晩年の大横綱『千代の富士』だってこんな数秒おきに脱臼せんぞっっっ!!!」って・・昭和のオトコにしか分からん様な突っ込みを入れつつ娘達からデスラー総統取り上げた。
すると意外とあっさり「セーラームーン」のビデオを再び見始める娘達・・・
「あれっ。今までのデスラーフィーバーは?・・・デスラー総統ごめんなさい」って親の自分が申し訳なくなるほどのあっさりしたあきらめ様。






「だよねーーー。総統、幼児のアイドルになるにはちょっとだけコアだもんねぇーーー」

で、岩野家におけるデスラーフィーバーも終焉を迎え、子供達を寝かしつけて、いつものダイニングテーブル(夜の岩野事務所)に向かうとデスラーが「ようっ!」って感じで目の前に座っていた。




嫁が寝る前に置いてくれた様だ。寂しくない様に。

薄暗い部屋の中で夜中にモクモクと一人仕事をする独立したての建築士と子供達に飽きられた脱臼癖のある総統フィギア。
そこには映画ゴッドファーザーばりの男の哀愁が限りなく凝縮されていたという過去の物語。


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手を繋ぐという行為

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