なにやってんねん。
人は私のことを「天然」と言う。
ずっと何かの間違いだと思っていた。みんな、本当の私を知らないからだ と。
しかし、、、 事件を境に思いは変わった。
ある日のことである。
私は、何気なく通りかかった靴屋のミュールに心を奪われた。
手に取り、サイズ ヒールの高さ 材質 など確認していると、店の奥からスタッフの
声がした。
「どうぞ~~ お試しくださぁ~~い (^^) 」
じゃぁ、履いてみようかな。
靴を脱ぎ、お目当てのミュールを履き、鏡の前に立った。 うん、なかなかいい。
買おうかな と思い、自分の靴に履き替えようとしたが、、、 あれ????
、、、、 ないのである。 さきほどまで履いてた靴が、ここに置いたはずの靴が
忽然と姿を消したのだ! 店の床という床を探したが見当たらない。
まさか盗難?? いやいや捨てられることはあっても盗まれるようなしろものでは
ない。 そばに居たスタッフに声をかけた。
「あの、すみません! 今、このミュールを試着してたんですが、その間に私の靴
がなくなっちゃって、、、、。」
「ホントですか!?」
店の奥からも助っ人が出てきて、3人で店中を隈なく探したが、やはりない。
「どなたか、間違えて履いていっちゃったのかしら。」 とスタッフ。
すると、後ろから申し訳なさそうな声がした。
「あの~~~ お客様、、。 もしかしてあちらがお客様の靴では?」
スタッフは、私の背後にある棚を指さしていた。振り向くと、肩ほどの高さの
段に違和感ある光景が広がっていた。お洒落を競い合うように並ぶミュール
の中に、一足だけ場違いな靴があった。そのくたびれ果てた靴は、まぎれも
なく私の靴であった。
あ、、、、、、、、っ 、、!!
棚に座するのが子供であったなら、間違いなくこう声をかけるだろう。
「何やってるの! 早く降りてきなさい!!」
でも、相手は靴だ。自分で降りて来れないし自分で登ったわけでもない。
「ご、、、ごめんなさい、、。
こんなところに置いちゃったんですね。自分で(汗)」
おそらく、棚からミュールをおろして履くと同時に、自分の靴を無意識に
そこに収めたのだろう。 恥ずかしさのあまりすぐに立ち去りたかったが、
失笑の空気の中、お詫びの気持ちもあり、
「このミュール、いただきます。(^^;) 」
と申し出た。許しを請うわけではないが、私には普段から、その場を収める
ために、よく考えもしないで何かを決めて申し出てしまう傾向がある。いや、
収めるというよりは、その空気から逃れるために。
そして、会計を待つ間 身の置き所がなく、床に散らばってる靴を揃えたり、
隅に寄せたりしていると、
「あーーー! それ、私の靴です!! 」
と、試着してる他の客に注意されてしまい、ますます居場所がなくなった。
負の連鎖だ。 せいぜい3分程の時間だったが、待つ間 充分に思い至った。
そうか。だから「天然」と言われるのか。
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