「ハンドクリーム」

 

部屋を片付けていたら、いつの間にか、今までの思い出を振り返る時間になっていることが多くあるように、本質を見失ってしまい、自分でも気付かないうちに本来やるべきこととは別のことをしていたということは、よくあることだ。それは、日常ではない非日常。むしろ、人生のターニングポイントになりえる場面にも起こり得ることなのだ。

 

 今、季節は冬真っ只中であり、女子たちは、乾燥を嫌い、加湿器をフル活動させ、定期的に顔面にミストをふっている。そんな「乾燥good bye. Let’s 保湿!」な女子たちに欠かせないアイテムがハンドクリームである。夏には、見向きもされないクリームが、冬が近づくとともに、私のバックの中の必須アイテム♡として降臨するのである。


 その一方で、この法則にあてはまらない女子も世の中には存在する。ハンドクリームというのは、手がかさついているという状態からかさついていないという状態に変える製品であり、手がかさついていることを苦としない人間にとっては、なんの意味も効果ももたらさない製品なのである。しかし、裏をとれば、手がかさついているということに気をとられるようになった瞬間から、ハンドクリームと関わる人生が始まるということである。そんなハンドクリームとの人生の幕開けは、ふとした瞬間に訪れた。

 

 その日は、試験の日で、座席に着席したのが、試験開始の20分前であった。もう確認できる時間が20分しか残っていないと思うと、確認することなどもう何一つ残っていないと思っていたところに、あれもこれもと最終確認事項が現れる。プリントを開いて、問題の見直しをしていると、横にすわっていた素敵な女の人が、カバンの中から何かを取り出した。そう、ハンドクリームである。その素敵な女の人は、ハンドクリームを丁寧に手に塗り保湿を終え、机の上を整理し、あと少しで始まるであろうテストに向けて、心も身だしなみも整えていたのである。自分はどうだろうか。そう思い、ふと手元を見た。ガサガサである。こうなればもうプリント確認どころではなく、ハンドクリーム付与が最優先である。カバンの中を探してみるとなぜかハンドクリームがそこにいた。これはまさに運命に値する出来事である。早速、ハンドクリームを手に丁寧に塗ると、スベスベむしろヌルヌルになった。と同時に、試験開始5分前になり、気づけば自分は問題を解いていた。いたって問題は難易度も高くなく、すらすら解けるのだが、どうも書き心地がよくない。なぜか、鉛筆がすりおちるように動くのだ。なぜこんなに滑るのか。そう、ハンドクリームだ。5分前に施した強烈な保湿成分が、未だに効力を持ち鉛筆との間に円滑さをうみだしていたのだ。即座に手をズボンで拭くことにより、再びnon保湿の状態にリセットした。ハンドクリーム持続時間15分であった。これが、ハンドクリームとの出会い、そして別れの全てである。


今回、この一連の小さな出来事から、人間、どんなに努力しても、自分に本性に合わないものがあるのであろうということが分かった。それが、見出しなみを整える素敵な女性であり、ハンドクリームであったというだけの話である。



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