若者はこう生きろ。ど田舎にできた高校アメフト部がたった2年で全国大会に出た話

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二人とも起きあがれずに救急車を呼ぶはめになった。Mと朝山は、それから数日間病院に入院している。

翌日、僕が病院に見舞いに行くと、Mはおでこに大きな包帯をまいていた。

「よう、インドのコブラ使いみたいやな」

Mの顔を見るなり、僕はニヤッと笑った。

「放っといてくれ。朝山に頭をかぶられるとは思わんかったわ」

「情けない」

Mはおでこに手をやって、バツが悪そうな顔をした。

「ほんま、どろさんにしてはカッコ悪いわ。この格好を女の子に見せてやりたいわ」

「ひょっとして、もう誰か見舞いに来とったりして」

「誰も来てへん」

Mが大真面目に話を遮った。

僕には、いつもはスマートなMの、慌てた姿が可笑しかった。

 

 

⒑最初はぼろ負けで当たり前

 

2年生の春、初めての練習試合が計画された。相手は、関西学院大学高等部。ここしばらくずっと日本一の学校。

U先生が独断で申し込んだものだが、初試合が日本一の高校とは、なんとも無謀な組み合わせだ。

関西学院大学の顧問の先生が、三木高校にフットボール部ができたことに好意的で、ばかにすることなく、試合を受けてくれたので実現した。

僕らを前にしてU先生がこの試合のことを告げたとき、

「え~、うっそみたい」

と僕らは驚いたが、反面初めて試合ができるうれしさもあった。

根っから単純な僕らは、それからはいつも以上に気合を入れて練習をした。

 いよいよ試合当日になった。

兵庫県の山奥から、神戸電鉄で新開地駅まで出て、そこから阪急に乗り換えて西宮北口まで行く。そこでまた今津線に乗り換えて甲東園まで行く。3時間近くかかる道のりだ。大きな防具をかかえて集団で電車に乗り込むものだから、僕らは周りのお客さんから物珍しそうにジロジロと見られた。

 僕らは阪急甲東園から曲がりくねった山道をバスに揺られて、やっと関西学院大学のキャンパスに着いた。大学など見たことのない田舎者たちは、正門を入ったところにチャペルがあるのを見て、場所を間違えたと思った。

「ここ教会と違うん?」

誰かがいった。

道行く人に聞いて、そこが大学であり、高等部はその隣にあることが分かった。

「都会はすごいわ。学校に教会があるなんて」

僕らは、勝手に思い込んで感心していた。

そして、やっと見つけた高等部は、チャペルを左に曲がった大学のキャンパスの片隅にあった。

 僕らはようやく高等部にたどり着き、関学高等部のマネージャーに着替えをする教室を教えてもらった。そこで着替えて、簡単な練習をした後、いよいよ試合開始となった。

 

試合前に整列すると、関学高等部は、90人。フィールドの端から端まで、数えられないほど選手が並んでいる。一方、三木高校は、たったの18人。

人数だけを見ても勝負にならないことは、誰の目にも明らかだった。おまけに、関学高等部の選手はその防具を付けたスタイルが妙にさまになっている。

同じように防具を付けていても僕たち三木高校の僕らはどこかぎこちない。ハイヒールを初めて履いた女の子が街を歩いていると、なぜか分かってしまうのと同じ理屈だ。

 

いよいよ試合開始時刻となった。コイントスの後、僕のキックオフで試合が始まった。

僕は、みんなに

「レディ、オールメン、ハードタックル」

と大きな声をかけ、敵陣深くまでボールを力一杯蹴りこんだ。

僕の蹴ったボールは、ぐんぐん伸びて敵のゴールライン近くまで飛んでいった。

三木高校の僕らは、タックルに向かい敵陣30ヤード付近ではリターナーをタックルできると思っていた。自分たちの練習ではいつもそうだったからだ。

が、キックされたボールを自陣5ヤードでキャッチした関学高等部の選手に、あれよあれよという間にリターンタッチダウンされてしまった。

三木高校は完璧にブロックされ、ボールを持った選手に触れることもできないまま独走されてしまった。その後のキックも決まり、何と試合開始後たったの15秒で7点も取られた。

 

フットボールは、陣取りゲームだ。100ヤードあるフィールドを自陣、敵陣の半分に分ける。その自陣の端に更に10ヤードのエンドゾーンといわれるエリアがあり、エンドゾーーンとフィールドの間にゴールラインが引かれている。

敵陣のゴールラインを超えてエンドゾーンにボールを持ち込めば、タッチダウンといって得点がもらえる。これはラグビーとよく似ている。

審判がコインを投げて裏か表かで勝ったチームが選択でき、その結果攻撃する方が決まる。攻撃にならなかった方が、自陣ゴールラインから35ヤードの地点にボールをおいて、相手陣にボールを蹴り込むことからゲームは始まる。

そのボールを受けたチームは、相手陣に向かって走りこみ、敵にタックルされたところから、攻撃が開始される。

 フットボールは、よく陣取りゲームだといわれるが、ここからその陣取りが始まる。攻撃側は、4回の攻撃権が与えられる。さすが、アメリカが発祥地であるゲームだけあり、このあたりは野球とよく似ている。

 そして、攻撃側は4回の攻撃で10ヤード(約9.1m)進めばファーストダウンを奪ったといい、また、4回の攻撃権を得ることができる。これを繰り返して、相手ゴールまでボールを持ち込めばタッチダウンといって6点になる。

 もし、4回の攻撃で10ヤード進めなければ、その場で攻守交替となり、今度は相手側が逆方向に向かって攻撃を始める。

尺取むしのように進んでは、また、反対方向に進むことを繰り返すゲームだ。

 

このように基本ルールは単純だが、テレビなどで観ていて、このスポーツの進行がよくわからないのは、パントがあるからだ。3回の攻撃をして、10ヤード獲得までまだ8ヤードあったとする。このときに4回目の攻撃をして、10ヤード獲得できなければ、その場で攻守交替となる。

そこで、4回目の攻撃で,10ヤードの獲得は難しいと判断した場合には、パントといって攻撃権を放棄するかわりに、センターから後方へスナップバックされたボールを敵陣深くに蹴り込む。そしてボールを捕球した敵をすばやくタックルし、その場から敵の攻撃を始めさせるのだ。

また、フットボールの得点には5種類ある。フットボールは、タッチダウンといって、選手が持ったボールがゴールラインを越えると6点の得点になる。

 

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