若者はこう生きろ。ど田舎にできた高校アメフト部がたった2年で全国大会に出た話

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自分も他の僕らと同じ立場だったらどれだけ楽か。僕は、この場から逃げ出したくなっていた。

「コツ、コツ」という時計の音がいつもより大きく聞こえている。

時計の針は、いつしか午前零時10分をさしていた。

僕は、とうとう座っているのに疲れて机に顔を伏せた。焦点の定まらない目の先に本棚があった。小学校の工作で造った本棚だった。その本棚の真中には、背表紙が色あせた小学校の卒業アルバムがあった。

僕は腕の上に顔を乗せて、そのアルバムをただ、ぼんやりと眺めていた。すると、不思議に小学生のときの出来事が思い出されてきた。

 それは、僕が入学したての小学1年生のときのことだった。

 

初登校日に知らない僕らばかりの中で、なぜか選挙で僕は学級委員長にされてしまった。出席番号が一番だったのが原因かも知れない。

次の日の朝、登校すると、先生がくるまでドッチボールをしようと数人がいい出した。偶然にも近所の友達が数人集まっているグループがあったからだ。

ところが、教室にはボールがない。

「おまえ委員長やろ、ボールがないで。先生とこへ行ってボールを取ってきてくれへんか」

僕に向かってグループの一人が、あたりまえのようにいった。

(なんで俺が取りにいかなあかんのや。かってに遊んでええのやろか。職員室もどこか知らんし、どないしよう)

僕は、そう思ったが、知らない相手ばかりで断ることもできなかった。

仕方なく駆け足で学校中を探して、やっと職員室を見つけた。

「先生、ドッチボールをしたいので、ボールを貸してください」

僕は、息をきらせながら頼んだ。

先生は、迷惑そうな顔をした。

「朝はそんなことしている暇はありません。誰がドッチボールをしようなんていいだしたのですか」

あっさり断られた。

僕は、クラスに帰ってそのことをみんなに告げた。

「お前、なんで先生にいうたんや」

無責任にそのグループの誰かがいった。

僕には耐えられなかった。

 

また、各クラスの委員長には週番といって、朝に1週間交代で校門の前で立ち番をする役目があった。遅刻してくる生徒に注意するためだ。僕も1年生のときから週番のときには朝早くから校門に立っていた。

あるとき、6年生が遅れてやってきて僕にいった。

「お前、何のためにそこに立っとんや」

「遅れてきた人に注意するためです」

僕が、ばか正直にそう答えると

「1年生が偉そうに注意するんか」

その6年生は僕の顔を覗き込んで、くってかかってきた。

その後は、何もいえずに、ただ立っているだけになった。

(何でこんなことさせられとんのやろ)

僕は、惨めな気持ちのまま毎日立ち続けていた。

 

5年生のときにはこんなこともあった。担任のE先生が来るのが遅れて教室でみんなが騒いでいたときのことだ。

先生は、教室に入ってくるなり、怖い顔をして僕を怒鳴りつけた。

「委員長は、何をしとるんや、みんなが騒いどるのはお前のせいや。ちゃんと静かに自習させとかんかい。それができひんのやったら今すぐ委員長なんか辞めてしまえ」

「分かるまで、廊下で反省しとけ」

僕は有無をいわさず廊下に立たされた。

(なんで、さわいでへん俺が立たされるんや)

僕は先生からしかられた驚きと、納得のいかない気持ちとが混じった複雑な気持ちだった。

僕がしばらく、いわれたとおりに廊下に立っていると、E先生が、教室の扉を開けて廊下に出てきた。そしてゆっくりと僕のところにやってきた。

「ええか。委員長とはなんや」

E先生は優しく諭すような口調でいった。

「委員長とは、クラスのリーダーと違うんか」

「クラスのリーダーは、みんなをまとめなあかん。みんなは、おまえがそれをできるやつやと思うて選んだんや」

「そやから、おまえはたとえ一人でも、みんなをええ方向にもっていったらなあかんのや」

「リーダーは、みんなと同じことをしとったらあかんのや。一人ぼっちでも、しんどくてもがんばれ」

「こんなことは小さいときから経験しとかなあかんのや。大人になってからでは、身に付かん。これは勉強よりも大事なことや」

E先生の目には優しさが戻っていた。

「わしはお前に期待しとる」

そういい終わると、何事もなかったかのように、また教室の中に入っていった。

 

小学5年生に向かってそんなことをいう先生も先生だが、そのとき以来、僕は「長はみんなをまとめるのが仕事。孤独やけど、まとめられなければ責任を取らねばならない」ということをこの先生からことある毎に教えられた。

 そしてそのうちに、先生のいう「子供のときにリーダーをしてみんなをまとめる経験をしてないやつが、社会人になって急にリーダーをやれといわれてもできるものではない。リーダーになるものは、子供のころからその経験をしている必要がある」という理屈は、そうかもしれんなと思えるようになっていた。

 最初は、なんで俺だけが立たされるんや、俺はさわいでへんし、めっちゃ損や、と思っていた。が、そのうちに、委員長とはそんなもんか、と腹をくくるようになった。

それ以後、自習になるたびに僕は

「おまえ、先生とちゃうやろ」

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