若者はこう生きろ。ど田舎にできた高校アメフト部がたった2年で全国大会に出た話

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「なにを偉そうにいうてんねん」

とガキ大将に反発されながらも

一人教壇に立って

「みなさん、静かにして下さい」

と大声でいわなければならないはめになった。だから、クラスのみんなは自習になると喜んだが、僕一人だけはその度に憂鬱になった。

 今の小学生にこんなことを要求すれば、「なぜうちの子だけが、しかられるのですか。悪いのは、さわいでいた他の子たちでしょう」

「なぜうちの子が、先生のかわりにみんなを静かにさせなければならないのですか。かわいそうでしょう」

という母親の抗議が来るに決まっているが・・・。

 

僕は、そんな昔の記憶を卒業アルバムのおかげではっきりと思い出した。

と同時に心の片隅にあった、逃げ出したいという気持ちが、体から、波が引くようにスーと消えていった。

「昔からずっとそうやった。長はしんどいもんや。けどみんなをまとめられなければ長とはちがう。みんなは俺を選んでくれたんや。長には責任がある。よし、明日みんなを集めて、自分の考えをちゃんと説明し、ダメなら解散しよう」そう心に決めた。

 一旦決めてしまうと、僕はスッキリとした気分になった。

昔から、決断するまでは、あれやこれやと結構悩む方だが、一旦こうと決めてしまうと、もう全く迷わない。

 僕には誰が何といおうと、以後考えは一切変えないガンコさがあった。

 さっそく、僕は翌日みんなに話すことをまとめるために自分の考えを文書に書きとめることにした。レポート用紙を引き出しの中から探しだして、文書を書き始めたが、いいたいことが山ほどあった。とりあえず思いつくままに書き出して、それらを順序よく並べ替えていった。

これで明日みんなの前で自分の考えを話せると納得したときには、もう窓の向こうは明るくなりかけていた。

僕は窓を開けて、ひんやりとした空気を胸一杯に吸い込んだ。

 

翌朝、いつもより早く学校に着くと、僕は早速みんなに声をかけた。

「放課後に2年5組の教室に集まってくれへんか。大事な話があるねん」

僕は、早くみんなに自分の考えを話したくて、授業を上の空で聴いていた。先生の声がずっと遠くで聞こえていた。

やっと、その日の授業が終わり、みんながぞろぞろと教室に集まってきた。

僕はみんなが集まったのを見届けると、教室の戸をゆっくりと閉めた。そして教壇に上がると

「最近、練習を怠けるやつが多い。今日は、何でお前らが練習にこうへんのか聞きたいんや。その前に俺の考えをいうから、それを聞いたあとでいいたいことがあったら遠慮せんとゆうてくれ」

と切り出した。

部を作ろうとしたときの気持ちや、折角はじめたのだから途中で止めないで続けるべきこと・・。僕は昨夜まとめたことを5分ほどかけてみんなに伝えた。

みんな、静粛に話を聞いていたが全く反応がない。

「俺のいいたいことはゆうた。お前らのいいたいことがあったらゆうてくれへんか」

誰も目を合わせずにじっと下を向いて黙っていた。

「黙っとったら分からへんやろ。なんかゆうてくれへんか」

僕は、待ちきれずに頼むような口調でいった。

それからしばらく沈黙が続いた。

やがて誰もいわないのならという顔をして、Xが口を開いた。

「練習が面白ないねん」

「同じ内容の練習ばかりやからか」

「いや、そうとはちゃうけど、なんか面白ないねん」

Xが歯切れの悪い答え方をした。

「練習が面白ない?そんな勝手な理由か」

僕は、あきれたような言い方をした。

この言い方に腹が立ったのか、今度はXが大声を出した。

「お前のような考えをしとるやつばかりやないで。自分勝手な考えを押し付けんといてくれるか」

「だいたい、なんで面白ないことをせなあかんのや」

二人は半分けんか腰になった。

「みんなそう思うとるんか」

僕は違うという誰かの意見を内心期待した。

が、またしても沈黙が続いた。

こうなってはもう誰も口を開かないだろうと僕は思った。

もともと、そんなに大きな問題があるはずがない。

僕は、この教室に入ってきたときには、どうすればみんなが練習に戻って来てくれるか、そのことばかりを考えていた。

ところが、Xの言葉を聞いて、考えが変わった。

 

「そうか、みんなそんなに練習が面白ないんか。そやったら、潰したらええやん」

「確かにシステムの練習は面白いけど、基本の繰り返し練習は面白くないかもしれん」

「そやけど、どんな一流選手でも、同じことを何回も何回も繰り返してやっと、みんなが感動する技を身に付けられるんとちゃうんか。

一流と二流の差は、この同じことを黙々と繰り返せる精神力を持っとるか待っとらへんかの違いやと思うで」

「小さいことの積み重ねができんで、どないして大きなことができるんや。突然ピラミッドの頂上ができるわけがないやろ」

「関西学院大学の選手もいつも同じ練習をしとる。同じ練習やから面白ないという、そんな甘い考えやったら、関西大会に出場なんかできるわけがないやん。それやったら潰したらええ」

「今日は、練習休みにして、明日の練習に全員揃わへんかったら、部は解散や。ええな」

そういい終えて、僕はみんなを残して先に教室を出て行った。

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