若者はこう生きろ。ど田舎にできた高校アメフト部がたった2年で全国大会に出た話
(練習が面白ない。たったそれだけの理由か。後のことは知らん。かってに相談しよるやろ)
僕にしてみれば、一種のかけだった。みんな甘えているだけで、本当に部を潰したいと考えているとは、思えなかった。
今日のことがきっかけで、また練習に戻ってきてくれる。僕はそう思いたかった。
翌日、練習の時間がきた。
練習は、いつも4時30分から開始することになっていたが、僕は先に着替えて一人グランドで待っていた。
グランドでは、野球部とサッカー部の一年生数人が既に練習の準備を始めていた。
しばらくすると、M、Y、Sが現れた。
いつもより来るのが早い。
「みんな来るかなあ」
Sが、僕の顔を見るなり心配そうに呟いた。
「きっと来るやろ」
僕は、自分に言い聞かせるように答えた。
そのうちにI、G、T、X、N、D、Kがやってきた。いつのまにか1年生もそろっている。
「誰かまだきてへんやつおるか」
僕が尋ねると、みんなは一斉にまわりを見渡した。
「ブンがまだや。あいつ何しとんねん」
Yが不満そうに顔をしかめた。
「もうちょっとだけ、待とか」
僕はみんなの気持ちを確認した。
僕らは今にも、Zが来そうな感じがして待っていたが、10分ほど待っても来ない。誰もが落ち着かない様子で、もぞもぞとしている。
僕はしばらく決断を迷っていた。が、Zは来ない。
ついに観念した。
そして、仕方なく口を開いた。
「しゃあないな、決めたことやから、部は解散や」
すると、それを待っていたかのようにグランドの入口から女の人のかん高い声がした。
「僕君、Z君から伝言」
見るとそこには、数学のQ先生の姿があった。
「先生、何やて…」
僕は叫びながら先生に走り寄った。
「Z君は、今、数学のテストの点が悪くて、居残りさせているの」
「そしたら、再テストをさせている途中で、『どうしても先生にお願いがある。一生のお願いや』というので、訳を聞いたら、『クランドに行けへんかったら、アメリカンフットボール部が俺のせいで解散になる。先生代わりに行ってきてくれへんか』というので、来たんやけど」
先生は、走ってきたらしく息を弾ませていた。
「先生、ありがとう」
「ほんまにありがとう。これで部がつぶれへん」
僕が思わずそう答えたとき、いつの間にかみんなも心配してそばに来ていた。
「おおきに。いっしょにやってくれるんやな」
僕は今にも泣き出しそうな顔になっていた。
「おまえが、昨日そこまでゆうたら、潰すわけにはいかんやろ。練習はやっぱりおもろないけど、一流になりたいからな。おまえと一緒に関西大会に出たるわ」
Xが照れくさそうに笑った。
うしろで、みんなが無言で頷いた。
いつの間にか、心配した部の解散が、再度の結束集会になっていた。
そして体育館前の斜面には、ゆっくりと坂を登っていくU先生の後姿があった。
⒓体を鍛える
やがて冬がきた。冬は、オフシーズンだ。
この間は、どこの学校もスタイルをしないで、体力作りに務める時期だ。僕らは、毎日学校から5キロメートル離れた神社へランニングに出かけることにした。
さすがにスタイルはしないが、全員ヘルメットはかぶっている。
「フットボールはヘルメットかぶってするスポーツや。ヘルメットをかぶると見える世界が違う。そやから、ヘルメットをかぶらずに練習しても、本番では役にたたん。いつもヘルメットはかぶっとけ」
U先生が、自慢げにそういったからだ。
僕らは、僕を先頭にヘルメットをかぶって一列になって町の中をランニングする。おまけに、
「オー、オッ、オッ、オッ」
と大きな声を出しながら走るものだから、道行く人がすれ違うたびにもの珍しそうに振り返って見る。
僕らは最初これが恥ずかしかったが、何日かするとだんだんと慣れてきた。すると、とたんに声が大きくなった。
昔ながらの狭い路地の両側に小さな店が肩を寄せ合うように並んでいる商店街を通り抜けて、いよいよ神社に着くと、目の前にある石の大階段をかけ上がる。
「今日もいくで。十往復や」
僕はそういって、階段を先に上り始めた。続いて他の者も上ってくる。
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