若者はこう生きろ。ど田舎にできた高校アメフト部がたった2年で全国大会に出た話

19 / 34 ページ

「僕よ。なんでお前ほどの男がそんな訳の分からんこというんや」

主任のL先生は僕を自分の前に座らせて不思議そうに尋ねた。

「先生、訳の分からんことちゃうで。ちゃんと訳があるんや」

僕がそう答えると

「そうか。ほな訳をゆうてみい」

L先生は僕の顔を覗き込んだ。

「先生、修学旅行の目的は何や」

逆に僕が先生に質問した。

「そやなあ。みんなで一緒に旅行にいっていい思い出を作ることかな」

「それやったら、みんなが参加しやすいようにせなあかんのと違うんか」

「そりゃ、そのとおりや」

「そうやろ」

「でもなあ、このままやったら、いやな思いをして参加せなあかんやつもおると思うで」

「なんでや」

先生は意味が分からないという顔をして尋ねた。

「先生は、クラスのみんながスキーウエアをどうする。早よ買いにいかなあかん。練習をしにスキー場へいかなあかん。といっているのを知っとるか」

「いや、知らん」

「ファッションショーと勘違いしとる。金持ちは、ええけど、貧乏人はかわいそうや」

「せっかくの旅行にひけめを感じながら行かなあかんやつも出てくるんやで」

僕は語気を強めた。

それを聞いて二人の先生は、困った顔をした。

が、しばらく間を置いて

「お前の考えは分かった。でも考え直してくれ」

という言葉を繰り返しただけだった。

「先生、悪いけど、俺の考えは変らんわ。他人の気持ちが分からんような金持ちは好かん」

僕は、そういうと席を立った。

 

僕が職員室から帰ってくると、Xが心配して待っていた。

「お前の気持ちもわかるけど、お前が行かへんかったら寂しいやん。一緒にいって楽しもうな」

Xは僕を誘った。

Xは、体は大きいが、意外に人に心配りができた。本当は、こいつらと一緒に行ったら楽しいやろうなと思いながも、僕はこの旅行自体筋が通らん、と思っていた。

「すまん。俺は行かれへん」

僕は申し訳ないと思いながらも、誘いを断った。

 

その後、こっそりと担任と学年主任の先生が僕の自宅を訪れていた。

僕が帰宅するなり母親がいった。

「今日なあ、先生が二人来たってな。お宅の息子さんが、修学旅行に行かないといっている。経済的な理由でお母さんが行くなとおっっしゃてるんですか。とゆうてねん」

「それでな。そんなことはないです。でもあの子が、そうゆうてるんやったら、よっぽどの理由があるんやから、あの子のいゆようにしてください。とゆうたったで」

さすがや。ありがとう。

僕は母親の対応に感謝した。

顧問のU先生もこのことに関しては一言もいわなかった。

僕にはこれはありがたかった。僕は、何となくU先生にはさからえんやろなと思っていたからだ。

ただ、三木高校では、それ以後『うしは変人や』という評判がたった。

 

みんなが修学旅行に出発した日、僕は教室にいた。教室には健康上の理由で修学旅行に参加できなかった一人ともう一人、修学旅行に抗議した変人一人と合わせて3人がいた。

もう一人の変人は陸上部の阿川で、中学時代は100メートルハードルの記録保持者だ。そう体が大きいほうではなく、こじんまりとした体つきをしている。普段はどちらかというと無口なタイプだった。

「お前なんで修学旅行に行かへんかったんや」

僕が隣に座っているAに話しかけると

「学校は、修学旅行の行先についてみんなの意見を聞くというとったやろ。そやのに意見を聞かんと、勝手に観光旅行からスキー旅行に変えよった」

「先生は、みんなスキーに行きたいに決まっとるから、意見なんか聞かんでええ。というとったけど、九州とかの観光の方がええやつもおるはずや」

Aはぶっきらぼうに答えた。

「そうか。お前は観光旅行の方がよかったんや」

僕が分かったように念を押すと

「いや。べつにスキーでもええ。学校がみんなの意見を聞かんと、かってに決めたことが気にいらんだけや」

意外な答えが返ってきた。

変なやつがいた。

でもみんなから見ると俺も変なやつかも知れない。

僕は、Aを見て、そう思った。

 

午前中は、自習の時間だった。

著者の岩崎 吉男さんに人生相談を申込む

著者の岩崎 吉男さんにメッセージを送る

メッセージを送る

著者の方だけが読めます

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。