A子ちゃんのこと

(7歳くらいの子を連れた母親が夜道を歩いている)

「ごめんね、A子ちゃん」

「おかあちゃん」

(10年後。バレーの試合)

「A子、今月で部活をやめるってコーチに言ったの?」

「うん」

「そんなの困る!もうすぐ大会じゃない。一緒に頑張ってきたじゃない!」

「ごめんね」

(帰宅後)

「母さん、本当に私、大学に行ってもいいの?」

「心配しなくていいの。お母さんが何とかするから」

「だって、うちは父親がいないんだし」

(教室で、模試の結果を返される)

「(あー)、志望校のボーダーに少し足りない」

「・・・・・・・。仕方ないか」(何かを決意する)

(生徒会の役員会で)

「Aちゃん、生徒会の副会長をやめたいって先生に言ったの?」

「ごめんね」

「どうして?やっぱり、勉強?」

(翌日、農協でA子ちゃんの母親)

「すみません。この生命保険を解約したいのですけど」

「奥さん、これはもうすぐ満期だから継続されるのをお勧めしますけど」

「いいんです。お願いします」

(学校の帰り道で農協から出てくる母親を見かけるA子ちゃん)

(塾で)

「先生、国立大学の工学部って授業料はどれくらいかな」

「なんで?」

「うち、お金がないからね。私立はムリなんだよ」

「奨学金を借りて、バイトをやれば国公立なら何とかなるかも」

「うん・・・・。お母さん、生命保険を解約してさ・・・・」

「そうなの・・・」

「これ、読んでみたら?」(アインシュタイン「晩年に想う」)

(事務所で)

「どうしたら、A子ちゃんの力になってやれるのだろう?」

「とりあえず、ボーダーを越える解答ってやつを調べないと」

「カッコ悪いけど自分で受けて徹底的に調査してみるか」

(塾で)

「A子ちゃん、家庭学習中の質問があったら365日、24時間写メして送っていいよ」

「先生、そんなことしたら儲からないじゃん(笑)。月謝もこの辺じゃ、一番安いし」

「生徒は、そんなこと心配しなくていいの!」

(教室で悪ガキが)

「A子、おまえ勉強ばっかしてんな。よれよれのジャージばっかりだし」

「・・・・」

「ちょっと、それ酷くない?」

「いいの。私、気にしてないから」

(塾で)

「先生は、どうして英語も数学も指導できるようになったの?」

「受験の前にノイローゼで倒れたことがあってね。元気なうちは頑張ろうって」

「ふーん。でも、先生は賢いからいいよね」

(39通の不合格通知と合格通知の束を見せる)

「なにこれ?へー、結構、苦労したんだ」

「先生は才能ないからね」

(教室で)

「A子ちゃん、ぼく関東の大学を受けるんだ。キミは?」

「私は、関西なの」

「そうなんだ・・・」

(淋しそうなA子ちゃん)

(受験当日)

  必死に頑張るA子ちゃん。

(合格発表の日)

  自分の受験番号をじっと見つめるA子ちゃん。

(塾)

「先生、合格したぁ!」

「当たり前だよ。大学の先生の目は、節穴じゃないもんね」

「A子ちゃん、きみのお陰で塾もいろいろ救われたんだよ。ありがとうね」

(10年後)

  A子ちゃんは、関東のある企業で研究職に就いている。(本棚には、アインシュタインの「晩年に想う」が置いてある)

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