終末期の支援
が経過しようとしていた。お互い夜勤明けで無精髭がボウボウに生えていた。そして、目は落ち窪んでいた。山田は疲れた表情でタバコに火をつけながら重そうに口を開いた…
「Aさん。大丈夫かな…」
確かに、Aさんのことは気がかりだった。Aさんは80歳の女性だ。小柄な体型だった。中程度の認知症を有している。昨夜の転倒も夜中に…
「幻覚」
が見えたことが原因だったらしい。眼の前に「子供」が立っていたそうだ。そして、子供におやつをプレゼントしようとして…
「転倒」
したらしい。朝の申し送りではAさんは「骨折の疑いがある」ということだった。Aさんは中程度の認知症があるが、愛嬌のある性格で利用者や職員から…
「愛されていた…」
私も嫌な予感がしていた。そして、山田に返答した…
「多分…大丈夫だろう」
「ああ、そうだな。俺、疲れたから、パチンコに行ってから帰るわ。じゃあな」
山田は、そのように言って、車に乗り込んだ。山田は大型のセダンを改造していた。セダンは大きなマフラーの音をさせながら…
「駐車場」
を出ていった。私も家に帰った。そして、お風呂に入った後に、眠りについた。時計を見ると、お昼の12時だ。外は明るい。ベッドで横になると昨夜の出来事が…
「夢のように」
思えた。私はいつしか、夢の世界に落ちていった…
私は夢を見ていた。遠く宇宙を旅する夢だった。そして、最後はいつも同じ場面で終わる。その時も、その場面で目が覚めた。気がつくと…
「夕方だった…」
夜勤明けは、いつもとまどう。夕方と早朝を混同するからだ。私は夜勤明けが楽しみだった。
なぜなら、夜勤明けで買い物に行くことは、当時の私の最大の楽しみだったからだ。非日常的な…
「介護施設」
という環境から、日常的な空間であるショッピングモールで本を購入することが好きだった。その日も私は夕食を済ませた後に近所のショッピングモールに…
「車を走らせた」
そして、読書を楽しんだ。翌日は公休日だ。ゆっくりと楽しもう。私は、そのように考えていた。その時の私は現在、Aさんが…
「大変な状態」
にある。ことなど、知る由もなかったのだ…
その日は、朝から天気が悪かった。今にも雨が降りそうだった。通勤途中で原付バイクとトラックが…
「衝突」
しているのを目撃した。原付きの運転手は現場にいない。おそらく医療機関に搬送されたのだろう。周辺の道路は封鎖されていた。そして、…
「警察官」
が殺気立った様子で交通整理をしていた。私は、その様子を見て、背中に「冷たい感触」がするのを感じた。施設に到着すると平常よりも…
「慌ただしかった」
私は日勤帯なので、9時出勤だ。日勤帯は比較的、穏やかな雰囲気であることが多い。しかし、その日は違っていた。下駄箱で靴を履き替えた。そして、ロッカーで…
「着替えを済ませた」
制服に着替えて持ち場に出勤した。皆、慌ただしく業務を行っている。「只事ではないな…」私は嫌な予感がした。山田も忙しく走り回っていた。そして、私を見つけると、話しかけてきた…
「おい、知ってるか。Aさん。昼頃に退院するらしいぞ。大腿骨の頸部が折れているから、車椅子らしいぞ」
私は事務所で申し送りノートを見ていたので、Aさんの様子を把握していた。
「そうらしいな。事務所のノートでみたよ。しばらく車椅子だな…」
山田は深刻そうな表情で返答した。
「…じつは、Aさんの様態が悪化してるらしいんだよ。さっき、病院から連絡があってな…もう、しばらく入院するらしいぞ」
私の背中に悪寒が走った。転倒をきっかけに入院をして状態が悪化する高齢者は多い、長期間の臥床。体に負担がかかる出術等により体力が…
「著しく低下」
するのだ。私は山田に尋ねた…
「…いつ頃、退院するんだ?」
山田は深刻そうな表情で答えた。
「まだ、未定らしい。病院からの連絡じゃあ、SPO2の値が70%らしいぞ…」
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