終末期の支援

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次話: 終末期の支援②

「医師」

 

が私を待っていた。私はAさんの顔を見た。Aさんはスヤスヤと眠っていた。穏やかな表情で、眠っていた。私の想像よりも、思った以上に…

 

「元気そうな」

 

印象をうけた。御家族の方は、私の顔を見ると、ペコリと頭を下げた。御家族の方も、顔なじみだ。Aさんには、娘さんがいた。年齢は、50代前半だろうか…毎週…

 

「日曜日」

 

には、旦那さん、自分の子供と一緒に面会に来ていた。いつも、ニコニコしていたが、今日は、沈んだ表情をしていた。医師は私の顔をジッと見つめた。そして、Aさんの…

 

「状態」

 

について説明を始めた…

 

「現在、Aさんは安定した状態です。現在の状態ならば、退院しても問題は少ない。と考えています。しかし、年齢的な問題もあるので…急変する可能性があります…現在では、SPO2の値は90前後あります。しかし、急低下する恐れもあります」

 

私は医師に質問した…

 

SPO2が低下した場合、酸素は何リットル流せばよいのでしょうか?」

 

医師は答えた…

 

「最初は2リットルで様子をみてください。そして、年齢的な問題もあるので…自然な形で…ということになります」

 

つまり、医療的な支援は終了した。ということだ。後は終末期の支援になる。医師はさらに説明を補足した…

 

「今回は、御家族の意向もあり…基本的には酸素と喀痰吸引…点滴…という形になります。方針としては自然な形で…ということですので…」

 

医師は慎重に説明を行った。私は、このB医師には好感をもっていた。説明もわかりやすく、利用者のことを第一に考えているのが…

 

「わかった」

 

からだ。そして、B医師の説明を要約すると、今後の方針として「延命治療」は行わない。ということだった。そして、…

 

「自然な形で」

 

最後を迎えたい。という意向が御家族にある。ということだ。酸素吸入と喀痰吸引、点滴も最小限ということだ。因みにAさんの娘さんは若い頃に…

 

「特別養護老人ホーム」

 

で介護業務を行っていた。という経験がある。そのために、知識もある。今回の結論も、Aさんが元気な時に、話し合って決めていたらしい。通常は…

 

「終末期支援」

 

の場合、本人の意向がわからない場合が多い。なぜなら、現代の日本社会では、「死」を極端に…

 

「忌み嫌う」

 

傾向にあるからだ。だから、家族同士であっても、終末期について、お互いが「何も知らない」ということが大半だ…そのために、Aさんの場合は…

 

「例外的なケース」

 

である。通常の場合、本人の意志がわからないから、御家族の意思が終末期支援の方針となる。そして、…

 

「本人の意志」

 

が不在である場合が通常なのだ。医師の説明が終わった後、私はAさんを車椅子に移乗させた。そして、Aさんは目覚めた。私の顔を見ると…

 

「ニコッ」

 

と微笑んでくれた…私の顔を憶えてくれていたのだろう…私は胸に熱い想いが湧き上がってくるのを感じた…

 

 

私は、その後、病院の看護師から申し送りを受けた。必要書類と薬剤を受け取る。その後、エレベーターで一階におりた。受付の人に挨拶を行った。そして、…

 

「病院の外」

 

に出た。Aさんは、久しぶりに外気にあたり、爽やかな表情になった。そして、病院の医師や看護師などが窓からAさんの退院を…

 

「見送ってくれた」

 

テレビでよく見かけるシーンだ。Aさんは、病院の職員にも好かれていたのだろう。Aさんもニッコリと笑顔を…

 

「返した…」

 

私は、病院の職員が退院者に向かって、手を振るシーンをみて、なぜ…

 

「介護がドラマにならないのか?」

 

ということを、まざまざと実感する。世間では、医療と介護は「同じようなもの」として扱われる。自分も最初は、介護は医療の…

 

「付属品」

 

のようなもの。として捉えていた。しかし、自分が実際に介護施設で勤務をするようになって、介護と医療の違いについて…

 

「実感」

 

するようになった。介護と医療の最大の違いは、「治るか?」「治らないのか?」という違いにある。医療分野では…

 

「治療」

 

を前提としている。例えば、骨折などの外傷は治る。風邪などの感染症も自然治癒力により治る。しかし、介護分野では…

 

「加齢」

 

という症状を扱う。そして、障害という症状も扱う。加齢も障害も「治る」ことはない。加齢は自然現象である。障害は症状が…

 

「固定化」

 

される。つまり、医療的段階の後を、介護や福祉が担当するのだ。そして、加齢や障害の分野は、経済的な問題、社会的な問題を多く含むのだ。実際に…

 

「国際連合」

 

が策定している高齢者や障害者に関する基準も、多くの分野を扱っている。国が発行している障害者白書などを参照しても…

 

「差別」

 

などの微妙な問題をはらんでいるのだ。つまり、加齢や障害などの状態は「治療」を行なうことができない。つまり、いくら先端医療が…

 

「発達」

 

しても、最後は老化により寿命を迎えるのである。そして、最後のステージを担当しているのが、…

 

「介護」

 

なのだ。介護施設では、利用者が笑顔で退所する。ということは非常に少ない。多くの場合は、…

 

「葬儀社」

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