糖尿病のご主人のために苦味を抑えたゴーヤジュースを発明し、特許まで取得してしまった専業主婦のおばちゃんのレシピ

■ おばちゃんとの出会い

ある日、ホームページの問い合わせサイトから連絡が入った。
 
「特許を取りたいのですが、初めてで、どのようにすればよいのですか?」
 
具体的な内容を聞いてみないことには答えずらいため、
私は書いてあった電話番号に電話をかけた。
 
「もしもし。
私、吉永国際特許事務所の吉永と申します。
この度はお問い合わせいただきありがとうございました。
早速ですが、特許出願のご相談ですか?」
 
私は問い合わせに対して、いつもこんな感じで電話をかけている。
そして、通常であれば、先方の企業の方も
 
「お世話になります。
実は弊社で開発した技術が特許になるかどうかご相談しようと思いまして。
具体的には…」
 
というように話が進んでいくのだが、
今回ばかりはいつもと勝手が違った。
 
「あら!先生!ま~お電話いただきすみません!
先生、あのね、発明をしたので特許が取れるか相談したいんです!」
 
上ずった感じの元気の良い電話の声は、明らかに企業に勤めている人の対応ではなかった。
むしろ、私の母親世代のおばちゃんと話しているような感じだ。
 
聞くと、地方の専業主婦だという。
マダム、というよりは、おばちゃん、といった印象。
 
以降、この専業主婦のことを「おばちゃん」と呼ぶことする。
 
このおばちゃんは素人だ。
メーカー勤務の開発者ではない。
大学の研究者でもない。
研究開発とは畑違いの人だ。
すぐにそう悟った。
 
だが、こちらもサービス業。
丁寧な接客を心掛けている。
失礼があってはいけない。
努めて明るく応答した。
 
「へえ~!そうなんですか!それで、何を発明されたのですか?」
 
「ゴーヤジュースです!
これを飲むと、血糖値が下がるんです!
主人が糖尿持ちで、毎日健康のためにゴーヤジュースを作っているのですが、
ゴーヤジュースを飲むと、血糖値が下がることがわかったので、
これ、特許にならないかなと思って。」
 
う~む…ありがちだ。
ものすごくありがちだ。
多分、調べれば同じ技術がすぐ見つかるだろうな…。
 
「なるほど!
でも、すでに同じ発明が知られていると特許が認められないので、
同じような発明が知られていないかどうか、調べてみますね。
またこちらから折り返しご連絡します。」
 
私は一旦受話器を置いた。
そして私は、インターネットを検索してみた。
 
すると、あっけないほど、すぐに見つかった。
 
ゴーヤには「チャランチン」という物質が含まれていて、
インスリンのごとく機能して血糖値を下げるらしい。
 
あ~やっぱりだめだ…。
この発明は、もうインターネット上でレシピが随分出回っている…。
 
私はすぐにその主婦に折り返し電話した。
 
「調べたところ、そのようなゴーヤジュースの効果は結構知られているみたいですね。
特許は、すでに知られているものだと認められないので、
何か別の工夫をしていただかないと、特許を取得するのは難しいですね。」
 
「あら~そうなんですか…
わかりました。
もう少し考えてみます。」
 
おばちゃんは少し残念そうにしていたが、諦めて電話を切った。
 
個人で、しかも研究開発に携わっていない人が特許を取得するのは、かなりハードルが高い。
特に、この手の発明は効果を立証するためのデータが必須であるから、
実験設備を持っていない個人は、外部に分析を依頼するなどしないと、
効果を立証することすらできない。
 
かといって、絵に描いた餅だけでは特許庁は特許を認めないだろう。
やはり効果を立証するデータは必要だ。
これであのおばちゃんも諦めるだろう。


■ おばちゃん再び

 
私は東京都渋谷区で特許事務所を経営している。
 
特許事務所というのは、一般には、企業が行なった研究開発の成果を特許で保護するための手続きを代理したり、
ブランドを商標登録するための手続きを代理するのが主な業務である。
 
特許事務所で働いているのは弁理士という国家資格の有資格者である。
特許出願や商標登録出願は法律の専門知識が必要であるため、
出願の手続きの代理は弁理士でないとできないことになっている。
 
(実際は、弁護士でも出願手続きの代理人になれるが、弁護士で特許出願の代理業を主な業務としている者はほぼいない。商標登録出願の代理をやっている弁護士は、少数だがいる)。
 
発明というのは今まで世の中になかったものであるから、その技術分野の最先端であると言える。
特許出願の代理をする場合、その技術分野に精通していないと、
一体何が発明のポイントなのかを理解することができないため、
特許を担当する弁理士は通常、専門分野や得意分野を持っている。
 
弁理士の専門分野をざっくり分類すると、機械、電気、化学である。
近年、IT分野の進歩が目覚ましいため、IT・通信分野を専門とする弁理士も増えた。
 
今回、おばちゃんから相談されたゴーヤジュースの発明の場合、
化学を専門とする弁理士が担当になるだろう。
 
私はというと、大きなくくりでは化学分野を専門とする弁理士、ということになるが、
独立開業するときに、農林水産分野・食品分野を専門とする特許事務所を設立し、
 
「アグリ系弁理士」
 
を名乗ってきた。
 
なぜ私がアグリ系弁理士を名乗っているのかと言うと、もともと農学部出身だと言うところが大きい。
 
これまで業界では農林水産分野の知財はニッチであり、それを専門とする弁理士がいなかった。だったら一人くらい農林水産分野を専門とする弁理士がいてもいいだろう、
と思い、農林水産分野を専門にすることにしたのだ。
 
また、農林水産分野と密接な関わりがある食品分野も専門にすることにした。
 
それに何と言っても、農林水産分野・食品分野の知的財産は面白い。
 
※注
例えばどのような知財が登録されているのか、具体例を知りたいかたは吉永国際特許事務所HPに見に来てくださいね。
 
 
最初におばちゃんから電話がかかって来てから数ヶ月が経過した。
 
ある日、私のデスクの電話が鳴った。
あのおばちゃんだ!
 
「はい。吉永です。」
 
「あ!先生!私あれから色々考えて、飲みやすいゴーヤジュースを考えたんです!
ほら、ゴーヤジュースって、体にいいけど苦いでしょ?
主人も毎日飲むのは大変だっていうんで、
飲みやすくする方法がないかと考えたんですけど、
うちの主人は血糖値高いから、砂糖や果物は入れられないんです。
だから血糖値の上がらないものを入れて、苦みを減らしたんですよ!」
 
相変わらず元気である。
前回にも増してテンションが高い。
 
「ほう!そうですか!で、何を入れたんです?」
 
そのおばちゃんから聞いたものは、私の想像をはるかに超えたものだった。
 
「枝豆豆腐です。」
 
「え?枝豆豆腐?」
 
「そうです!ゴーヤをミキサーするときに一緒に枝豆豆腐を入れると、ゴーヤジュースの苦味が減って飲みやすくなるんですよ!」
 
「そうですか。それは面白いアイデアですね。」
 
私は受話器を肩で挟みながらすぐさま
「ゴーヤジュース 枝豆豆腐」
と入力してインターネット検索をしてみた。
 
・・・ない。
確かにない。
これはひょっとしたら特許になる可能性があるかもしれない。
 
「いまインターネットでざっと検索してみましたが、
同じようなアイデアはないようですね。
詳しく特許庁のデータベースを調査してみますので、折り返し電話しますね。」
 
と言って、いったん電話を切った。
・・・とは言ったが、正直なところ、
調査したら結構あるんじゃないか?
という思いで特許庁のデータベースを調査した。
 
が、意外にも、同じアイデアは1件もヒットしなかった。
 
念のためgoogleでも検索したが、やはりヒットしなかった。
 
私はおばちゃんに電話した。
 
「詳しく調査してみましたが、これまでには知られていないようですね。
それじゃ、特許出願してみますか?」
 
「ぜひお願いします!」
 
「あと、枝豆豆腐ということでしたけど、普通の豆腐じゃダメなんですか?」
 
弁理士は仕事柄、上位概念・下位概念の技術を聞きたがる。
 
「ダメなんですよ。
普通の豆腐でも作ってみたんですが、うちの主人が、胃が持たれるし水っぽいって。」
 
「そうなんですね。
では、豆腐にする前の枝豆はどうですか?」
 
弁理士は仕事柄、置換可能な技術も聞きたがる。
 
「あ!そうですね。試しにやってみます!」
 
この点はおばちゃんも気付いていなかったようだ。
 
「ところで、血糖値が下がるというデータはお持ちなんですか?
発明の効果を立証するのに、データが必要なのですが。」
 
「はい。ありますよ!」
 
え?あるんだ。
私は少し拍子抜けした。
専業主婦のおばちゃんと実験データのイメージが結びつかなかったからだ。
でもよかった。
データがないことには特許出願ができない。
 
「では、そのデータも後日お送りいただけますか?」
 
「わかりました!それでは先生、お世話になります!」
 
後日郵送されてきた資料を見て、私は驚いた。
 
その資料には、毎日自分で血糖値を測定したデータと、医療機関で血液検査をしたデータ(生化学・血液検査報告書)が入っていたからである。
私は糖尿病患者が定期的に血糖値を検査することを知らなかったのだ。
 
そして、おばちゃんが発明したゴーヤジュースをご主人が飲んだときと飲まなかったときの血糖値のデータはもちろん、
(枝豆豆腐にする前の)枝豆を使ったゴーヤジュースを飲んだときの血糖値も記載されていた。
 
さらに、「枝豆鞘付き」というデータがあったので、これは何のことか聞いてみた。
すると、
 
「あ、これは枝豆の鞘ごと全部ミキサーにかけてみたんです。
豆をいちいち取り出すの面倒だったから。
でも繊維があって飲みにくかったみたい。あはは~!」
 
ときた。
 
このおばちゃん、なかなかのチャレンジャーである。
というか、実験台にされたご主人、ちょっとかわいそう…。
 
まとめると、おばちゃんは次の原料(ゴーヤジュースのバリエーション)を、
ご主人を実験台にして試していた。
 
①ゴーヤのみ(比較対照)
②ゴーヤ+枝豆豆腐
③ゴーヤ+枝豆
④ゴーヤ+枝豆(鞘付き)
 
ゴーヤと一緒にミキサーにかける材料は、当初は枝豆豆腐だけだったが、
枝豆豆腐のほか、枝豆、枝豆(鞘付き)もバリエーションに加わって、
飲みやすさの追求を行なったようだ。
 
これらのおばちゃん特製ゴーヤジュースを、
種類を変えてご主人に飲ませ、
血糖値を測定した。
 
すると、ゴーヤ単独よりも、枝豆豆腐や枝豆を一緒にジュースにした方が、
ゴーヤの苦味が抑えられて飲みやすさが格段にアップした。
しかも、血糖値についても、ゴーヤ単独よりも、枝豆豆腐や枝豆を一緒にジュースにした方が、血糖値が下がったというのだ。
 
特許出願の審査には、その発明について客観的に新しいことが要求され、これを
 
新規性
 
と呼んでいるが、
ただ新しいだけではダメで、さらにその発明が容易ではなかった、
という
 
進歩性
 
も同時に要求される。
 
特許を勝ち取るためには、この進歩性の要件をいかにクリアするかが勝負なのだが、
おばちゃんの発明のように、意外で顕著な効果が得られるとなると、審査をパスしやすい。
 
これならいける。
 
私は確信した。


■ やっぱり特許は諦める?!(特許出願にかかる費用)


しかし、クリアしなければならない問題は他にもある。

費用だ。

特許出願を個人でする人は少ない。
最新の特許庁のデータによれば、年間の特許出願件数のうち、個人によるものはわずか2.5%だ。

なぜ少ないかといえば、一番のネックは、特許取得のための費用が高いからである。

どれくらいかかるかというと、特許事務所によっても異なるのだが、
ここでおばちゃんに請求した額を公表するわけにはいかないので、
日本弁理士会が集計したアンケート結果を示そうと思う。

特許取得のための費用は、大きく、
特許庁に納付する印紙代(特許印紙代)と、
特許事務所に支払う手数料(弁理士報酬)
からなる。

そして、費用が発生するタイミングとしては、

①特許出願をするときに約26万円、
②出願を審査してもらうときに約15万円、
③特許庁の審査でNG(拒絶理由通知)が出たときに約12.5万円、
④めでたく登録査定が出たときに約15万円、

である(手続きの流れはこちらを参照→http://www.yoshinagapat.com/06patent_flow.html)。


そのため、個人の特許出願の相談を受けるときには、必ず費用の確認をしている。
(もちろん、新規で依頼される企業にも確認する)

しかし個人の場合は、その費用がネックとなり、特許を断念するケースもあるのだ。

実を言うと、おばちゃんは年金暮らしである。
働いていないので労働収入はない。

聞くところによると、ご主人も年金暮らしだと言うではないか。

「特許出願には結構お金がかかりますが、大丈夫ですか?」

私は見積書を送るとともにおばちゃんに確認した。

「大丈夫ですよ!特許出願するために〇〇社の株を売って結構儲かったんです!あはは~!」

私の心配は杞憂だったようだ。
おばちゃんは資金調達能力にも長けていたのである。

※著者注
個人の特許出願であって、所得税非課税者等は、審査請求料や特許料が減額または免除される制度もあります。
中小ベンチャー企業・小規模企業等にも、軽減措置が適用されることがあります。


■ いざ!特許出願!


こうしておばちゃんの特許取得大作戦(いま私が命名した)が始まった。

もちろん、おばちゃんは生まれて初めての特許出願だ。
色々不安もあったに違いない。

しかし、私は独立開業以来、食品分野・農林水産分野の知的財産を専門とするアグリ系弁理士としてクライアントのサポートをしてきたので、
ゴーヤジュースの発明などは私の得意分野である。

クライアントが弁理士に特許出願を依頼するところから特許出願を完了させるまでの流れは、
ざっとこんな感じである。

①クライアントが特許出願を弁理士に依頼する

②打ち合わせを行い、弁理士がその発明についてヒアリングを受けた後、特許出願しうる発明かどうか、出願したとして特許が取得できる発明かどうかを検討する(必要に応じて、同一または類似する発明がすでに特許出願されていないか、先行技術調査を行う)

③特許取得の可能性ありと評価できたら、詳細な発明の実験データ等を送付してもらい、弁理士が特許出願に必要な書類を作成する

④ドラフトの完成後、クライアントにドラフトを送付し、追加・変更すべき点をチェックしてもらう

⑤何回かチェック&修正を繰り返し、出願書類を完成させる

⑥出願書類が完成したら、弁理士が特許庁に出願する(出願はインターネット出願システムを利用)

インターネット経由で特許出願が完了すると、特許庁から受領書とともに出願番号が付与される。
特許事務所は出願書類の控えとともに出願完了報告と請求書をクライアントに送付する。

これで出願はひとまず完了だ。

次は出願内容を審査してもらうための手続き(出願審査請求)を行う。

特許庁は特許出願しただけでは審査してくれず、
「この出願を審査してください」
という手続き(出願審査請求手続)を行なって初めて、審査に着手してくれる。

この出願審査請求手続は、出願日から3年以内に行えばよいのだが、
そこはおばちゃん、

「すぐに審査して欲しいです!」

と言われ、出願と同時に出願審査請求手続きを行った。

特許出願の審査は、私が20年ほど前にこの業界にきたときは2~3年ほどかかっていたが、
ここ数年の間に審査のスピードが早くなり、
今では出願審査請求手続きを行ってから約1年で審査結果(拒絶理由通知又は特許査定)が来る。

早いといってもそれは昔の審査状況を知っているからこそ言えるのであって、
初めて特許出願を経験するおばちゃんにとっては知らぬ話。
1ヶ月に1度の割合で、

「審査結果はまだですか~?」

と言う問い合わせが来た。
毎日、首を長くいて審査結果を待っていたのだろう。


■ ついに特許庁から審査結果が!でも…?!


特許庁からくる発送書類、つまり、特許査定や拒絶理由通知などの審査結果は、インターネットを介して特許事務所に通知されるようになっている。

これには特許庁からダウンロードした専用のソフト(インターネット出願ソフトという)が必要なのだが、
特許事務所にいながら特許庁へ書類を発送したり、
逆に特許庁から特許事務所へ書類を受け取ることができる。
だから我々弁理士が特許庁に直接出向く機会はほとんどない。

もちろん、インターネットで手続きができるようになるまでは、書類は郵送でやりとりされていた。
ちょっとした手続きの補正をするために、印鑑を持って特許庁に出向くこともよくあったという。
その名残で、特許庁の周辺には特許事務所が数多くある。
データによれば、全国の42%は特許庁周辺に集中している。

そういえば、私が大学院を修了して初めてお世話になった特許事務所も、特許庁の目と鼻の先にあった。

ある日、いつものようにパソコンのインターネット出願ソフトを起動し、
特許庁からの発送書類をチェックした。

特許庁から発送書類がある場合、ポップアップ画面で

「現在の発送待機件数は、〇件です」のように表示される。

そして、OKボタンをクリックすると、特許庁から通知された書類がパソコンにダウンロードされる。

どのような通知が発送されたのかは、発送書類がダウンロードされた後でないとわからない。

だが、その時は来た。
ダウンロードした書類の中に、

特顔2013-○○○○○○  苦味が低減されたゴーヤジュース及び該ゴーヤジュースの製造方法

と記載されている書類がある。
おばちゃんの特許出願だ。

すかさず通知の内容を確認した。
何も拒絶理由がなければ「特許査定」となるが、審査結果は…

「拒絶理由」

ううむ…やはり日本の特許審査は厳しい。
そう易々と特許査定は出ない。

これは私の経験だが、一発で特許査定となるケースは稀で、
特許庁の審査は何かしら拒絶理由が指摘される。

だから慌てることもないのだが、おばちゃんに送付される審査結果の報告書には、

「特許庁から拒絶理由通知を受領いたしましたのでご報告申し上げます。」

となる。
ビジネスレターだから当たり前である。
親族に当てる手紙ではないので

「大丈夫だよおばちゃん。なんとかなるから元気出して。」

とは書かない。

しかし、特許査定を心待ちにしていたおばちゃんにとっては、

「拒絶理由通知」

の文字を見たときは、一瞬、目の前が真っ暗になったことだろう。

一般の人は拒絶理由となると、その時点で権利化を諦めてしまう人もいるようであるが、
我々にしてみれば、拒絶理由通知が来るのは日常茶飯事なので、
特に慌てふためくことはしない。

それに、拒絶理由通知に関する弁理士のコメントを添付するので、
そこに拒絶理由通知の分析と、対応策をきちんとアドバイスする。

今回の拒絶理由の内容は、記載要件違反であった。

拒絶理由通知書の内容を噛み砕いて言えば、つまり、

「あなたの発明はゴーヤジュースって言ってるけど、
特許請求の範囲(※)には原材料に水がないじゃん。
水がないとドロドロのペーストじゃん。
ジュースじゃないじゃん。
だから特許にしないよ。」

というものである。

※著者注
「特許請求の範囲」とは、特許として権利を請求する技術的な範囲を記載した書面で、
「請求項」という項目に、特許を取得したい発明の内容を記載します。
特許庁の審査は、この「特許請求の範囲」の「請求項」に記載された発明が、
所定の特許要件を満たしているかどうかを審査します。

こちらとしては、ゴーヤジュースの原料を限定すれば発明が明確になると考えていたので、
まさか水分について指摘されるとは思っていなかった。

とは言え、実際には水も使っていたし、スムージーのようにねっとりした飲み心地を楽しむ飲み物でもないので、
審査官の指摘を受け入れ、水も必須原料であることを請求項に限定することにした。

拒絶理由通知に対しては、特許請求の範囲を補正した
「手続補正書」
と、意見を申し述べる
「意見書」
を特許庁に提出する。

そして、それらの書類を特許庁審査官が読み、
拒絶理由が解消したと思えば特許査定を通知し、
なおも拒絶理由が解消しないと思えば拒絶査定を通知する。

今回の拒絶理由は少々屁理屈のような気もしたが、
裏を返せば、
「水を必須の原材料に加えれば特許にしてあげるよ」
ということなので、特許査定が得られる見通しは明るかった。

■ ついに特許査定!ところで…


1ヶ月後、特許庁から特許査定の通知がきた。

通知の内容は

「この出願は、拒絶理由を発見しないので、特許査定とする。」

の一文だけである。

おめでとうございますの一言もない。
しかも、

「拒絶の理由を発見しないので」

とは、イヤイヤ感満載ではないか。

しかし、特許庁の審査というのは、特許法で定められた拒絶理由に該当するかどうかを判断するものであり、

「あなたの発明はすごいから」

とか

「素晴らしいから」

という理由で特許が認められるものではない。

だから特許査定も、なんだか素っ気ないのである。

何れにしても、

「糖尿病のご主人のために苦味を抑えたゴーヤジュースのレシピ」

は、晴れて特許を認められた。

おばちゃんに特許査定を郵送したところ、
書類がおばちゃん宅に届いた頃に、電話がかかってきた。

「先生~!ありがとうございます!
いや~本当に特許が取れたなんて夢みたいです!
先生のお陰です~!」

絶賛の嵐である。

「いやいや、
〇〇さん(おばちゃん)のアイデアが良かったからですよ。
でも、特許が認められて良かったですね。
私もお役に立ててホッとしています。」

「ところで…」

私は特許出願の依頼を受けてから常々気になっていたことをおばちゃんに尋ねた。

「特許は取れましたが、これからどうするのですか?」

おばちゃんはこれから「ゴーヤジュースバー」のようなビジネスを始めるのか、
実はおばちゃんの背後には巨大食品企業が控えていて、おばちゃんの発明を大々的に実施するのか、
それともこの特許を記念碑的にいつまでも持ち続けるのか、
皆目見当がつかなかったのである。

そうしたらおばちゃん、私にこう言い放った。

「何も考えていないので、あとは先生が何とかしてください。あはは~!!」

何とかしてって…

また新しい依頼が入ったようである。【完】


※著者注
このSTORYを作成するにあたり、守秘義務に関わる部分の記載については、クライアントであるおばちゃんの許可をいただいております。

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