接骨院での一年半の物語

まずはじめにわたしについて。

当時19歳だったわたしは、大阪の専門学校を卒業し地元に出戻り。

そのころはアルバイトを転々としており、失敗続きで仕事に自信がなかった。それでも生きていくには仕事は避けられないので仕方なく仕事を探していた。そんな時、母親に勧められて接骨院の受付の面接を受けることになった。



25歳で開業した院長との出会い


面接当日。「こんにちは」と挨拶をするととマスク姿の院長が現れた。眼力がすさまじかったので少し威圧感を感じたのを覚えてる。
面接は緊張していたせいか終始しどろもどろだった。あまりの緊張で何をしゃべったのか記憶はほぼない。でも、落ちたなって思った。

「仮採用」

一瞬耳を疑った。どこが良かったんだろうと不思議に思ったが、どこか安堵している自分もいた。当時はなんで”仮”がついてるのか一ミリも疑問に思わなかった。


「荷物を運ぶのを手伝ってほしい」


仮採用が決まった翌日のこと。まだ接骨院には物が何もなくて殺風景だった。オープンまで一週間を切っていたため、わたしたちは準備に追われていた。そして、院長と車で買い物に出かけていた時に自宅に寄っていいかと聞かれた。どうやら接骨院に置く荷物を取りに行きたいらしい。もちろんいいですよと即答した。「フリスク食べる?」そういって院長に差し出されたのでお礼をいって受け取った。すると、急に車のスピードが上がった。ほんと急に。わたしはなんだか嫌な予感がした。
自宅に着いて中に入ると院長は「中に入って待ってて。俺トイレ」わたしは玄関に突っ立ってるわけにはいかず、おそるおそる中に入った。部屋は荷物でいっぱいでアニメのフィギュアがたくさんあった。座ってフィギュアを眺めていると院長がトイレから出てきた。
わたしの目の前で体育座りをし、上目づかいでこちらを見てくる。
まるでなにかを期待するかのように。
互いに沈黙が流れる。

「・・・居心地悪いんですけど」
思わず低い声が出た。

院長は苦笑いして何事もなかったかのように荷物の整理をし始めた。わたしもそれに合わせて手伝いをした。帰りの車内では会話もなく、わたしは外の景色を眺めながらぼーっとしてた。なぜかなんの感情もわかなかった。そもそもわたしは男の人が苦手な部分もあり、結局男の人はみんなそんなもんなんだとどこかで割り切っていたのかもしれない。荷物を運び終え、帰るときに働くことを辞退しようかと思った。でも院長の様子を眺めているうちにこう思った。

自分の有利に仕事ができるかもしれない。

ほんとに読んでいくうちに分かると思いますが、わたしは頭がよくない。でも今になって思うのは本当に辞めなくて良かったということだけ。ちなみに面接から1週間後には本採用決定しました。何より。
この時から日記を書くようになった。今こうして思い出しながら書けるのはその時の日記があるからです。
そう。開店祝いのスタンド花が届いてた。
○○接骨院 さま
綾波レイ より       え?? 




30半ばに見える老け顔院長からの告白

仕事を始めて1か月ほど経った頃、全く仕事には慣れていなかったが(笑)それなりに楽しかった。まあそれは院長に自由にやらせてもらっていたおかげなんだけれども。院長は仕事はできるし人気もあるし(特に女性人気)、差し入れなどたくさんもらっていた。あれから食事の誘いなどはあったけど、特に気にすることなく受け流していた。ある日のこと。仕事終わりに話す機会があった。
「異性として好き。」
月夜に照らされてはいるものの薄暗く、表情はよく見えなかったが冗談には聞こえなかった。
でも、だれにでも言ってるって思った。院長にとってはこんなの挨拶だろうって。
「院長のことは尊敬してますけど、人として好きになれない。」
本心だった。院長は誰にでもいい顔するいわゆる”いい人”で、プライベートで見せる表情はいつも目が笑ってなかった。
「かなみちゃんとは上司でもありたいし、友達でもありたいし、彼氏にもなりたい。」
そんなことを言われた。
でも、わたしの心は動かなかった。



フラッシュバック

「やっぱりわたしは辞めたほうがいいと思います。」それがわたしの口癖だった。
そのたびに院長はわたしをなだめて説得してくれていた。
「絆を作りたい」わたしにはその言葉が何より印象的に残った。
電話を取ってもパニックになり切ってしまったり、印字ミスの領収書を渡してしまったり、お会計を後回しに洗濯物に行き院長にお会計をさせてしまっていたり、お金の計算間違いはしょっちゅう。あげたらキリないほど失敗を繰り返していた。それでも院長は注意することはあっても、怒ることはなかった。でも、わたしは怒られるのが怖くていつ怒られるかばかりに気がいって集中できず、毎日ビクビクしていた。
院長の考えていることが分からなかった。院長はこんなわたしにこのままでもいいよとか期待してるよとか俺が選んだ人なんだからって優しい言葉をかけてくれていたけど、心の中でははらわた煮えくり返ってるんじゃないかって被害妄想が止まらなかった。そのころはストーカーに監視され部屋を荒らされる夢や、金縛りにあう夢を見るなど精神的に限界がきていた。

ウェルニッケ失語症じゃないか
ある日そんなことを院長に言われた。
ウェルニッケ失語症とは簡単にまとめると別名“感覚性失語”ともいわれています。話し方はなめらかですが、いい間違いが目立つ発話で、特に聞いて理解することの障害と真似していうことの障害を特徴とする失語症です。
違うなら回復の見込みはあるかもって言っていた。院長はわたしのこといろいろ考えてくれていた。わたしのことを直そうとしてくれているんだって思った。ショックとは思わなかった。

いつの日か患者さんとの話し声が聞こえた。「気を使われるし緊張するから見ててイライラする。」
わたしのこと言ってるってすぐにわかった。もう院長の言動、行動ひとつひとつにいちいち反応してしまっていて過敏になっていた。優しくしてくれるのも限界があるし、我慢しているのがすごく伝わってきた。そんな院長が怖かった。でも、それ以上に自分が怖かった。ここでやっていけなかったらわたしはどこにいってもなにもできない気がした。まさにクズの中のクズ。

それでも向き合うのが怖くて逃げたくてやっぱり辞めたいといつものように院長に訴えた。でもこの日は違った。「今辞められるほうが迷惑やけんな」わたしの顔も見ずにそう冷たく言い放った。まるでやめてほしいと言わんばかりの態度だった。それを見かねてか患者kさんが仲裁に入ってくれたけど、それでも院長はなにか言いたげだったので「わたしも言いたいことがあります」と言った。
院長は怒り口調で何?と聞いてきた。
「院長にはほんとに感謝しているんです。こんなわたしに優しくしてくれて。だからほんとにうれしいんです。」思いのたけを伝えた。もう号泣。
kさんは院長に向かって「絶対言うなよ!!!」と、強くたしなめた。
kさんはかわいい〜とわたしを優しく抱きしめてくれてこういった。「あと半年。半年頑張ろう。」
その場はkさんのおかげで丸く収まった。kさんがいなかったらわたし絶対辞めていただろうな。



思考の変化

それからというもののわたしは劇的に変わった。どう変わったのかというとまず被害妄想がなくなった。わたしはどこかで院長の言葉を信用していなかった。全部うわべの言葉で本心は違うってずっと思っていた。でもそうじゃないって気づいた。そしたらあっという間に悩みが一気になくなって自分のことしか考えられなかったけれど周りを見る余裕ができた。余裕ができたら行動も変化した。頭で考えて先回りの行動ができるようになった。むしろこんな簡単なことが今までなんでできなかったんだろうと思うほどわたしの頭は凝り固まっていた。霧がかったもやが突然晴れたかのようにわたしの視界はクリアになっていった。
変化してから1か月ほど経ったころ、わたしはまた院長に辞めたいと訴えた。
なんで?と院長は驚いた様子だった。わたしはこんな自分に気づかせてくれたことが嬉しかった。でも、院長はなにも反応がなくて自分だけが変わったような気がして本当は何も変わってないんじゃないかと思った。そう思うと不安になった。でもそんなのは全部いいわけでわたしは院長からの反応を期待して辞めたいふりをしたんだと思う。案の定、院長は「よく頑張ったね」って褒めてくれた。


これはいつの日か壁にかかっていたわたしへの愛あるアドバイスです。こんなに嬉しいことはないよ。いまでもずっとずっと感謝の気持ちでいっぱいです。

小話①


「鏡拭いておいて」そう言われた。乾いたぞうきん一枚、鏡用の洗剤を準備していざ出陣。ぶっちゃけそんな汚れてないし拭く必要ある?って心の中で思った。でもそこからが問題。拭けば拭くほど汚れる。何故。そして後ろから視線を感じる。「なんで汚れるんよ!」ええ、ごもっとも。院長は診察を中断して私の方にやってきた。「濡れたぞうきん1枚と乾いたぞうきん1枚持ってこい」院長が鏡を拭くとものの10秒ぐらいできれいになった。すっごいきれいになった。院長はあきれつつも笑ってた。
こういった失敗も笑って許してくれる院長の人柄は人の心を温かくしてくれる。

小話②



普段患者さん用に置いてあるコーヒーの容器を洗って休憩室から出ようとした。扉は半分開いていたので体がぶつからないように避けて出たつもりだった。
ガンッ。
思いっきり右半身をぶつけた。でもわたしにしてみればこんなのしょっちゅうあることだから気にせず、特に反応することもなく容器を戻しに行った。でもそれを見ていた院長は笑ってた。多分。。。この辺はうろ覚えです・・・容器を戻して休憩室に戻ろうとした。ふと気が付くと扉が全開になってた。院長がなにか言ったり、わたしがお願いでもしたわけではなかったのに。きっとわたしがぶつからないように開けてくれたんだと思う。院長のさりげない優しさがかいまみえた瞬間でした。
特別なことよりも、日々のなんでもないような気遣いがわたしにはすごくすごくうれしいことなんだよ。

小話③



ある日、わたしの予約の入れ方が悪くて患者さんを待たせてしまった。この時に限らずしょっちゅう待たせることはあった。言い訳をさせてもらえるならば、院長が予約いっぱいなのに飛び込みの患者さんも無理やり入れるところがあるからだ。でも、この日の患者さんはわたしが待たせてしまったことですごく怒っていた。「すみません」そう何度も何度も繰り返した。
わたしは怒られることが苦手だ。頭が真っ白になってパニックになる。いくら仕事に慣れてきたとはいえ、怒られることの免疫はまだまだだ。幼少期からわたしはあまり怒られた記憶がない。きっと周りからあきらめられてたんだと思う。その患者さんは終始怒りが収まらなく、ほんとに何度も謝った。患者さんが帰られた後、片づけをしていたら院長の話し声が耳に届いた。わたしが書くと語弊が生まれそうなので感じたことを書きます。
院長はわたしのことを守ってくれた。普通なら叱られてもいいはずなのに、わたしを守ってくれた。



忘年会


11月末日。忘年会が行われた。この日は院長が開業する前に働いていた職場の方たちとの合同の忘年会だった。わたしはお酒は弱い方だが特別にと思ってほろよい程度にたしなんだ。忘年会自体は楽しかった。でも問題は起きた。忘年会がお開きになり、院長は迷わずわたしを二次会に誘ってきた。わたしは帰りたいと言ったにも関わらずガン無視で行かざるを得なかった。カラオケがいい?バーがいい?と聞いてきたのでバーがいいといった。カラオケは昔から得意じゃなくてそれならバーのほうがいいと思った。でも聞いてきたくせに結局接骨院で飲もうということになった。
スーパーでお酒と氷、お菓子などを買って接骨院へ。
たわいもない話をしてた。院長の経験人数が三ケタいってると自ら自慢してきた。ぶっちゃけ女からしたら全然自慢することじゃないし、なによりわたしは絶対関わりたくないって思った。
院長が作ったお酒を飲んでみるとめっちゃアルコールがキツイ。一口飲んでわかった。わたしはすぐに自分で選んだ酎ハイを飲んでいたけれど、忘年会でも飲んでいたせいか酔いが回る。
次第に院長の言葉にも返事できなくなり寝てしまう!と危機感を覚えた。
かなみちゃん起きて!かなみちゃん!と院長の呼ぶ声は聞こえるんだけどどうしても体が動かせない。
なにかが近づいてきた。足音が近づいてくる。きっとわたしが眠ったと思ったに違いない。体は全く動かせなかったけど意識だけはしっかりしていた。
わたしの唇になにかが押し当てられた。キスされたってすぐわかった。ファーストキスだったのにと血の気が引いた。そのあともべたべた触ってくる。明らかに身の危険を感じてなんとか目を開けた。「・・・近いんですけど」精一杯の声でつぶやいた。
「起きて!もっと近づくよ!」
わたしはもう目を一瞬開けるので精一杯でまた動けなくなった。でもそれが効いたのか院長はそそくさと帰って行った。
深夜3時ごろだったかな。ようやく体が動いて家に帰宅。放心状態だった。


次の日。
わたしは反省した。男の人とふたりきりで飲んだ自分が悪いと思った。だから昨日のことはなかったことにしようと仕事へ向かった。
「お疲れ様です」院長をみて昨日のことが鮮明に思い出された。
顔に出したらいけないと思い、無理やり「昨日は寝てしまってすみませんでしたぁ~(笑)」と笑顔を作る。それを聞いた院長は「別にいいよ」といった。もうしょうがないと割り切るしかないと思った。
でも、そうはいかなかった。院長はわたしの様子をみてバレなかったと思い上機嫌になった。イラっとした。ものすごく。大事なので二回言う。イラっとした。ものすごく。
わたしは我慢していたので連日院長にぶっきらぼうに答えていた。でも院長はそれを許さなかった。
また1週間後の12月7日に俺らだけでまた忘年会をやろうといいだした。
そして忘年会前日。仕事終わりに院長に呼ばれる。
「かなみちゃんが冷たい。」当たり前だ。馬鹿野郎。でもそんなのは我慢我慢。
「すみません。直します」そういって帰ろうとしたら「話がある」そう言われて休憩室に連れて行かれた。
いきなり矢継ぎ早にかなみちゃんの〇〇ができていない。かなみちゃんは〇〇で〇〇だから〇〇して~~とかあーだこーだ説教が始まった。それも延々と。
最初はおとなしく聞いてた。そうすれば丸く収まるとおもったから。でも聞いてるうちにわたしの悪口をいいだすようになった。多分1時間くらい。
そうしていたら張りつめていた糸がプッツーンと切れた。おもむろに「寝てなかったっていったら??!」
「あのとき体は動かなかったけど意識はあった。院長はバレなきゃいいやって思ってたんでしょう???」そういうとみるみる院長の顔が真っ青になった。私はこの場にいるのがいやでいやですぐさま荷物を取った。
「帰ります!!!」
「かなみちゃん!待って」

休憩室をでてわたしはひざからくずれおちた。もう子供みたいにわんわん泣き喚いた。
しばらく泣いたと思う。我慢していた分余計に。慕ってた分、信頼していた分、心のショックは大きかった。

帰ってから院長からLINEが来ていた。
長文の謝罪メールだった。
載せます(笑)


かけがえのないもの


それからというものの院長の態度は激変した。ものずごくわたしに気を遣うようになった。気軽に話しかけにもこなくなったし、あー反省してるんだなって思った。その姿を見ているとなんだか怒りもふっとんだ。それよりもわたしは毎日仕事をできていることの幸せを強く感じるようになっていた。院長はわたしに居場所をくれた。仕事の楽しさを教えてくれた。だから絶対辞めたくないし、一生懸命頑張ると心に誓った。院長にはわたしがいてくれてよかったと思ってもらえるような存在になりたい。正直、院長に惹かれている自分がいた。ただ、男としてと言われると全くときめかなかったけれど。
時間がたつと記憶というものはだんだん風化していくもので、ひと月もすれば冗談も言い合えるくらいになっていた。院長はめっちゃドS。わたしに最初はカスやと思った(笑)とか言ってくるし、真顔でとろい!ちんたらすな!とわたしをけなしてくる。もう泣きそうーーー。


嬉し涙


いつも院長は差し入れをわたしに分けてくれる。ほんとに女性からの支持が厚いのなんの。でも今回は違った。患者tさんがわたしのためにおでんを作ってきてくれた。院長はたくさんもらってるだろうから、とわたしだけに作ってきてくれた。残り物だから気にしないでと。でも残り物にしては量も多かったし、私の分も含めて作ってきてくれたんじゃないかと思った。家に持ち帰り、お腹がすごく空いていたので冷たいまま食べた。tさんのおでんは冷めていたのにすごくあったかくて、あったかくて涙が止まらなかった。嬉し泣きってほんとにあるんだね。

目標

一緒に仕事をしていく中でわたしはふと疑問に思った。院長はわたしに何を求めているんだろうと。もちろん仕事のことで。院長の目指しているものがなにかよく分からなかった。だから、聞いてみた。
すると、「気が利く受付助手兼アイドル」って言った。
わたしは自信がなくて「難しい」って言ったら、「大丈夫だから」と力強く答えてくれた。聞いみるもんだな。


差し入れ

最近首が痛い。体中痛いけど特に首が痛い。わたしは何を思ってか院長に首を診てほしいと伝えた。院長はいいよと即答してくれた。あおむけで寝ているので院長と目があう。思わずそらしてしまった。時間的には5分、10分くらいだと思う。仕事の話してたかな。あっという間だった。ちゃんとお礼もつたえて接骨院を出た。自転車に乗って家に帰るはずがコンビニに向かっていた。なにかに突き動かされたかのように。今回のお礼に栄養ドリンク2本と院長の好きなおはぎを買って接骨院に戻った。栄養ドリンクは迷って決められなかったので2本買いました(笑)
院長はまだ仕事が残っていたので残業していた。戻ってきたわたしをみて少しびっくりしつつも顔はほころんでいた。院長は患者さんから差し入れでもらっていたチキンの余りを半ば押し付けるかのように渡してきた。
差し入れは喜んでくれたと思う。だって翌日出勤してすぐに「昨日はありがとう」って再度お礼をいってくれたから。でもなにより、嫌われていないっていう安心感もあったのかな。


手紙



1月某日。この日は院長の26歳の誕生日だった。わたしは感謝の気持ちを込めてプレゼントと手紙を渡した。プレゼントはスポーツ用品店で安売りしてたネックピロー。院長には申し訳ないけど、適当に選んだ&お金かけたくなかった(笑)でも手紙はものすごく考えて考えて書いた。何度も読み返したから今でも内容は覚えてる。

「いつもお世話になっています。日頃から感謝の気持ちを伝えればいいのですが、まだうまく伝えられないので手紙を書きます。安易な気持ちで受けた面接でしたが、わたしは心の底から受けてよかったと、院長と出会えてよかったと思っています。自信がなくて不安ばかりの毎日がこんなにも一変するなんて思ってもみませんでした。でも、満足はしていません。やっとスタートラインに立てたのかなと思っています。この8か月の間にいろいろなことがありました。つらい時間のほうが多かったかもしれません。でも、その何倍も何十倍も何百倍も幸せを感じました。ーーー以下省略」

手紙のおかげか院長が笑ってることが多くなった。仕事も優しく接してくれるし、よく仕事のことで話し合いもしていた。わたしは仕事に少しずつ余裕ができていたからか新たな目標ができた。それは、お金に困っていたので仕事をもうひとつ増やすことと彼氏を作ること。

慣れ

仕事に慣れてくると今度は手を抜くことを考え始めるよくない私。それを見透かされていた。仕事が終わってすぐさま院長に呼び止められた。
「お前はやる気があるんかないんかどっちなんぞ!!!!!!」
まるでヤクザかな?と疑うほどに激しく怒ってた。
わたしはやる気があるともないとも言えなかった。だって、やる気があるならきっと院長にも伝わっているし、こんなに怒っているのは少なからずやる気がないように見えているわけで。でも、やる気がないなんてそんなこと思ってなかったし、言いたくなかった。そんなことを考えている間にも院長は怒鳴ってて、思わず泣いてしまった。それを見た院長は口ごもり、大丈夫だから、と、だんだん口調は優しくなっていった。その後、院長は逃げるかのように帰って行った。
一緒に働いてた助手の子に言われた。
「なんでかなさんにあんなに厳しいんですか?」って。
わたしは半ば半ギレで「知らんよ」って答えた。
期待のあらわれなんだろうか。

甘え

仕事を始めて一年くらいが経っていた。わたしは辞めることなんかありえない。院長がわたしを辞めさせることなんかありえない。だって、院長に好かれているから。必要とされているから。そう思うようになっていった。院長の優しさに甘えてそっけない態度を繰り返すようになった。
辞めたい」
あるとき、再度言ってみた。いつものように引き留めてくれるって確信してたから院長のことを試してみた。本気で辞めるつもりなんてさらさらなかった。でも、あっさり「いいよ」って言われた。わたしは思ってもみなかった言葉にびっくりした。そして、後悔した。でも、辞めたくないなんて今更言えない。
それから辞める話しは進んでいて、院長は新しいスタッフを面接するようになった。もうしょうがない。あきらめよう。そう思った。

それからの院長のわたしへの態度はあきらかに冷たくなっていった。わざと言ったことが気に食わなかっただろうし、きっと恩を仇で返したなんて思ってる。そんな態度だった。
いつの日か、腰が痛くてウォーターサーバーのタンクを入れ替えることができなかった。恐る恐る院長に換えてもらえないか頼んでみた。でも断られた。というか突き放された。思わず、トイレ掃除をしてきますといい、トイレに入った瞬間、声を押し殺して泣いた。ほんとに辛かった。
あまりにも出てこないから院長も察したんだろう。タンクの入れ替える音が聞こえた。わたしはトイレを掃除して逃げるかのように帰った。






著者のかなみさんにメッセージを送る

メッセージを送る

著者の方だけが読めます

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。