A子ちゃんのお母さんのこと
愛子ちゃんは、卒業を迎えた。ヒデキは、大学院に進学し、留学を夢見ていた。愛子ちゃんは、故郷にある養護施設で働き始めた。
彼女が免許を取って、ヒデキはチャリンコ。歳の差を感じた。
そんな時、ヒデキは留年した。両親は心配した。ヒデキが同窓会で、無断で外泊したら
「悲観して、自殺したのではないか・・」
と、騒ぎになった。母親は泣いていた。留年は、愛子ちゃんのせいではなかったけれど、ヒデキは自分を責めた。
そこで、ヒデキは愛子ちゃんに言った。
「ごめん。もう会えない。大学生のボクには愛子ちゃんは重過ぎる」
結局、別れることになった。好きなまま別れるしかなかった。
「もっと大人になって、縁があったらその時に」
という別れ方だった。ヒデキは、愛子ちゃんの家の人に怒鳴り込まれるような気がした。
でも、愛子ちゃんが、家族を説得し、納得させたのだろう。何もなかった。愛子ちゃんは、そういう女性だった。
その後、ヒデキを心配した両親が留年中の夏休みにアメリカ旅行に行かせてくれてヒデキは、英語と数学を教える講師になった。
30歳の頃、ヒデキも愛子ちゃんも同じことを考えていた。
「連絡がないなぁ・・・。もう過去の話として忘れているんだ」
ロンドンで英語の勉強をする愛子ちゃん。アメリカで中学教師をしているヒデキ。旦那様とケンカしている愛子ちゃん。家庭裁判所で離婚調停中のヒデキ。
10年経過。
ヒデキはバツイチになって、愛子ちゃんのことを思い出した。幸福な結婚をしているなら、それでいいと思っていた。それで、形だけの年賀状を出した。
そんなある日、突然ヒデキの携帯電話が鳴り
「私、大学時代に知り合いだった愛子と申します。年賀状を受け取って電話をしているのですが、私が誰だかお分かりになりますか?」
ヒデキは、思わず、
「愛子ちゃんなの?今、幸福か?」
と叫んだ。すると、電話の向こうで泣いているのが分かった。20年経っても気持ちが同じであることが、一瞬にして分かった。
それで、連絡をとり20年ぶりに待ち合わせをした。二人ともバツイチで、愛子ちゃんにはA子ちゃんという娘がいた。ヒデキには二人の息子がいた。講師という職業まで同じだった。
2人は、20年間の空白を埋めるかのように、いろいろと話をした。愛子ちゃんは、
「ヒデキにとって、私はどういう存在だったのか気になっていた」
と言った。20代にもどったように、二人は子供を学校に送り出した後、一緒に映画に行ったり、食事をしたりして語り明かした。一緒にプールに行ってはしゃいだ。
そんな時、愛子ちゃんは
「処女をあげられず、子供も産んであげられず、ゴメンね」
と言った。
授業をしているヒデキ。
「モノを投げるとね、こんな数式で表される放物線を描いて飛んでいく」
「ネックレスをかけると、高校で習うカテナリー曲線を描くんだよ」
「それって、この世の全ては数式で表現できるってことですか?」
「そうかもしれないね。この世界は、誰かが大きなグランドデザインを描いて作り上げた可能性もある」
「神様?まさか(笑)」
ヒデキは、窓から空を見ながら、つぶやく
「愛子ちゃん、こんなことがあるんだね。早すぎるよ・・・」
「A子ちゃんは、もうあの頃のボクたちより年上だから大丈夫。でも、もっと一緒にいたかった。ひどいよ、愛子ちゃん」
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