第34話 パパが女(アリッサ)になったとき LA発LGBTトランスジェンダー家族日記
今回の内容とまったく関係ありませんが、うちの長女は絵を描くのが大好き。
親バカ上等!才能あるとおもうんだ。
土曜日はアートスタジオに通っています
アリッサとの家族体験を書くとき、わたしは、当時の自分の気持ちとシンクロします。「黒いドレスの女事件」のときは憎悪、「服を縫う女事件」のときは、能天気なアリッサに呆れつつも応援したい気持ち。
今回の「チケットをねだる女事件」は、わたしの知らない女に変貌し、迷走暴走する夫であった人に対する喪失感でしょうか。
アリッサがカミングアウトして約1年後の2017年の4月。わたしたちは家族で日本へ帰省することにしました。
両親が元気なうちに娘たちに会わせておきたかった
日本行きの激安チケットを購入できた
アリッサのカミングアウトでわたしの心が疲れていた
以上が一時帰国の理由。
当時、アリッサがはまっていたのは 、日本人バンド、L'Arc〜en〜Ciel (以降、ラクル)。ロサンゼルス近郊でラルクのライブコンサートが開催されるとき、アリッサは 最前列の席を確保するため、前日の夜からグルーピーたちと一緒に会場前に泊まり込むほどの熱の入れ様でした。
日本滞在予定中の4月8日にラルク結成25周年コンサートが東京ドームで開催されると知ったときのアリッサの興奮ぶりは尋常でなかった。
60万件におよぶチケットの申し込みが殺到したというプレミアム公演。「日本に住む日本人でさえ、入手が困難だから、アメリカに住んでいるあなたにはきっと無理だよ」というわたしの説得にはまったく聞く耳持たずのアリッサ。
予想通り、チケットは 一般販売開始直後に即売り切れ。その後、アリッサの会社の日本人の同僚、日本に住む彼女のお姉さんとそのご主人、わたしの友人で日本に帰国したSちゃんとそのご主人を巻き込み、すったもんだの末、アリッサは競売に出されたチケットを高値で入手したのです。
わたしはこのチケット入手プロセスに一切関わりませんでした。面倒に巻き込まれるのはごめんだったので、最初からアリッサに、「わたしは手を貸しません」宣言をしておいたのです。日本に住むお友達のSちゃんにも「面倒なことになるから、アリッサから頼まれても無視してね」と伝えていたものの、心優しいSちゃんとご主人は忙しい時間を縫って、チケットを手にいれるために手をつくしてくれました。
問題はここから。
アリッサ側の落ち度で、チケット代を立て替えてくれたSちゃんへの口座振り込みに問題が発生。日本到着前に口座振込をする予定が、うまくいかず、結局、日本到着後の振込になってしまったのです。直接会いに行き謝ってお礼をするのが常識。チケットを入手するのに大迷惑をかけただけでなく、支払い時期まで大幅に遅れてしまったのだから。
が、しかし、へそを曲げて逆切れしたアリッサ。「自分はできる限りのことをした。悪いのは自分じゃないので絶対謝らない」の一点張り。
「Sちゃんはもともと、あなたじゃなくて、わたしの友達なんだよ。友情にひびがはいるからお願いだから謝って。大人の常識はどこ?」というわたしの懇願も無視。結局、Sちゃんにはわたしが謝り、アリッサはイキイキとコンサートに出掛けていきました。
この事件でわたしが思ったこと。
アリッサがカミングアウトしたのは、女になりたかったのではなくて、
夫としての責任、
父親としての責任
社会人としての責任
すべての責任を放棄して、いい人であることをやめて、自分の好きなことを好きなようにやりたかっただけなのかも。
自分勝手で我がままな、わたしの知らない女が、責任感と正義感に溢れた、優しいあの人にのり移ったような錯覚を覚えた寂しく物悲しい事件でした。
今思うとアリッサもあの時はいろいろつらい時期だったのかな。彼女のなかで、私には相談できない何かが起きていたのかな。
今のアリッサは昔と同じで、責任感に溢れたきちんとした大人の女性です。
次回は「娘について」。親バカ上等。
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