ばあちゃん(30~31歳)
この頃に僕は結婚をしました。
もともとは結婚なんかに全く興味がなかったのですが、
周りの友達が結婚をしていくのを見て
”結婚も悪くないのかも…”って何となく思い始めてたのです。
結婚を機に、僕は以前からずっと思っていたことについて改めて考えました。
それは、僕が小学生だった頃に唯一の味方だった
継母の母…義祖母にお礼を言いたいということです。
あの頃の僕を受け止めてくれたのは、義祖母だけ。
お礼を言いたいというのは10代の頃からずっと思っていたことでしたが、
なかなかそれを行動に移すことができずにいました。
”結婚をした今、まさに今がそのお礼を言うタイミングなのでは?”
考えた末に、そう思い立った僕は会いに行くことを決意しました。
とはいえ義祖母の電話番号などは一切分かりません。
継母に電話して聞くのが手っ取り早いのですが、なんとなく自力で探したかった。
覚えているのは住んでいる地名だけ。それだけを頼りに探しました。
探すのに苦労するかな…と覚悟を決めていましたが、
意外にあっさりと家は探すことはできました。
継母の旧姓は少し珍しかったし、更に住んでいる所は小さい村だったので
交番に聞いたらすぐに教えてくれたのです。
表札を何度も確認する。間違いない。
ヤバい…かなりドキドキする…。
いざ家を目の前にしたら急に帰りたくなりました。
”忘れられていたらどうしよう…。そもそも生きているのだろうか…?”
そんな思いがよぎったからです。
でも…今行かなければ、もう二度と行かない気がする…。
そう思った僕は、勇気を出して呼び鈴を鳴らしました。
男の人が出てきました。おそらく継母のお兄さんです。
小学生の事に義祖母の家に行った時、この人は優しくなかった。
そんなことを思いながら用件を伝えました。
『あの…隆生ですけどばあちゃんいますか?』
あぁ…とだけ言い残して、一旦その男の人はいなくなりました。
少ししてばあちゃんが出てきました。
会うのは20数年ぶりですが、会った瞬間に分かるものですね。
ばあちゃんは驚いた様子で、
『隆ちゃん…よく来たねぇ~。』
僕はぶわっと感情が溢れだしました。
『ばあちゃん…僕ね、結婚したんだよ。あの頃、優しくしてくれて本当にありがとう。
ばあちゃんにお礼をずっと言いたいと思っていたから…だから今日は来たんだよ。』
ばあちゃんは泣いていました。
ありがとう…ありがとうって言いながら。
最後に僕は、長い長い握手をしました。その手の温もりを忘れないように。
ばあちゃんの手は小さいけど温かい温かい手でした。
"どんな親だろうと恨んだらダメ。
恨みは何も生み出さないんだよ。
隆生は隆生らしく精一杯生きなさい"
ばあちゃんに言われた言葉です。
この言葉の意味を理解するのはまだしばらく先の事ですが、
心に深く…深く刻まれた言葉でした。
お礼を言いに行ってから1年経つか経たないかのある日、継母から電話がありました。
”ばあちゃんが亡くなった”
との連絡でした。
あの時に会っておいて本当に良かった。
お礼を言えて本当に良かった。
ありがとう。今まで本当にありがとう…ばあちゃん。
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