プログラムの講師(6)

前話: プログラムの講師(5)

研修は最終日を迎えた。何事も始まりがあれば終わりがある。
最終日の朝、4人脱落、30人合格で、残り4人が今日合格するかどうかという状況だった。
ノルマとしては、6人のうち2人を合格させればOK。
だが、4人は完遂することは不可能で、あとの2人が達成できるかどうかの瀬と際といった感じだった。
合格したものたちは、達成感と開放感に浸りながら、追加問題をこなしている。
また、早々と脱落した4人も、SQLという言語に集中して少しでも他と差別化を図ろうと努力している。
達成不可能な4人は気が抜けていた。もう頑張ってもどうしようもないし。。。といった気持ちだろうか。脱落組みに入れて置いてあげたほうが良かったのかもしれない。

そして、今日合格するかどうかの二人。生徒の仲で一番焦燥していた。もう答えを教えてくださいといわんばかりに質問してくる女性Aさんと、本当にわからないときにしか質問しない女性Bさんの二人だ。
Bさんは今日一日使えば、順当に行けば合格するだろうと私は考えていたので、Bさんは相方にまかせ、Aさんを担当する形となった。

「どうしても、これがわからないんです。なんでこうなるんですか?」
「これは一つ前のレベルでやったよね。覚えてない?」
「あっ、そういう風にやればいいんですね。ちょっとすすめてみます。」

強行してだましだまし進めてきたカリキュラムだから、まともに理解度を考慮していられなかった。
つまり、ほとんどの生徒がなんとなく合格したってだけで、プログラムを書けるかっていったら、趣味でやってましたくらいの理解度しかないと思う。いや、趣味でやってる人のほうが理解度があるな。やりたくてやってるから。

そうこうしてたら、相方が担当していたBさんが合格した。午後の2時ごろだ。
今日の4時に研修は終わることになっている。だからあと二時間だった。

「おめでとう。がんばったね。補修もでてたし、家でやってたのもわかってましたよ。」
「ありがとうございます!目標達成できてよかったです。」
「おつかれさま。」

この直後Aさんのストレスが爆発したのだろう。
Aさんは泣き出してしまった。

「どうしました?」
「・・・ちょっと体調が悪いです。」
「そうですか、では別室で休んできてください」
そしてAさんは部屋を出て行った。

おいおい、あと2時間しかないんだぞ。
それからしばらくしてAさんは帰ってきた。もう3時になっていた。

「気分大丈夫ですか?」
「はい、もう大丈夫です。」
「じゃあカリキュラムの終わりまでもう少しなのでがんばりましょう。」
「あのぉ、この問題と次の問題がおわれば合格ですよね?」
「そうだね。」
「どうしてもこの問題が分からないので答えを教えてもらえないですか?ちゃんと家で復習するので、お願いします。」
私は迷った。正直言ってこのやり方は汚い。泣いて別室に一時間もいてそれから不正に合格させてくれと頼んでくる。汚いというより、したたかといったほうが近いか。
こっちとしてもノルマ達成の上、好条件だ。
私が迷ったのは、この研修の2ヶ月の最後の最後でインチキしたほうがいいかどうかだ。
先に書いたとおり、良いことはある。だが、私はこういうインチキは嫌いだ。
インチキにもしてもいいインチキとしてはいけないインチキがある。

「答えを教えることはできない。自分でできなのなら、合格はさせれないよ。時間がすくないけどがんばって。」
私の結論だった。

そして、研修は4時に終わった。
壇上でこれから職場でがんばってくださいといった適当な挨拶をした。

それから、数時間後の会議で、ノルマに達成できず申し訳ありませんでしたと上司に謝った。
「ぎりぎり行かなかったですね。でも達成できなかったということですね。」
おっしゃる通り。
「まぁ、これからみんなでお疲れ様会でもしましょう。」
そういわれ、近くの飲み屋に繰り出した。

適当に話を合わせて飲みながら、この2ヶ月を振り返り、あれはもう少しこうできたな~とか、インチキ認めるべきだったかな~など考えた。

こうして、ただのプログラマーがプログラムを教えに行くという仕事は終わった。



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