景洪で起きたあり得ない事件 投資家として飛行機なしの世界一周 その7

 ラオスの古都、ルアンパバーンから、中国の雲南省、シーサンパンナ・タイ族自治州にある景洪に向かう。シーサンパンナは中国ではあるが、国境近くにあり、ラオス人も含めたタイ族が多く住む地域だ。
 ラオスと中国の国境は、日本じゃ考えられないほどのオフロードで、バスがジャンプしながら進むような山道だった。アジアの深夜バスはスリーピングバスといって、バスの中に二階建てベッドが並んでるタイプが多いのだが、寝ているとバスが跳ねて、自分の体が宙に浮くほどだった。でもこの頃にはそういうのにも慣れてきていて、あまり苦痛に感じず普通に寝ていた。

 
 当初は中国側の国境の町で一泊する予定だった。けれど景洪に向かうバスがすぐ出るというので、そのまま乗ってしまった。

 そのバスの中でリーという英語がしゃべれる中国人の若者に出会った。長方形の眼鏡をかけた、中国ならどこにでもいるようなごく普通の青年だったが、小綺麗なシャツを着ていたのでほかの乗客に比べると立派なビジネスマンに見えた。彼は仕事で雲南省に来ていて、次は景光に寄るという。僕もリーと同じく景光に二、三泊泊まるつまりだと言うと、
 「実はこれから仕事でよく使う社宅みたいなところに泊まるんだけど、ツインの部屋でベッドが一つ空いているんだ。良かったら半額料金で泊まらないか?普通のホテルよりかは安いと思うけど。」
 と提案してきた。

 いつものごとく、こういう時はすごく迷う。当然ながら、彼が善良な人間であるという保証はどこにもない。外国の見知らぬ土地で相手から提案してきた場合、何事も疑ってかからなければならない。どうして自分を誘ってくれるのか。変なところに連れ込まれて面倒なことになったりしないだろうか。宿泊中、荷物を盗まれたりしないだろうか。しかも桂林で会った劉のように、泊まった宿でたまたま会って、仲良くなった後に一緒に旅をしようというのではなく、得体の知れない宿にこれから行って、一緒に泊まろうというのだから、普通だったら警戒してお断りしなければいけないところだった。僕はもともと職業柄、最悪のケースを想定してしまう癖があった。

 ただ、このときは多少事情が違っていた。まず景洪は中国ではあるが、シーサンパンナ・タイ族自治州の中心地であり、タイ族が多く住む地域であること。そして今はタイ文化圏にとっての旧正月であり、水掛け祭りの真っ最中であるということ。つまり、宿が嫌になるほど高い。通常の二、三倍は当たり前だった。それに対してリーが言ってきた金額は、祭りの最中でなくてもかなり安いと感じる金額だった。

  怖がってばかりでは何も始まらない。今のところ善良そうなただの若者だし、部屋を見るだけ見ることにしよう、と思った。

  結論から言えば、部屋は社宅ということで、安全そうだった。キッチンもついていて、広くて綺麗だった。リーも今のところは親切で優しく、疑ったことに罪悪感を感じるほどだった。それでも油断はできなかったが、泊まることにした。リーはその日がなんと誕生日だったらしく、友達の女の子たちを呼んで飲み会をした。彼は今は違うところに住んでいるけれど、もともとは景光に住んでいたらしい。女の子たちは英語が喋れなかったし、そもそも誕生日会に見ず知らずの日本人が参加していること自体不思議なことだったけれど、皆よくしてくれて楽しい夜を過ごした。そのときは、あんなことが起ころうとは予想もしなかった。

 翌日、彼は仕事だというので、僕はタイ族が集まる町に出かけた。今回は見てるだけで参加しなかったが、水祭りは相変わらず楽しそうだった。帰ると、部屋でリーに写真を見せてあげた。いうのにも慣れてきていて、あまり苦痛に感じず普通に寝ていた。


 三日目は、リーと初日に一緒に飲んだ女の子達と一緒に、景洪を観光した。
 そして夜、そのままクラブに連れて行かれた。中国では初めてのクラブだったが、ボーカル付きのテクノが流れていて、ポップな感じだった。でも客はあまり音を真剣に聞いているでもなく、踊っているでもなく、ただ飲んで騒いでいるという感じだった。一緒に来た女の子たちもしこたま飲んでいた。しばらくしてゲームが始まった。ゲームと言っても、ただじゃんけんをして負けた人がビールを一気飲みするという単純すぎるゲームだった。しかもそれは延々と続けなければならなかった。僕は吐くほど飲まされ、女の子に、
「僕お酒弱いんで勘弁してください」
 と言っても許してくれない。かなり怖い目つきで
「はぁ!?私が飲んでんのにあんた飲まないの!?」
 とキレられる。この国では女性にお酒を勧められたら、男は必ず飲まなければいけない、と言われた。僕の周りにも酒飲みはいるけど、こいつらの飲む量は尋常じゃない。普通の食事の油の量もそうだけど、中国人は胃の構造が日本人とは違うみたいだ。それともこいつらだけだろうか。

  三日目は、リーと初日に一緒に飲んだ女の子達と一緒に、景洪を観光した。
 そして夜、そのままクラブに連れて行かれた。中国では初めてのクラブだったが、ボーカル付きのテクノが流れていて、ポップな感じだった。でも客はあまり音を真剣に聞いているでもなく、踊っているでもなく、ただ飲んで騒いでいるという感じだった。一緒に来た女の子たちもしこたま飲んでいた。しばらくしてゲームが始まった。ゲームと言っても、ただじゃんけんをして負けた人がビールを一気飲みするという単純すぎるゲームだった。しかもそれは延々と続けなければならなかった。僕は吐くほど飲まされ、女の子に、
 そして事件は起こった。

 クラブから帰ると、かなりクタクタだった。ただリーは寝たくないらしく、ずっと話し続けていた。次の日は大理に行くことが決まっていてバスも予約してあったし、リーにはかなりお世話になったので、まぁいっかと思って話に付き合っていた。

 でも三時を過ぎて四時を回ると、さすがに限界に近づいてきた。もう寝ようと何回か言って、なんとか寝ることになった。けれど僕がベッドに入ると、リーは僕のベッドに乗ってきて、背後から僕を抱くような形で横腹らへんを揺さぶり、
 「最後の夜なんだからまだ寝るなよ」
 と執拗に迫ってきた。

 今更だけど何故かリーは、いつもやたらに体を寄せ付けてきた。ゲイの話題を持ち出した時もあった。
 ずっと男と生活しなければならなくなったらどうする?
 変だなとは思っていた。一度僕のパソコンの写真を部屋で見せてあげたときは、男同士ではありえないほどに体を摺り寄せてきて、かなりの気持ち悪さを感じた。でもそれ以外はかなりいい奴だったので、あまり気にしないようにしてた。インドではゲイじゃなくても男同士で手をつなぐし、
 「まぁ地域によっては男同士が密着することにあまり違和感がないような文化もあるかもしれない」
 ぐらいに思ってた。

 でもこのときばかりは本気で気持ち悪いと思って、酔っぱらっていたのもあり、
「もう眠いんだ。寝かせてくれ!」
 と少し怒鳴ってしまった。そうしたら当然寝ることになった。かわいそうだが仕方ない。

 疲れていたのですぐに眠りに落ちた。


 そして、、、


 ありえない感触で目が覚めた。このとき、僕は幸か不幸か頭まで掛け布団をかぶっていた。でも足だけ出ていた。そしてその足が。。。

 なめられてる?

 足の指をしゃぶられてる?

 とっさに足を引っ込める。僕は完全にまぶたが開いていたけど、掛け布団のおかげで目が覚めてるのは気づかれていない。とりあえず向こうの次の行動に神経をとがらせる。
 今俺ホントになめられてたの?夢じゃないよね?
 でもしばらくすると向こうが立ち上がって、それによって僕のベッドの足のところに座っていたことが確かめられた。そして泣いている時独特の、鼻をすする音、嗚咽の音が聞こえてきた。しばらくして自分のベッドに帰っていった。なおじっとして聞き耳をたてていると、すぐにいびきをかいて寝始めたのが分かった。

 リーがかなり酔っ払っていたのは確かだ。

 でも、、、

 マジで?

 気持ち悪すぎる。信じられない。


 翌朝、物音で目が覚めた。僕はまだ頭から掛け布団をかぶっていた。しばらくすると、リーは外に出ていった。荷物の残り具合からして、仕事に出かけたのが分かった。

 このままバスの時間まで帰ってこなければいいと思ったが、昼ぐらいに帰ってきた。リーは平静にしていつもと変わらなかったので、俺も何も言わず普段どおりに過ごした。

 そして、何事もなかったように別れの挨拶をし、あっけなく別れた。

 向こうは本気だったのか、寝ぼけていたのか、酔っ払っていたのか、いまだに分からない。

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