アホの力 4-8.アホ、向き合う

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『前向きな気持ちで』『プラス思考で』リハビリをと言われ、そのように心がけて『頑張った』私だったが、『前向き』『プラス思考』でいる事に疲れてしまうようになり、こうしたやり方に疑問を感じ始めていた。
どんなに前向きに頑張っても、片麻痺で動かなくなった右半身がいきなり動くようになるはずもない。それどころかリハビリの効果は一進一退で、前日にはわずかに動いた手指が、今日は全く動かないなんて事は普通に有った。

そんな中で前向きでいようとする事は、とてもエネルギーを使う事なのだ。

『今日はたまたま調子が悪いだけ。自分には出来る!』

『明日になれば動くようになる。それを信じて頑張ろう!』
と自分を奮い立たせ、それでも落ち込んでしまう自分を

『こんな事で落ち込んではいけない。前向きにならなきゃならない!』

と自分を責めるのだ。
そうやって何とか自分を奮い立たせて、リハビリに向かうわけ。

疲れないわけがない。

 

そんな日々を送っていた頃、自分の身体の事で、ふとある事に気が付いた。
その頃の私の右手の手指は、完全にグーのまま丸まって硬直し、全く伸ばせなくなっていた。
右腕もだらりとして全く力が入らず、動かす事は出来なかった。
ある朝、目覚めた私は、ベッドの上で大きく伸びをした。欠伸もしながらだったかも知れない。
すると、一瞬だったが、固まって動かなくなっていた右手の手指が伸び、右腕が頭の上まで上がった。
動いていた時間はほんの1~2秒だったが、確かに動いた。
『これはどういう事だろう?』
ネットで調べてみても載っていない。けど、もしかしたらこれは良いんじゃないか?

『良い傾向』だとかそんな事では無く、この状態をどうにかうまく使えないだろうか。
そこでなぜ動くのかという事を、理学療法士の先生に尋ねてみた。
先生曰く、伸びや欠伸の時に身体が動く事を『不随意運動』といい、自分の医師とは関係なく、無意識に体がそうしてしまう動きなのだという。

つまり、普段は運動の回路が破壊されて動かなくなっている私の右半身も、この不随意運動の回路が開く伸びや欠伸の時は動くのだという。

脳梗塞の麻痺のリハビリは、早い話が『動かなくなっている箇所を動かして、動きを思い出させるトレーニング』だ。ならばこの不随意運動が起こる伸びや欠伸の時、手足を動かせば、リハビリになるのではないか。

というわけで、その日から私は、伸びや欠伸が出そうになるたびに手足や手指をジタバタと動かしてみた。

すると1週間ほどで、先ずは右手の小指が少し動き始め、次に薬指、さらに中指と、順々に動きが出始めた。



これは『前向きに』『努力した』結果では無い。

自分の身体のありのままをきちんと見て評価し、効果が上がるであろう方法を自分なりに見つけ、それに淡々と取り組んだ結果だ。

気持ちを『前向きにしよう』だなんて思う必要がなかった。



つまりはこういう事なのではないか。

自分の身体の状態と、前向きも後ろ向きも無く、そのままきちんと向き合って、どんな特徴があるのか、出来る事は何か、出来ない事は、どこがどう動かないから出来ないのか、これらの事を、希望的観測で見ずに評価する。

それに従って、一番効果が出そうなリハビリのメニューを決め、心の状態に関わらず、淡々とそのメニューをこなしていく。

大事なのは気持ちじゃなく、冷静に向き合う事じゃないかと。



もちろんリハビリのメニューをこなしていく事に頑張りは必要だけど、この『ありのままと向き合う』視点があれば、リハビリの効果がすぐに上がらなくてもヘコまないし、日々の身体の状態にいちいち一喜一憂もしなくて済む。

余計なエネルギーを使わないのだ。



これ以降、私は『前向き』『プラス思考』を封印した。

すると、違う効果も現れてきたのだ。

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