アホの力 4-28.アホ、退院する

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ついに退院する時が来た。
元日に救急搬送されてから7ケ月の入院生活。入院当初は生きて再びシャバを歩く自分の姿をイメージ出来なかった。
その後、退院後自分がどうありたいか構築できるに従い、徐々に身体の機能も回復していく。そうするとシャバに帰りたいという気持ちも湧いてきた。

しかし、退院間近になると、また違った感情が湧いてきた。
病院の外の世界に適応できるだろうかという不安感と、恐怖感だ。

 

病院内の平らな所なら杖歩行も出来るようになったが、シャバはどうか。健常者は気付かないだろうが、シャバの地面はでこぼこだ。平らに見える場所も常にアンジュレーション(うねり)があり、当時の私は、そのアンジュレーションで転んでしまうような有様だった。段差を超えるどころの話では無い。
ゆっくりしか動けなくなっている私が、街の人の流れに乗る事が出来るだろうか。エスカレーターには乗れるだろうか。
その他にも不安は数えきれない。

退院はしたい。でも怖い。

この気持ちはどうしようもない。

何故なら、不自由な体になって以来、『外泊』した事はあっても、シャバで『生活』するという経験は全く未経験だったからだ。
未経験な事柄に感じる不安は、経験して解消するしかない。
それに不安な気持ちがあろうがなかろうが、退院しなければならない日は決まっていた。

さぁ…退院だ。

 

お世話になった病院スタッフに別れの挨拶をして廻り(記念写真などを撮りながら)、退院前日から身支度を整え(長期入院だったので(ベッド周りの片づけも時間がかかった)、おふくろに病院まで迎えに来てもらい、駅息のタクシーに乗り込む。
そう、公共交通機関で帰ろうとしていたのだ。いきなりシャバの荒波に漕ぎ出していくのだ。
病院の最寄駅から高崎駅に移動し、そこから大宮駅まで行き、大宮駅の人混みの中電車を乗り換え、実家の最寄駅まで行く電車に乗り込む。
移動時間は1時間半ほど。
電車の車内では座る事も出来ず。けど、何とか乗り切った。かなりゆっくりとしか動けなかったので、周囲の人にはさぞかし邪魔になっていた事だろう。だが、何とか乗り切った。
この『乗り切った』という事が、小さな成功体験として私の中に残った。
『もしかしたら…やって行けるようになるかも。今すぐにはちょっと難しいけど。』

さぁ、これからどうなるんだろう。

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アホの力 5-1.アホ、シャバに漕ぎ出す

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