ダイアログインタビュー ~市井の人~ 井上禄也さん4

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インタビュー日時:2016年11月11日 12時00分~16時00分
インタビュー場所:南相馬市立図書館内 喫茶「Beans」
天気:晴天

◎チームカラー

――カラフルな国や社会が面白いとしたら、じゃあ南相馬ってどんなカラーを打ち出せばいいんでしょうね。

井上 そこはどういうカラーになるかは今のところ全然分からないわけですよ。ただそんな中で僕の出来る事ってのは、僕のカラーを出し続ける事。それぞれの会社さんがそれぞれの職種でカラーを打ち出せば、それだけでカラフルになっていく。これから経済情勢はどんどん厳しくなっていくだろうし、そんな中じゃあ攻めていかないと淘汰されちゃうんだろうなと思うんです。うちも商品を売っているからには、お客さんに選んでもらわないと。お客さんの選択肢から漏れてしまうと、「助けて~! 」と言っても助けてはもらえない。助けて欲しいならそれなりに、良い商品を作るといった努力をしなくちゃいけない。それをする事無しに口だけ開けて助けてくれるのを待ってたって、淘汰されちゃうだけだと思うんです。

――その辺りでさっきの経営理念の話と繋がってくるのかなと。自分の得意を活かして攻めていきつつ、自分の担える範囲を決めておくというか把握しておくというか。今の話はそういう話なのかなと思いながら聞いてたんですけど。

井上 ちょっと昔の経営理念って「お客様一番で売り上げあげます」が第一で、その次に「従業員を大事にします」と来る感じのものが多かったと思うんです。でも震災があって、従業員がみんな避難したわけですね。そんな中で思ったのが「人って物凄く大事だな」って事なんです。仲間って大事で、自分一人では何も出来ない、何をやるにしてもチームを作らないと駄目。尖がった事をしようにも尖がれないと。トップダウン式に「俺の言う通りにしろ」では、これからは成り立たないと思うんです。それは給料だけの問題でもないし。そこはチームとしての結束を持ってやって行く必要があると思うんです。で、そう思ってるなら、従業員にそれを伝えなきゃならない。だとすると、経営理念としてはまずは「仲間」なんですよね。一番に来る項目は「お客様」じゃない。第一、お客様は経営理念に興味を示さないですよね(笑)。大事なのは、従業員を含めた「仲間を大事にする」という理念を第一に持って来て、従業員をハッピーにしてモチベーションを上げる事だなと。それがお客様にも良い影響を及ぼすんじゃないかと思うんです。経営理念って、作った段階から時間が経つと色々枝葉が付いてくるんです。でも、最終的に第一に掲げた部分、言ってみれば根幹の部分に戻ってくればブレないんです。

――なるほどね。

井上 で、さっきの南相馬市のカラーの話ですけど、南相馬としての理念って、打ち出せていないと思うんです。

――色んな人が色んな事を言いますからね。違う意味でカラフルだなと(苦笑)。

井上 色んな意見が出るんですけど、その色が薄いんですよね(苦笑)。それぞれの意見が骨太の理念を持っていたら色合いが出ると思うんですけど、みんなそれぞれの理念が見えない中でいろんな動きをしているから、ただ単に動いているだけになってしまっているなと。

――「自分のところはこうだ」という風に理念を打ち出す文化が、この地域には薄いのかも知れませんね。独自のカラーを主張しにくい部分もあるのかなと。最近、街として一つのカラーを出す必要性もあるのかなという気もしてるんですが。

井上 街としてのカラーは、シンプルなもので良いと思うんです。例えば「住民を大事にする」とか「外から来る人を大事にする」といった具合に。それが出ないから、色んな事に手を付けてしまう。六次化(一次産業が、商品の加工や販売・流通までを担っているという産業形態で、地域の活性化を目的として地方で取り組んでいるケースが多い)やイノベーションコースト構想やロボットや。市外向けに求人募集の案内を出してみたりもしてるし。それじゃあ色々あり過ぎて、行政の担当者も疲弊してしまうように思うんです。やるべき事とやらなくても良い事の選別も、行政はやらなくてはいけない。本当は六次化なんて、行政がやるべきじゃないと思うんです。どうやったって民業圧迫になるし。行政のやるべき事って、行政の立場からあると思うんです。市は国や県なんかからあれこれ言われてるのかも知れませんけど、そういう事に追われていると、行政の人も「自分は一体何のためにここにいるんだろう」という感じになるんじゃないかな。行政にも、志を高く持った人もたくさんいると思うんです。でも、だんだん「やらなきゃいけない事」が増えて、本当にやりたい事が出来ないと、志を持った人も志を見失ってしまう。そうなってしまうと、行政の機能ってどんどん失われていくんですよね。行政のパワーって、本当は物凄いものがあると思うんですけど、今の南相馬市の行政ってそれが拡散し過ぎてしまって、効果が出せていないんじゃないかな。

――それって、どこに原因があると思いますか?

井上 やっぱりトップじゃないですかね(笑)。組織の方針を打ち出すって、やっぱりトップしか出来ない事だから。トップが明確にターゲットを打ち出して、号令を発しないと。

――きちんと「戦略」と「戦術」を示さなければいけませんね。

井上 「良きに計らえ」では、組織は動かないと思うんです。例えば戦争するにしても、方向性が無いと勝てませんよね。指令は単純明快でなければならないと。

――ただ、行政機関って巨大な組織ですし、色々な意見や要望が寄せられる場所でもありますから、「良きに計らえ」になりがちではあるんですよね。それに、市の行政のトップでもある市長って4年ごとに選挙で代わっていくなんていう、ある意味面倒な事情もあったりして。となると、選ぶ側の意識もしっかりしないといけないんじゃないかという気はしますよ。

井上 選挙の結果の話をする時、民主主義での政治家って民衆の鏡みたいなもんで。鏡に唾したら、結局自分にかかってしまうみたいな。トップに選ばれようとする人は、その方向性を指し示して、選ぶ側はその方向性をきちんと見て選ばなきゃなんない。あれこれやってもらおうとして選んでは駄目なんでしょうね。「俺はこの街をこんな街にするんだ」という分かり易い話をしたほうが良いんですよね。分かり易い話の方が実行するのも楽で、スピードもつくし、改善のための検証にかかる時間も手間も少なくて済む。

――その辺りの話も、さっきの経営理念の話とかぶってきますよね。色々なところに手を付けようとせず、自分の得意なところに絞った、分かり易い方向性を打ち出していくという意味で。

■ チームは、何も野球チームや会社だけに使う概念では無い。「街」だってひとつのチームだと言える。その街がどんな街を目指すのかという方向性を持ち、その方向性を理念として街全体でしっかり共有し進んでいく。その方向性を共有するために必要なものは、やはり単純明快な分かり易さだという事だ。先に挙げた松永牛乳の経営理念も、この単純明快な分かり易さを備えていた。そしてそうしたものは、トップがきちんと打ち出すべきというのが、井上さんの持論なのだ。
ここまでお話を伺っていて思った事がある。そういった理念や方向性を打ち出すには、自分のチームをしっかり観察し、どういった理念が必要とされているのかを観察の結果から分析して導き出す事が必要だという事だ。そしてその観察や分析を行うには、センスや勉強が必要だ。井上さんも経営理念を作るにあたり、勉強したそうである。だからこそ、政治の在り方に一言申したい部分も出てくるのだろう。特に、トップに立つという意味では同じ立場と言える市長には、「こうして欲しい」という要望も生じてくるに違いない。
もちろん「街」という単位で考えた時、それを一つのチームとしてまとめる事は容易では無い。考え方や利害を違える人が大勢いるからだ。だけどやはり、街として進むべき方向性を示す事は必要だ。それが無いと街をデザイン出来なくなり、余計な時間や金、手間がかかってしまう。そしてそれを作る上で大事なのが、単純明快な分かり易さという事だろう。それを打ち出すリーダーシップをトップが発揮するには、きちんとそのスキルを身につける必要があり、松永牛乳のトップである井上さんは自らにもそれを課しているのだ。
~つづく~

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