「アイビーの花」

ボーダーコリーのアイビーが逝って4年が経ちました。

彼女の名前の由来は両眼の間から額にかけて白い毛が、上を向いたアイビーの葉の形をしているからです。

ある日、家族が誰もいない玄関の土間で倒れ嘔吐していたところを仕事から帰った妻が発見しました。
妻から知らせを受け、急いで獣医さんに診てもらい、左前脚にカテーテルを装着してもらい、8時間ごとに薬を注射をしました。口からは水や流動食を与え見守りました。2日目の夕方からは足を頻繁に動かし始め、家族と共に奇跡を祈りましたが、翌朝、眠るように逝ってしまいました。
覚悟はしていたものの、これほど辛いとは思いませんでした。
肚の中に石を呑み込んだような喪失感は、今も余韻となって離れません。
アイビーの居場所だった玄関土間の彼女用のトイレシーツやシャンプーの入ったラックの上に遺骨と写真と、大好きだったボールと首輪を供え、ささやかな祭壇をつくりました。春のことだったので庭に咲く花を毎朝、出勤前の妻が供えていました。
季節が進むにつれ庭の花が尽きるころカーポートのコンクリートと、お隣さんとの壁の隙間から小さな黄色い花が顔を出しました。小指の先ほど小さく、けれど色鮮やかな黄色の花にそっと水をやっていると、日を追うごとに成長し花は大きくなりました。
ある朝、妻が出勤する私を前庭まで見送り
「何かアイビーに供えるお花を買ってこようかな・・・」と呟きました。
「とりあえず、あの花を供えたら?」とカーポートの隅の黄色い花を指すと、妻は首を振って言いました。
「ここにはいつもお散歩の前やシャンプーのあとにリードでつないでいたところだから、この花はきっとアイビーだと思って…」
確かに、その場所で散歩が待ちきれずそわそわと足踏みしていたり、キレイになって、ふわふあの毛で行儀よく坐っていた彼女の様子が思い浮びました。
それからもこのアイビーの黄色い花は成長し、夏に二輪の花になり緑の葉も伸ばしてゆきました。台風の暴風雨にも耐え、秋まで咲き続けました。
あれから二度とアイビーの花は咲きませんが、本当に妻と私の悲しみを察して、ひと夏を見守ってくれたアイビーの咲かせた花なのかも知れません。
今も毎朝、土間の祭壇のアイビーの写真に声をかけ、耳のような形の骨壺のカバーを撫でて、私の朝が始まります。

著者の今橋 登夢さんにメッセージを送る

メッセージを送る

著者の方だけが読めます

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。