スタートライン 4

 澤田との話し合いはあっという間に終わった。予定していた時間を少しオーバーしてしまった位だ。家族の事もあるので、少し時間が欲しいと言われたが、「前向きに考えたい」という言葉はもらった。今している仕事もあるし、もしこっちに来るとなってもそれはすぐではないだろう。そして、やっぱり無理だと断りを入れられる可能性も勿論ある。それはそれで仕方がない事だ。そうなったらあきらめるしかない。彼には彼の人生があり、仕事はこの世界で無数にある。別にこっちにきて一緒に働かないといけないという理由はない。一緒に働きたい、というのは僕のエゴだ。僕の追い求める店に欠かせない存在だが、それは彼の夢ではない。経営というのは、様々なパターンを常に考えておく必要があると考えている。来てくれたらそりゃあ嬉しいが、もしもの場合も考えておかなければならない。

「かず、どうだろう、来るかな?」
「さあ、どうかな?こればっかりはわからないな」
 そうだよな、と窓の外の景色を眺めながら思った。どっちかはまだわからない。それは松田も同じ様だった。まっすぐ前を見ながら運転をしていたが、彼も僕のように不安を抱えている。
「もしかずが無理だったらどうしよう?」
「そうだよな、それ、考えておかないとな」
「他、誰がいいだろう?誰か思いつく?」
 そう言ったものの、他に思い浮かばない。未経験者ではなくて、一緒に働きたいと思う人間。業界的に、ダイビングショップをやめると、再びダイビングショップに就職する人は極端に少ないのが現状な世界のせいで、無理そうな人ばかりなのと、澤田みたいに、絶対また働きたい!と思う人はいなかった。しかし、もし彼が無理であった場合を考えておかなければならないし、彼が来ても、一緒に働きたい!と思う人材は多くても困らない。一人、思いつく人はいたが、すぐにその考えを打ち消した。まだやめていない人間だから、誘えない。本当は誘いたいが、僕はその名前を出さなかった。
「なかなかいないよな」
「そうなんだよな。来なかったらやっぱり求人を出すしかないか」
「それしかないな。嫌だけど。そもそも、来るとは思えないんだよな。これまでの経験からして」
「わからないぜ、今回は飛びっきりの人が来るかもしれないし」
「まあ、ゼロではないけどなー」
 出来ればそれはしたくない。求人広告を出す費用が無駄とすら思ってしまっている自分がいる。今は求人募集がどの業界でも溢れかえっている。そんな中、他業種に比べて格段に良い条件を出せない僕の店が選ばれる可能性は低いなんて誰でも想像が出来てしまう。働く人からしたら良い状況だけど、募集をかける小さな会社からしたら困った状態だ。

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