スタートライン 9

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 その男の第一印象は良かった。しかし、第一印象程あてにならないという良い例になった。

 挨拶を交わした後、さっそくカリキュラムに入った。ハンディキャップダイビングを実施する為にはその団体に所属し、専門的な知識と技術を身につけなければならない。既にダイビングインストラクターであっても例外ではない。その団体のインストラクターとして認定される為に、講習会への参加は義務付けされている。
 分厚いファイルを元に、学科講習が進められていく。知った内容がほとんどだが、体の構造に関して等未知の領域の部分は勉強になったが、すでに知識として脳にインプットされている話の時だけ、全く違う事を僕は考えていた。

 悪い癖だ。理由はわからないが、僕はよく「ここではないどこか」へ行ってしまう。意識が違う世界に飛んでしまうのだ。そうしない様に努めても一度として成功はしなかった。意識して違う世界に飛ぶ時もあるが、ほぼ気がついたら意識が移動してしまっている。いつからこうなったのかわからないが、少なくとも記憶がある幼稚園時代にはすでにそうなっていたと思う。この特徴に悩んだ事もあるが、楽観的な性格のおかげで、基本気にせず今日まで生きてきた。
 よく、「何を考えているかわからない」と言われる。どうやら意識が飛んでいる時に僕は無表情になるみたいで、その僕を見てそう思うらしい。確かに無表情の人は何を考えているかわからない。自分と同じような特徴を持つ人に出会った経験はないが、きっと僕もそういう人を見たらそう思うだろうから、「どうして何を考えているかわからない」と言うのだろう?とはならなかった。それに、これは何度か挑戦してみたが改善不可能だとわかっているので、気にしない様にしていた。
 あと、「何を考えているかわからない」と言われるもう1つの理由としたら、考えている事をすぐに言わないのも原因だとわかっている。これも僕はあまり変える気はない。元々はあまり考えずにポンポン話す方だったと思う。それがいつからだろう、よく考えてから話すのが当たり前になった。何故こうなったかというと、あまりにも考えずに何でも話す人間だと気づいたからだ。良い事ばかり話すのだったらいいが、悪い事も深く考えずに話してしまう人間なんて、成長しなければならないと気づいた。

 何でも思った事を話して生きてきた人間なんて、変わる事など出来るのか?という考えもあるにはあったが、そういうおもいやりのない人間でいたくなかった僕は、どうすればそうならないかを考えた。試行錯誤した結果出した答えが、「何事もよく考えてから話す」であった。こうする事により、不快な気持ちにさせる頻度が大きく改善された。他の手段を見つけれていない今、これを変える訳にはいかない。こういう事をせずに出来たらどれだけ楽か、はあるが、もう誰かれ構わず傷つけるなんてしたくはない。
 そして、この「よく考える」が、違う世界に飛ぶ頻度を高めたのでは?という疑惑もあるが、それ以上にいい事もあった。
 常に考えるという習慣が作れたのだ。これはもう完璧に心と体に染み付いていて、仕事のアイディアを生むポジションとしては大きな強みになっていた。マイナスな所もあるが、こういうふうにプラスな面もある。これは他の物事にも当てはまるのかもしれない。

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