ボーダーの私が『普通』になるまでの物語①

次話: ボーダーの私が『普通』になるまでの物語②

尿道にはチューブが通され、手首と足首はベッドに拘束。


身動きが取れない。


「しん」とした部屋。


 見えるのは少し黄ばんだ天井だけ。


 体と頭は元気なのに心だけが壊れてしまった。

 

 

【15歳。中学3年生 】

私は陸上部に入っていた。

走ることは好きじゃなかった。

誰かと競うことは嫌いだった。

負けることがとにかく怖かった。


この頃の私はいわゆる“いい子ちゃん”

学校の成績はオール『5』

先生が望んでいるであろう言葉を発し、行動した。

別にいい子ぶってるつもりはなかった。

私にはそれが『普通』だった。


常に何かに追われているような気がしていた。

楽しくなんかない。

楽しいって何?

どんな時、心の底から楽しいと思うのだろうか。

 

 小学生の私はとにかく気が強い子だったと思う。

誰にも負けたくない。

男子にも姉にも負けたくない。 

勉強も運動も誰にも負けない。

 

頑張れば何でもできると思っていた。

一生懸命やれば何でもできると思っていた。

自分は何でもできると思っていた。

 だけど、小学校高学年になると男子との差を感じはじめるようになった。

どんなに頑張ってもかけっこで負ける。

腕相撲でも負ける。

 今思えはすごく小さいことだけど、当時の私には初めての挫折だった。

 

小学校高学年。

少しずつ誰かと競うことが怖くなっていった。

 

 

【中学1年生。少しずつ壊れていく】

 私は中学受験をして、私立の中高一貫校に入学した。

中学最初の学力テストでは下から数えた方が早いほどの順位だった。

そこから何があったのか覚えていないが、最初の中間テストでなぜか学年2位になった。

それからは「順位を落としてはいけない」という気持ちに囚われていった。

いつの間にか勉強と部活、「常にトップクラスにいないといけない」という勝手な思い込み。

どんどん自分を追い込み、どうにもできなくなっていた。

自分にも周りにもとても厳しかった。

いつもイライラしていた。

通学の人混みは特にイラついた。

向かってくる相手に対して、「そっちがよけるのが当たり前」とばかりの勢いで混雑した駅を猛スピードで歩いていた。

友達もいたけど、どこかで見下していたような気がする。

誰かと一緒にいるのがしんどくて、一人になりたかった。

 

勉強、部活、友達、先生、家族。

 

自分はいったい誰なんだろう。

○○という体をかぶっているような感覚。

じゃあ私って誰なんだろ。

そんな変な感覚を感じるようになっていた。

 

この頃から私は授業中に自分の手の甲をカッターで傷つけるようになった。

理由はよく覚えていない。

先生に気づいてほしい。

でも、絶対気づかれたくない。

「気づかれる恐怖」のような感情だけは今でも覚えている。

この頃の記憶は断片的にしかない。

正直、友達とどんなことを話し、何をしていたのかはあまり覚えていない。

とにかく勉強しなきゃ。

とにかく負けてはいけない。

そんな気持ちで毎日を生きていた。

毎日イライラ。すごくトゲトゲしていた。

友達にも無性にイライラすることもあった。

たぶん友達を傷つけたこともあったと思う。


勉強はとにかく大変だった。

帰りの電車の中で宿題をした。

膝の上にノートを広げ、シャーペンを使い、消しゴムのカスを出す。

周りの目なんて何も気にせず、周りの迷惑なんて何も考えていなかった。

家に帰れば夜中0時過ぎまで勉強をした。

「努力すれば何でも手に入る」

「努力してできないことは無い」

「できない奴は努力が足りないからだ」って本気で思っていた。


手の甲を傷つけることはずっとやめられなかった。

毎日何かに追われていた。

そこから逃げるのに必死だった。

成績が落ちるのが怖かった。

順位が落ちるのが怖かった。

そんな生活を約1年続けた頃、私の中で何かがプチっと切れた。

 

 これ以上無理だ。

 

このままだと自分が壊れるかもと思った私は、母親に公立中学への転校をお願いした。

母には「陸上部の時間がもっとほしいから転校したい」と伝えた。

母親は私の転校をすんなり受け入れてくれた。



【公立中学への編入】

環境が変わればきっと楽になる。

周りのレベルが下がれば楽になれると思っていた。

中学2年生の2学期から私は公立中学に編入した。

編入先は学区の中学校だったため、小学校が一緒だった子がたくさんいる。

私はワクワクと少しの不安を抱えて、初日を迎えた。

先生と一緒に職員室に行き、クラスに案内される。

不安はあるといっても、受け入れられると思っていた。

が、そう簡単にはいかなかった。

今考えれば当たり前だ。

私立に行った同級生が途中から公立に編入してくる。

みんなの頭には「なぜ?」が広がるだろう。

でも無条件に受け入れられると思っていた私は、何の説明もせず、受け入れてくれるのをただ待った。

そんな私に対して周りはどう接していいのかわからなかったと思う。

腫物にさわるような目で見たり、興味本位で話しかける人もいた。

「暴力をふるって学校を辞めさせられた」など意味不明な噂も流れた。


ある日、小学生からの友達にほんの少しだけ今の自分の不安や愚痴を漏らした。そしたら次の日、その話は一気に広がっていた。

誰も信用できないと思った。

私には小学生から仲の悪かった子がいる。

その子には相変わらず目の敵にされた。

今の私はよそ者で立場が弱い。

私がトイレに入っているとわかっていて、数人でわざと私の悪口を言っている。

だけど、たいして傷つかなかった。

それとも傷つかないように「つらい」という気持ちに蓋をしたのか。

いまいち当時の気持ちは曖昧だ。

自分の本当の気持ちと向き合う方法を知らなかったから。

転校してからの中学校生活では、だんだん自分が自分じゃないような感覚になっていった。

少しずつ別の自分になっていくようなそんな感覚。

周りがみんな幼稚に見えた。

幼稚に見えるのにそれを表現はしない。

溶け込むことに専念した。

私は心の中では周りの子を見下していたのだ。

そして悪口を言われたりする自分を「かわいそうな子」にして、悲劇のヒロインにしていった。

自分の本心は言わずに生活するようになった。

「いい子ちゃん」の出来上がり。


陸上部にも本当は入りたくなかった。

だって、頑張りたくないから転校したのに、部活に入ったらまた頑張らなければいけなくなるじゃないか。

だけど、顧問の先生に誘われた私は断りきることができず、「試合にはでなくていい」という条件で入部した。

まあ、そんな都合のよい話はなく、最終的には試合にも出るようになった。

試合が怖かった。

負けるのが怖かった。

期待に応えられないのが怖かった。

ダメな自分を見られるのが怖かった。

嫌だけどやらなきゃ。


自分はいったいどうしたいのだろう。

そんな気持ちを誰にも言えず、ただただ練習をしていた。

そんな時、顧問の先生から「もう少し身体を絞るとタイムが上がる」と言われ、人生初のダイエットを開始した。

が、すぐに挫折。

食べることが大好きで、今までダイエットなどしたことがなくやり方もわからなかった。

ここではじめて「ダイエット」というものを知った。

 

勉強も変わらず頑張った。

私立から公立に転校したから勉強する内容は難しくなくなった。

それでも決して楽にはならなかった。

教科書の内容を全て暗記するくらい。

とにかく良い点数をとるために勉強をした。

中学の成績はオール「5」

トップクラスの県立も狙えると言われたが、受験に落ちるのが怖くて推薦で確実に入れる高校に進学した。

この頃のことをふりかえって思うことは、確かに私は悲劇のヒロインを演じていた。

だけど、本当は傷ついていたのかな?

誰かに聞いてほしかったのかな?

自分が傷ついていることを認めるのが嫌だったのかな?

もし、この頃にちゃんと自分の気持ちと向き合えていたら何か違っていたのかな?

なんて考えないこともない。

だからこそ本当の自分が消えちゃいそうな人がいたら要注意だ。

少しだけ今の自分の本当の気持ちに耳を傾けてほしい。

まずは気づくだけでいい。

「あー、私って本当はこう思ってるんだー。なるほどねー。」

まずはそこからだと今の私は思う。

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ボーダーの私が『普通』になるまでの物語②

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