続編5 パパが女(アリッサ)になったとき LA発LGBTトランスジェンダー家族日記
義理のお母さん
アリッサはその日のテーマに合わせて服とかメークの色を決めるみたい。この日はHuntington Library というボタニックガーデンに出かけたので濃い緑。竹藪の前で写真撮ったからかぐや姫だね。アリッサは2時間くらい時間かけてしっかり化粧するから、そりゃ美しいよ。後ろにいるあたしがヨーダみたいに見えるじゃない。
昔、アリッサが男だったとき。同棲中だったわたしと彼が結婚を決め、タイから遊びに来ていた義理の両親に結婚の意を告げたとき、義理の母は、もの凄い形相で怒りました。怒りのために顔面が痙攣して、「許さない」「まだ早い」と猛反対しました。わたしは冷めた目で彼女を見て「大人になった息子に、どんなに地団駄ふんで、ダメだめ言っても聞くわけないのに」と彼女を哀れに思いました。
アリッサがカミングアウトした日、義理の母は燃え上がるような真っ赤な顔をして怒った後、がくんとうなだれ、そして真っ青な顔をしてさめざめと泣きました。そのときわたしは「どんなに喚いて足掻いて、怒って泣いても、もうあなたの息子はここにはいないんですよ」っていう冷めた気持ちと「辛いだろうな、悲しいだろうな」という気持ちが交差し、心がザワザワしました。たぶん「かわいそう」という気持ちのほうが強かった。彼女のもがき苦しむ姿にアリッサのカミングアウト直後の自分が重なって、哀れみを感じました。
義理の両親はそれまで年に2回最愛の息子と孫たちに会いにタイから遊びに来ていました。カミングアウト後は一切来なくなり、アリッサには「女性の姿をしたあなたをみたくないから、写真を送らないで」と言ったそうです。義理の母は長男のあの人を溺愛していたからこそ、受け入れることができなかった。可哀想なお義母さん。
そんな義理の両親が、約2年半ぶりにLAにやって来ました。ロングビーチから出港するクルーズでハワイとニュージーランドに行くそうです。今回は我が家ではなく、ロングビーチのホテルに滞在。正直かなりほっとしました。
両親に会う前、「さぞや緊張してるだろうな」と思いアリッサに心境を聞くと「全然平気、(カミングアウト後)愛のおとうさんに会うときのほうがめちゃくちゃ緊張した」だって。でもね、いつも以上にメークとヘアに時間かけてましたよ。美しい女性になった自分を認めて、受け入れてほしかったんでしょうね。
わたしはお義母さんと2人きりで会いました。彼女の今の気持ちを確認したかったし、不平不満、将来の不安をぶちまけたかった。夫を失ったわたしと息子を失ったお義母さん。結局、わたしの辛くて苦しかった気持ちを理解できるのはこの人だけだと思っていたし。
お義母さんは、2年の月日を経て、角がとれ、丸い人になっていました。「もうだいじょうぶですか?アリッサのこと受け入れることができますか?」とたずねたら「当たり前でしょ、自分のこどもなんだから」と淋しい顔で笑いました。ほっとして、気が緩み、わたしたち家族の近況報告をするうちに、なんだか自分の母と語り合っているような楽しい気分になりました。わたしの不平不満、苦労話をぶちまけたいとう当初の企みはどこかへ吹っ飛んで、「この人を安心させてあげたい」とおもいました。
わたしたちの結婚に必死で反対し、冷たい態度をとり続けた義理の母への密かな復讐劇は失敗に終わり、そのかわり、わたしは義理の母をもっと好きになりました。
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