「本当に心からみんなに感謝している」

一代で「世界のホンダ」を築きあげた名経営者・本田宗一郎さん
その生き様には、現代にも通ずるたくさんのヒントがつまっています。
何のために働き、何のために生きるのか。
1991年、本田宗一郎さんは亡くなりましたが、生前にこんなことを言っていたそうです。

『素晴らしい人生を送ることができたのも、お客様、お取引先のみなさん、社会のみなさん、
従業員のみなさんのおかげである。俺が死んだら、世界中の新聞に“ありがとうございました”
という感謝の気持ちを掲載してほしい』

宗一郎さんは66歳で引退し、いわゆる「会長職」に就いていません。
「終身名誉顧問」にはなったのですが、仕事からは一気に離れたそうです。
社長を辞めた後、宗一郎さんは何をしたかというと、日本中にある、ホンダの事業所、販売店、
工場・・・当時、700カ所あったそうですが、その700カ所すべてを回り、
すべての従業員一人一人と握手し、
『ありがとう、ありがとう、いつもありがとう!』と言い続けていたそうです。

しかも、中には、2~3人しか働いていないような、ものすごく田舎の販売店もあったのですが、
全部回ったそうです。そして、その後、海外事業部も全部回ったそうです。
全部まわって、一人一人と握手して…何年もかかったそうです。

周りの人たちは、
『ホンダの創業者が直々に握手しにいけば、社員のモチベーションはあがりますよね。
仕事をもっと頑張ってくれて、業績も上がりそうですよね。だから握手しに行くんですね』
って言っていたそうです。

でも、宗一郎さんはそんなこと、どうでもよかったのです。
自分がお礼を言いたいからまわっているだけだった。

ある日ね、田舎の販売店をまわった時に、車の整備をしていた人が、
「宗一郎さんが来た!」って聞いて、喜んで走ってきたんですって。
握手してもらいに。
で、握手をしてもらおうと思って、自分の手を差し出した瞬間に、
「アッ!」って言って、パッと自分の手を引っ込めた。
なぜかと言うと、手が油まみれだった。仕事中に急いで走ってきたから、
『今、洗ってきます!』って、手を洗いに行こうとしたら、
宗一郎さんは、その社員の背中に向かって、
『その油まみれの手がいいんだ!』
って言って、整備士を引き止めて握手したそうです、両手で。
そして、嬉しそうにその手をながめて、目を細めて、手の油のにおいをかいだそうです。

宗一郎さん、こんなことも言っていた。
『握手すると、みんな泣くんだ。そして、その涙を見て、自分も泣くんだ』

すごいですよ、この人。だから、本気ですよ。
この「ありがとう」は。

本当に心からみんなに感謝していたんですね。

『本当に心からみんなに感謝している』本田宗一郎


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