女上司と男部下、ジェラシーから始まる物語 前編

こんなにも不快な鳥肌を立てた経験は初めてだった。
これまでの鳥肌の記憶を思い返しても重なる感覚が一度たりともない。
誰もいない暗い夜道で何かの気配を感じとき、運転中に子供が目の前に飛び出したとき、震え上がるような想像を超えたパフォーマンスをみたとき。
そのどれとも違う新たな鳥肌の要因だった。
欲にまみれ、自分を見失う瞬間というのは恐ろしい。

平日の深夜、麻布十番で7,8名ほどの集団が立っていた。
深夜の電車のない時間であれば、タクシーに乗る可能性が高い。
私の前を走っていた空車のタクシーはその集団が手を上げている訳ではなく雑談をしている段階で乗ることを予想し待機していた。
一方通行ということもあり、自然と前方に停まる車の後ろで停止することになる、すると次第に集団が散らばりタクシーを止めた。
7,8名ほどの集団であれば、1台では足りない。
前方のタクシーともう一台、その後ろにいる私が呼ばれた。

男女バラバラに、自分の方向でグループになって乗り込む。
私のタクシーには
後輩で20代後半の男性一人、
先輩で30代前半の女性一人、
二名が乗って来た。
集団に別れを告げ、目的地を告げられた。
二人別々の目的地。
男性の自宅が先に来て、そのもっと先に女性の自宅がある。
最終目的地である女性の自宅まで行くと、それなりに悪くない距離になる。
営業終了の時間と帰る場所の方向とタイミングもよく、颯爽とタクシーを走らせ最初の目的地へと向かった。

車内では先ほどまでの飲み会についての会話の話が始まった。
一緒にいた集団と、その二人は同じ会社の社員らしい。
飲み会帰りの、密談っぽい二人の会話は
あの子はいい子、あの子はちょっと悪く見られがち
等と、それぞれの印象の話をしていた。

その話から繋がって、大島(仮)という男の話になった。

女「合コンをやるなら大島を連れて行ったら面白そうだよね~」
男「確かにそうっすね~、大島はモテるでしょうからね~」

その会話に出てくる大島は後ろに乗る男性と同期である。

男「あいつ、なんか可愛かったりする部分があるじゃないですか~」
女「そう、女心をくすぐられるからね~」
男「男でもあいつのかわいい部分としっかりしてる部分に惚れますよ」
女「へ~そうなんだ!?大島が他の子(女)と楽しそうに話してたら
ちょっとジェラっちゃうもん」
男「へー」
女「女性陣はみんなそう思ってると思うよ」
男「大島モテモテだな、ジェラっちゃうな~」

二人が笑う。
「ジェラっちゃう」はその会社での流行後なのかもしれない。

女「でも、私はもう合コンとか行くことほとんどないからな~」
男「あ、そっか既婚ですしね、どうですか?結婚生活は?」
女「まぁ、悪くはないよ」
男「へ~」
女「良くもないかな~」
男「良くないっていうのは?」
女「結婚前から同棲が長いからねー」
男「結婚したとてそんなに変わることがないと」
女「そう~」
男「へ~」

特に耳を傾けたくなるような会話ではない。

女「でもさー、合コンやったら久々に行きたいな~」
男「行ったらいいじゃないですか、行くくらいなら別に」
女「じゃあさ、小池がさ~、幹事やって開いてよ」

小池(仮)、車内にいる男の名は小池だった。
かれこれ20分近く喋っているが彼の名前が女性から発せられるのを初めて聞いた。

男「えっ、僕ですかー」
女「それで~、大島は絶対連れてきて」
男「大島来たらもう全員大島目当てだから僕行く意味ないですよ(笑)」
女「ははは、いや幹事大事じゃん(笑)大島を連れてくるという大事な役目」
男「いや悲しー!頑張って大島連れてきて、その大島だけがモテるって」
女「頼みますよ、幹事」

車内で続く会話の中で小池の名前を聞いたのは一度だけ、
大島という名前は何度聞いたことか。。。

男「やっぱり大島は居たほうがいいですよね~」
女「そうだね~、大島は絶対居てほしい」
女「それで~、大島は私がお持ち帰りしたい」
男「・・・それ、僕ジェラっちゃいますわ~」
女「・・・小池もお持ち帰りされたいの~?」
男「・・まぁ、されたいっすよね~」

会社のノリから発展して続いていた会話だった。
合コンをするなんて話題すら酔ってフザケていただけのはずだった。
しかしこの瞬間、空気が一変しいつものタクシーの車内が一つのドラマの舞台となるのを感じた。

薄赤い照明がフェードインされると同時にポップで魅惑的な空間を演出するBGMが聞こえてくるように。

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