女上司と男部下、ジェラシーから始まる物語 中編

前回の続き

――――
男「やっぱり大島は居たほうがいいですよね~」
女「そうだね~、大島は絶対居てほしい。それで~、大島は私がお持ち帰りしたい」
男「・・・それ、僕ジェラっちゃいますわ~」
女「・・・小池もお持ち帰りされたいの~?」
男「・・まぁ、されたいっすよね~」
会社のノリから発展して続いていた会話だった。
合コンをするなんて話題すら酔ってフザケていただけのはずだった。
しかしこの瞬間、空気が一変しいつものタクシーの車内が一つのドラマの舞台となるのを感じた。
薄赤い照明がフェードインされると同時にポップで魅惑的な空間を演出するBGMが聞こえてくるように。
―――

女「小池も、まあまあモテるんじゃない」
男「・・え、あ~、そうっすかね」

小池の反応は高まりが無い。
しかし、ぽつりと空いた間に隠せない喜びがひょろりと顔を覗かせているのを感じる。

女「大島がめっちゃモテるってだけで、私は小池も嫌いじゃないよ」
男「えー、マジっすか!嬉しいすね~」

女性の上司の激励の一言はこれまで周回遅れだった小池の存在感を相殺するが、未だ大島の陰に隠れている。
ただ一つ感じるのは、先ほどまでのノリで続いていた会話とは毛色の違った空間になっているということだろうか。
BGMも物語のはじまりを告げるように展開し始めている。

女「・・・小池は彼女いるんだっけ?」
男「・・いないっすね~」
女「・・・ふーん」
男「・・・。」

小池の自宅付近に近付いてきた。
麻布十番でお乗せしてからかれこれ20分くらい経っていた。
少々賑やかだった車内はひと段落ついており、想像上のBGMを切れば車内は静寂に包まれている。
その合間にテンポの悪くなった会話が聞こえるくらい。
ラジオからは微かにビタースウィート・サンバが聞こえていて、リピートされるトランペットの音色がオールナイトな雰囲気を醸し出し、二人の行方を惑わしているように感じる。

女「小池の家はもうすぐだっけ?」
男「そうっすね、もう少しッス」
女「・・・・。」
男「・・・・・・。」
女「・・・小池んちいこっかな~(笑)」
男「いやいや(笑)、何言ってんすか(笑)」

面白い流れになってきた、予想外とまでは言わないが。
女性の上司が沈黙を破るとその言葉は再びノリの雰囲気へと立ち戻る。
しかしこれもノリの一つなのか、それとも本気の隠れた探りなのか腹の中は見えない。
人間ドラマを垣間見れることにタクシー運転手の仕事の楽しみを見出してしまった私は、耳の集音範囲が広くなったかのようにクリアに言葉が聞こえてくる。
嫌な言い方かもしれないが、今回も間近でドラマを体験できそうで嬉しさがこみ上げている。

女「え~?なんで~?」
男「いや、普通そうでしょ」
女「トイレ借りたいんだけど」
男「あ、そっちかい」
女「え、なに?(笑)」
男「いや、なんでもないっす(笑)」
女「なんか勘違いしてな~い?」
男「してないわ」
女「えー、いま絶対人妻連れ込める!とか考えてた~」
男「考えてないっすよ」
女「ホントは~?」
男「・・ちょっと思いましたよ(笑)」
女「(笑)」

この女性の上司、どういうつもりなのだろうか。
小池には大島と言う同期がいて先ほどまで幾度もその大島の話題で持ちきりだった。周回走でいえば五週差は付けられているだろう。
その小池にとって、男という立場でこのことを鑑みると一気に形勢逆点とも言えなくない。
大島の話題にジェラっちゃうのが小池なのだから。

女「・・まぁ正直、不倫してる人なんて結構いるからな~」
男「いや、だからって、もったいないっすよ」
女「え?何?気に掛けてくれてんの?」
男「まぁ」
女「それとも何?同じ会社だから避けてる?」
男「え?どういうことっすか?」
女「同じ会社の人と寝てバレるの怖いの?」
男「実際ね、もしそんなことあったらバレたらメンドクサイっすよ、絶対」女「そうだよね~」
男「酔ってたから、では通用しないし」
女「そうだよな~」
男「てか、夫さんとはどうなんですか?」
女「あ~、たぶんあの人も浮気してるかも」
男「え~、そうなんすか?」
女「うん、別に早く帰りたい、って思わないね」
男「同棲が長いんですもんね~」
女「そう」
男「結婚も大変なんすね~」
女「大変というか・・・まぁ。。。」

ブレイクタイムだろうか、お互いに責める姿勢ではない。
それでも車内で唯一の聞き役である私だけはその空気を察知している。
小池はまんざらでもないはずだ。
まもなく小池がいう目的地に着く、最終的な停車場所などまだ聞くべきことはあるがいつ声を掛けようかタイミングがみつからない。
二人だけの空間となり、さらに彼は案内をしてくれる様子もない。

男「・・・・。」
女「・・・・。」

再び車内を静寂が包む。
信号の指示が複雑な交差点で左折を待つ時間が何度もウィンカーを叩かせ、
その音だけが車内で響いている。

男「てか、ホントに来るんすか?」
女「行ったらだめ~?」
男「いや、、なんか」

小池が口を開いた。
にらんだ通り、上司が家によることを願っているのか自ら話題を振る。
女性の上司は酔いなのか普段からなのか甘え口調が増し、それが更に小池を欲の渦中へと巻き込んでいく。
そんなことより、小池の目的地はどこなのか。
左折と言う指示したっきり彼はそれどころではない。
小池の降りる場所が知りたい、そこがこのドラマの重要なポイントでもあるのだから。

続く

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