タクシー運転手の日常「渋谷の輩」後編

乗せたことのある芸能人の話をすると、
男は猿のように手を叩き笑った。

この調子でいけば、この酔っ払いの輩もなんとかなるだろう。

そう思ったのも束の間、男は態度が豹変し言い掛かりをつけてきた。

男「おまえ、※ふぇいpqljだだろ?」

僕「え?あのもう一度、」

男「おまえが、さっき言ったんだろ!あー」

僕「え?何をですか?」

男「おまえ、ふざけんなよ!」

僕「いえ、ふざけてないです」

男は何かに苛立ったいるが、それが何かは分からない。
そして、ヒートアップするスピードが速い。

猿のように笑っていたところからおよそ30秒ほどで
もう怒りの頂点まで達していた。

僕「ちょっと、あの、お客様、僕は何かしましたか?」

男「だから!おまえが、△ふ;おhw開ける!!」

246という都内屈指の大通りを走る最中に
ガチャガチャと助手席の扉を開けようとしている。

僕「あーちょっとお客様、危ないですよ!」

男「チッ!お前が悪いんだろ?なぁ」

何が悪いのかは言ってくれないが、とにかく何かが悪かったらしい。
とはいえ、こちらは何もしていない、
むしろメンドクサクならないように煽てていた。

さっきまで芸能人の話を聞いて猿はどこにいったのか。

僕「(途中交番があればよるか~)」

そう考えながら、男の言った目的地を目指し続けた。

猿のように笑うところから一転、態度が豹変して怒りだした。
これはこれで猿のようだ。

僕「(途中交番があればよるか~)」

そんなことを思いながら、男の目的地へと向かう。

男「おまえ、これ、金払わなくてもいいよな?」

僕「それは困ります」

男「はぁ?なんでだよ」

僕「払っていただかないといけないもので、」

男「じゃあ止めろよ、」

僕「ここでですか?」

男「止めろよ!」

僕「こちらで宜しいんですか?〇〇まではまだですが」

男「うるせぇよ、払わねぇからな」

僕「それは困ります」

男「降ろせよ、お前降ろさないつもりか?」

僕「お支払い頂けたら降りて大丈夫です」

男「チッ!おまえ、俺さっきメーター止めろって言ったよな」

僕「そうですけど、それは出来ないですので」

会話にならない会話を、助手席の男と二人でしているのだが、
その場所は住宅街、近くに交番は見当たらないし、
ナビにも交番表記はない。

男「一回しょんべんするわ」

僕「どうぞ」

男「おまえ、開けろよ、出さない気か?」

僕「そちらは自分で開けるようになっているので」

男「何だよおまえ!その顔で見んなよ」

男は車内にかばんを置き、フラフラの状態で外の電柱で立小便をした。

戻ってくると、

男「何でお前メーター止めて走んねぇんだよ」

僕「そういうモノなので」

男「もういいよ、行けよ」

僕「行って宜しいですか?」

男「メーターは上げるな」

僕「それは無理です」

相変わらず、男は助手席に座っている。

「メーターを止めろ」と言いながら乗り続ける男、
会話がままならない状態で再び走り出した。

男「おい、これメーター止まってねぇだろ」

僕「はい、そうですね」

もうメンドクサクなってきた僕は、男の言葉を受け流し始める。

男「お前、これ止めろって言ったよな」

僕「はい、言ってましたね」

男「なんで出来ねぇんだよ」

僕「上がるようになってるんで」

男「はあ、お前舐めてんのか?」

僕「いえ、舐めてないです」

男「なあ、おまえふざけんなよ!」

僕「こっちは何もしてないですよ」

男「お前が話聞かないからだろ、メーター止めろって言ってんのに」

僕「それは無理ですって」

男「なんだお前、ああ?」

僕「はい」

男「降ろせよ」

僕「こちらで、降りますか?」

男「うるせぇ、降ろせよ!」

僕「かしこまりました」

男「払わなくていい?」

僕「いえ、払わないと困ります」

男「チッ!」

男はなぜか、自分が閉じ込められているかのように、
追い詰められているようになっていった。

メンドクサイ思いをさせられ、
その中に閉じ込められているのはこっちの方だ。

結局、料金は払って、目的地まで半分のところで降りていったが
もしかしたら、話を聞いてほしかったのかもしれない。
と今になって思う。

乗って来た時に先輩との飲み会が大変だったと言っていたが、
それがあまり楽しくない時間で憂さ晴らしがしたかったのだとしたら
付き合っておけば良かったと後悔した。

メンドクサイ客ほど、何かを抱えているかもしれない。


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