すべての神と仏に見守られる方法
<人生を垣間見る仕事>
仕事というもののほとんどは、人との触れ合いで成り立つんだけど、 「人生の危機的状況」に出会う看護師をしていると、 凝縮した人生を垣間見ることが多い。
<美しい人の余命がわずか、と言われたら>
不謹慎だけどドラマチックだ。 透き通る白い肌。細い腕とくぼんだ鎖骨、でも、貧相ではない。 品のいい高い鼻、琥珀色の大きな瞳。ぬれたようなまつ毛、というか、 本当にいつも涙ぐんでいた。余命半年だったから。 ~若い男性患者が入院してくると「21歳なの」と10歳サバをよむけど、 疑うスキがない、薄幸の美女。 ~病院食のデザートのプリンを真っ先に飲み込んでから、 「私のお盆に、プリンがないの」とナースコールを押す美女。 ~夜勤を理由に肌の荒れた看護師たちに、「私のお肌を触ってみて」と、 勝ち誇ったほほえみを(そう見えた)たたえる美女。 若い看護師たちは葛藤していた。「患者を悪く言っちゃいけない。」と。
<アイテム達>
病院には、難病の療養病棟もあり、 宗教家やボランティアの出入りを受け入れていた。 ガイドラインはあったけれど、患者が望めばベッドサイドに訪ねて、 祈りや説法やただのおしゃべりもしてもらえた。 美女は、身寄りがなく、訪問や、祈りの時間を多く希望した。 約束の日時には、引き出しからアイテムをだして飾り、 カーテンをぴっちりと閉じて、訪問者と過ごす。 老若男女の信者が日替わりでたくさんいて、賑やかだった。 「さみしいからまた来てほしい。」うるんだ瞳で懇願する美女に、 心動かされない人などいない。
<そして最期のとき>
ある夜に、彼女は息を引き取った。 若く男前の男性患者は、心配そうに様子をうかがいにきたので、 同僚は「天に旅立った」と美しい言葉を伝え、すかさず 「30年の短い人生でした」と付け加えた。 21歳だと信じていた彼は、え・・・ と声を発して、部屋に戻った。
ずっと言わずにいたことを思わずばらしたバツの悪さから、無言で持ち物を整理していたが、思わず同僚と私は、え・・・と声を発した。 ~マリア様。十字架。数珠。仏様。お札。水晶玉。。。 様々な宗派のアイテムが、無秩序にいっしょくたに入っていた。 こうなるともう、キャラメルのおまけにしか見えない。 そして、ベッド下の箱には、信者からの差し入れが入っていたと思われる、小さな容器がたくさん。
神も仏もないわいな。思わずそうつぶやいて、ちょっと切なくなった。 信仰心はわからないけれど、おしゃべりや、なぐさめや、差し入れは、 心の安らぎだったに違いない。
私と同僚は、誰かが訪ねてきても、 「30歳でした」とか「手当たり次第の宗教でした」ではなく、 「美しく安らかなお顔でした」と伝えた。
<すべての神と仏に見守られる方法>
宗教には詳しくないけれど、宗教とはなんだと聞かれたら、 安らぎを得ようとすることだと答えるだろう。 世界平和じゃなくてもいい。まずは自分の心の安らぎ。
彼女は人目をはばからず自分の心に正直にふるまい、安らぎを得ていた。
何かにあがくとき必要がある時には、 彼女のふるまいを真似できるように努力しよう。 そうして初めて、 神と仏に見守られる資格があるように思う。
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